熊本に本拠を置くアパレル生産のプラットフォーマー・シタテルが昨年末から非アパレル事業者向けに、受注から生産、配送までを一体化したECパッケージ「シタテルスペック」のサービスを提供している。https://sitateru.com/news/20200204_spec/
いったいどんな仕組みなのか。 非アパレルとはアニメやゲーム、アーチスト、インフルエンサーといった表現活動を行う事業者を指すようだ。彼らは紙や電波、デジタルなどのメディアを通して自ら制作したコンテンツなどを発信し、ファンやフォロワーを獲得している。それらの作品を衣料品化すれば、コンテンツビジネスは広がるはずだが、如何せん服づくりの知識や生産のバックボーンを持たない。そこで、シタテルが間に入ることで、非アパレル事業者が在庫リスクを抱えずに新たに服づくりにチャレンジできるようにするという。
背景には業界が直面する問題もある。アパレル各社がコストダウンと低価格化のために海外生産を押し進めた結果、市場規模を超えた数量が流通し、売れない商品が大量に廃棄されている。そうした現状から何とか脱却するには、資源や環境を意識し製造態勢や取引に目を向けた適量生産、適量消費が不可欠になる。こうした動きを非アパレルからも起こそうということらしい。幸い、アニメやゲームなどの世界では、制作者もファンもコンテンツに対し人一倍、愛着が強い。また、アーチストやインフルエンサーが生み出すクリエーションに共感するフォロワーは少なくない。
言い換えれば、生産するにしても先に売価ありきのサプライチェーンに組み込まなくていいという考え方もできる。そこで、シタテルがアニメやゲームなどの制作者が生み出すコンテンツを自社がもつプラットフォームのD2C(Direct to Consumer/生産者が消費者に対して製品を直接的に販売する)を活用して製品化。DNB(デジタル・ネイティブ・ブランド)という新興ブランドに位置付け、ECで販売するという。ターゲットはミレニアム世代以下の若い層が中心。この層は製品そのものより、価値観を重視するからで、前出のようにコンテンツに共感すれば、売価に関係なく購入していく可能性はある。
具体的な製造フローは以下だ。まず事業者(コンテンツ制作者)が思い描いた服の企画をシタテルがサポートし、サンプルを生産。次にサンプルの写真を専用のECサイトで公開して受注を取る。そして、注文の数だけ生産し、商品を購入者に個別に配送する。ミニマムロットは30枚。納期は2週間から1カ月程度で、これもロットや工場の稼働状況次第になる。支払いは、シタテル側から制作者にEC売上金額に20%前後の料率をかけたライセンスフィーを渡すというかたちだ。
ここまでの流れを見ると、シタテルがもつプラットフォームやネットワークで、企画から製造、販売までがスムーズに行き、コンテンツ制作者と製造業者がウィンウィンの関係になるように見える。だが、実際のところはどうなのだろうか。まず、アパレル音痴のコンテンツ制作者とシタテルとのコミュニケーションがネット上でスムーズに行くかどうか。専用のサイトにはサービスのフローが説明されているが、詳細の打ち合わせや確認はメール次元では難しいと思うし、iChatなどが必要かもしれない。そちらの方はアニメやゲームの事業者が得意とするところだろう。
では、企画製造するアイテムはどんなものか。実際に製造するアイテムがわからないので、あくまで仮の話になるが、アニメやゲームのキャラクターをそのままTシャツなどにプリントするなら簡単だ。キャラクターのコスチュームを製品化するのはどうか。ゲームショーなどにはコアなファンが自分で手作りしたコスチュームを着て参加している。とすれば、シタテルのネットワーク内にいる業者でCADやCAMをもつ工場なら、不可能ではないだろうが…。もちろん、アーチストやインフルエンサーが作りたいリアルクローズもだ。
シタテルは、 インターネットを使って不特定多数の人や企業に業務を委託するクラウドソーシングをもとに、小売店などから注文を受け製造工場に発注するシステムを確立した。それはブランドメーカーのOEMを担う国内50社の製造工場と提携し、各工場の受注状況や技術的な特長をデータベース化して、顧客にあった最適な工場に製造を発注するものだ。今回のシタテルスペックもこうしたシステムが下敷きになる。
工場は量が多い仕事を受けたい
ただ、いつも懸念されるのが、非アパレル事業者のようなズブの素人と縫製工場が上手くやっていけるのか。間にシタテルが介在するにしてもだ。同社の河野秀和社長が語る「在庫リスクを抱えず、初期費用なしで新たな服作りにチャレンジ」「無駄な在庫を出さない同サービスによって、アパレル業界の適量生産・適量消費を推進」との大義を掲げているが、工場側とて収益を上げていかなければならない。また、ECでのサンプル展開で、どれくらい受注が見込めるのかは全く不透明だ。ワールワイドのマーケットを設定してもである。
縫製工場は生産性を上げる上で、まず稼働率を重視する。次に1枚当たりの工賃だ。そして受注ロットが多いにこしたことはない。工場としては、業務中はミシンがずっと動き、縫製工賃が高く取れ、ロットが大きくて仕事が切れ間無く入ってくれば、儲かるのだ。シタテルは日本国内工場とネットワークを結んでいるとは言え、どんな工場にも生産効率が適性な品種で、自社が得意とする仕様、ロットの枠がある。今回のサービスのように受注生産で仕様がわからず、ロットも不明では非効率で採算が悪くなることが予想される。
仮にアニメやゲームのキャラクター衣装を実際に製造するとなると、接ぎのパーツが複雑になるのは言うまでもなく、縫製以前の行程が長くなって稼働率は下がってしまう。しかも、アーチストやインフルエンサーが無謀にもコレクション次元のクリエーションを作りたいと言い出すなら、仕様が複雑になるのはいうまでもない。慣れない作業が新たに増えれば、パートさんたちはたいへん。それをやって、シタテルが余りある工賃を払ってくれるのかである。
製造ビジネスを考えると、ミニマムロット30枚では大した収益にならない。河野社長がわざわざ記者会見まで行ったのだから、提携工場側の応諾は得ているとは思うが、本当に工場側の受入れ態勢は大丈夫なのだろうか。工場からプレミア工賃を要求され、シタテルのマージンや制作者側に支払うフィーを乗せると、売価は否応無く高騰する。いくら世界中にはキャラクターアイテムを求める顧客が大勢いる、コアなファンはほしいアイテムならカネに糸目を付けないと言ったところで、市販アイテムの10倍、20倍にもなると、売れるとは思えない。
また、アーチストやインフルエンサーが作りたいアイテムにはシーズンがある。いくらECを使ってサンプルによる受注販売と言っても、お客が夏物を購入したのに納品が冬場にズレ込んだのでは意味が無い。工場の稼働状況がネットで確認できると言っても、閑散期だからこそロットの多いものを入れたいのが工場の本音。そんなに都合よくいくのだろうか。端からミニマムロットの30枚を製造する見切り発車するならいざ知らず、受注販売を行うなら納期スケジュールも重要なのはわかりきったことだ。
昨今、盛んに言われているエコ、エシカル、そしてサスティナブル。限りある資源を大事にし、地球環境に負荷をかけず、なおかつ製造現場の態勢にも配慮するには、企画・生産から卸し、販売までのフローを見直し、適量生産で余剰在庫を出さないこと。それは正論である。しかし、国内工場にしても製造でメシを食っているのだから、サンプルのEC展開、受注生産で限られるロットの仕事をずっと受けていけるかには首を傾げてしまう。それこそ、このサービスが持続可能な次元なのかも考えなければならないのだ。
現時点では、いったいどういうアパレル商品が企画されるかがわからないので、これ以上のことは言及できない。シタテルが創り上げようとしているDNBとは、クラウドソーシングをベースにD2C、エンドユーザーと直接の接点、高い関係性、データと分析力を起点に、非アパレル事業者でもビジネスを成功させられるブランドだそうだ。河野社長は外資系金融マンから経営コンサルタントを経て起業したお方だけに、ベンチャーや起業家受けするするキーワードを舌鋒鋭く語ることには、長けていらっしゃるようにお見受けする。
ただ、シタテルとてクラウドソーシングによりアパレル生産を事業化している以上、物理的に仕事の量が増えないと収益は上がらない。当のアパレルが厳しい中では、非アパレルまでと取引しなければならないのが本音ではないのか。熊本市に本社を置くとは言え、東京にも支店を開設しているのは、そちらの方がアパレルメーカーが数多く存在するからだ。結局、ネットで繋がっているから、どこでも仕事ができるというほど、アパレルは甘くないという現実をシタテルの営業体制が示している。
おそらくアニメやゲームの制作者も、河野社長が宣うSDGs、適量生産、適量消費には共感をもったと思う。アーチストやインフルエンサーも、在庫を抱えなくてビジネスできると聞けば、その気になるのは当然だ。ただ、クラウドビジネスは本当にアパレル業界の構造的問題を解決してくれる全能の神なのだろうか。筆者のように旧態依然のアパレルしか知らない人間からすれば、どうしてもネガティブに考えてしまう。「新しいことに踏み出す情熱や意思がないから、ダメなんだよ」と言われそうである。
ならば、どんな商品がどんな価格で販売され、どこまで顧客を開拓できるか。期待半分、懸念半分で、シタテルスペックの動向を見ていくことにする。
いったいどんな仕組みなのか。 非アパレルとはアニメやゲーム、アーチスト、インフルエンサーといった表現活動を行う事業者を指すようだ。彼らは紙や電波、デジタルなどのメディアを通して自ら制作したコンテンツなどを発信し、ファンやフォロワーを獲得している。それらの作品を衣料品化すれば、コンテンツビジネスは広がるはずだが、如何せん服づくりの知識や生産のバックボーンを持たない。そこで、シタテルが間に入ることで、非アパレル事業者が在庫リスクを抱えずに新たに服づくりにチャレンジできるようにするという。
背景には業界が直面する問題もある。アパレル各社がコストダウンと低価格化のために海外生産を押し進めた結果、市場規模を超えた数量が流通し、売れない商品が大量に廃棄されている。そうした現状から何とか脱却するには、資源や環境を意識し製造態勢や取引に目を向けた適量生産、適量消費が不可欠になる。こうした動きを非アパレルからも起こそうということらしい。幸い、アニメやゲームなどの世界では、制作者もファンもコンテンツに対し人一倍、愛着が強い。また、アーチストやインフルエンサーが生み出すクリエーションに共感するフォロワーは少なくない。
言い換えれば、生産するにしても先に売価ありきのサプライチェーンに組み込まなくていいという考え方もできる。そこで、シタテルがアニメやゲームなどの制作者が生み出すコンテンツを自社がもつプラットフォームのD2C(Direct to Consumer/生産者が消費者に対して製品を直接的に販売する)を活用して製品化。DNB(デジタル・ネイティブ・ブランド)という新興ブランドに位置付け、ECで販売するという。ターゲットはミレニアム世代以下の若い層が中心。この層は製品そのものより、価値観を重視するからで、前出のようにコンテンツに共感すれば、売価に関係なく購入していく可能性はある。
具体的な製造フローは以下だ。まず事業者(コンテンツ制作者)が思い描いた服の企画をシタテルがサポートし、サンプルを生産。次にサンプルの写真を専用のECサイトで公開して受注を取る。そして、注文の数だけ生産し、商品を購入者に個別に配送する。ミニマムロットは30枚。納期は2週間から1カ月程度で、これもロットや工場の稼働状況次第になる。支払いは、シタテル側から制作者にEC売上金額に20%前後の料率をかけたライセンスフィーを渡すというかたちだ。
ここまでの流れを見ると、シタテルがもつプラットフォームやネットワークで、企画から製造、販売までがスムーズに行き、コンテンツ制作者と製造業者がウィンウィンの関係になるように見える。だが、実際のところはどうなのだろうか。まず、アパレル音痴のコンテンツ制作者とシタテルとのコミュニケーションがネット上でスムーズに行くかどうか。専用のサイトにはサービスのフローが説明されているが、詳細の打ち合わせや確認はメール次元では難しいと思うし、iChatなどが必要かもしれない。そちらの方はアニメやゲームの事業者が得意とするところだろう。
では、企画製造するアイテムはどんなものか。実際に製造するアイテムがわからないので、あくまで仮の話になるが、アニメやゲームのキャラクターをそのままTシャツなどにプリントするなら簡単だ。キャラクターのコスチュームを製品化するのはどうか。ゲームショーなどにはコアなファンが自分で手作りしたコスチュームを着て参加している。とすれば、シタテルのネットワーク内にいる業者でCADやCAMをもつ工場なら、不可能ではないだろうが…。もちろん、アーチストやインフルエンサーが作りたいリアルクローズもだ。
シタテルは、 インターネットを使って不特定多数の人や企業に業務を委託するクラウドソーシングをもとに、小売店などから注文を受け製造工場に発注するシステムを確立した。それはブランドメーカーのOEMを担う国内50社の製造工場と提携し、各工場の受注状況や技術的な特長をデータベース化して、顧客にあった最適な工場に製造を発注するものだ。今回のシタテルスペックもこうしたシステムが下敷きになる。
工場は量が多い仕事を受けたい
ただ、いつも懸念されるのが、非アパレル事業者のようなズブの素人と縫製工場が上手くやっていけるのか。間にシタテルが介在するにしてもだ。同社の河野秀和社長が語る「在庫リスクを抱えず、初期費用なしで新たな服作りにチャレンジ」「無駄な在庫を出さない同サービスによって、アパレル業界の適量生産・適量消費を推進」との大義を掲げているが、工場側とて収益を上げていかなければならない。また、ECでのサンプル展開で、どれくらい受注が見込めるのかは全く不透明だ。ワールワイドのマーケットを設定してもである。
縫製工場は生産性を上げる上で、まず稼働率を重視する。次に1枚当たりの工賃だ。そして受注ロットが多いにこしたことはない。工場としては、業務中はミシンがずっと動き、縫製工賃が高く取れ、ロットが大きくて仕事が切れ間無く入ってくれば、儲かるのだ。シタテルは日本国内工場とネットワークを結んでいるとは言え、どんな工場にも生産効率が適性な品種で、自社が得意とする仕様、ロットの枠がある。今回のサービスのように受注生産で仕様がわからず、ロットも不明では非効率で採算が悪くなることが予想される。
仮にアニメやゲームのキャラクター衣装を実際に製造するとなると、接ぎのパーツが複雑になるのは言うまでもなく、縫製以前の行程が長くなって稼働率は下がってしまう。しかも、アーチストやインフルエンサーが無謀にもコレクション次元のクリエーションを作りたいと言い出すなら、仕様が複雑になるのはいうまでもない。慣れない作業が新たに増えれば、パートさんたちはたいへん。それをやって、シタテルが余りある工賃を払ってくれるのかである。
製造ビジネスを考えると、ミニマムロット30枚では大した収益にならない。河野社長がわざわざ記者会見まで行ったのだから、提携工場側の応諾は得ているとは思うが、本当に工場側の受入れ態勢は大丈夫なのだろうか。工場からプレミア工賃を要求され、シタテルのマージンや制作者側に支払うフィーを乗せると、売価は否応無く高騰する。いくら世界中にはキャラクターアイテムを求める顧客が大勢いる、コアなファンはほしいアイテムならカネに糸目を付けないと言ったところで、市販アイテムの10倍、20倍にもなると、売れるとは思えない。
また、アーチストやインフルエンサーが作りたいアイテムにはシーズンがある。いくらECを使ってサンプルによる受注販売と言っても、お客が夏物を購入したのに納品が冬場にズレ込んだのでは意味が無い。工場の稼働状況がネットで確認できると言っても、閑散期だからこそロットの多いものを入れたいのが工場の本音。そんなに都合よくいくのだろうか。端からミニマムロットの30枚を製造する見切り発車するならいざ知らず、受注販売を行うなら納期スケジュールも重要なのはわかりきったことだ。
昨今、盛んに言われているエコ、エシカル、そしてサスティナブル。限りある資源を大事にし、地球環境に負荷をかけず、なおかつ製造現場の態勢にも配慮するには、企画・生産から卸し、販売までのフローを見直し、適量生産で余剰在庫を出さないこと。それは正論である。しかし、国内工場にしても製造でメシを食っているのだから、サンプルのEC展開、受注生産で限られるロットの仕事をずっと受けていけるかには首を傾げてしまう。それこそ、このサービスが持続可能な次元なのかも考えなければならないのだ。
現時点では、いったいどういうアパレル商品が企画されるかがわからないので、これ以上のことは言及できない。シタテルが創り上げようとしているDNBとは、クラウドソーシングをベースにD2C、エンドユーザーと直接の接点、高い関係性、データと分析力を起点に、非アパレル事業者でもビジネスを成功させられるブランドだそうだ。河野社長は外資系金融マンから経営コンサルタントを経て起業したお方だけに、ベンチャーや起業家受けするするキーワードを舌鋒鋭く語ることには、長けていらっしゃるようにお見受けする。
ただ、シタテルとてクラウドソーシングによりアパレル生産を事業化している以上、物理的に仕事の量が増えないと収益は上がらない。当のアパレルが厳しい中では、非アパレルまでと取引しなければならないのが本音ではないのか。熊本市に本社を置くとは言え、東京にも支店を開設しているのは、そちらの方がアパレルメーカーが数多く存在するからだ。結局、ネットで繋がっているから、どこでも仕事ができるというほど、アパレルは甘くないという現実をシタテルの営業体制が示している。
おそらくアニメやゲームの制作者も、河野社長が宣うSDGs、適量生産、適量消費には共感をもったと思う。アーチストやインフルエンサーも、在庫を抱えなくてビジネスできると聞けば、その気になるのは当然だ。ただ、クラウドビジネスは本当にアパレル業界の構造的問題を解決してくれる全能の神なのだろうか。筆者のように旧態依然のアパレルしか知らない人間からすれば、どうしてもネガティブに考えてしまう。「新しいことに踏み出す情熱や意思がないから、ダメなんだよ」と言われそうである。
ならば、どんな商品がどんな価格で販売され、どこまで顧客を開拓できるか。期待半分、懸念半分で、シタテルスペックの動向を見ていくことにする。