読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

半島を出でよ

2010年10月06日 18時45分59秒 | ■読む
村上龍著、幻冬舎文庫刊
20代に村上さんの『限りなく透明に近いブルー』を読んで、さっぱり理解できませんでした。つまり「だから何なのだ?」という感じでした。どうも、昔から芥川賞とは相性が悪いようです。最も、第1回の受賞作品である、石川達三さんの「蒼氓」と次の鶴田知也さんの「コシャマイン記」には、深く心を打たれましたが。
その後、読売新聞で連載された村上さんの「イン・ザ・ミソスープ」は、毎朝、取り憑かれたように読みました。何ともいえない、不気味な、得体の知れない世界が、ごく身近な世界に現出する恐怖が何ともリアルでした。
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URL => http://ja.wikipedia.org/wiki/村上龍
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さて、本書は、作中の設定では来年には発生するであろう、近未来小説とでも言うべき作品です。実にリアルであることと、冒険小説にありがちなストーリー優先ではなく、一人一人の心の有り様を丹念に描いています。圧倒的なリアリティは、膨大な取材を基礎としており、よくぞこれだけ精緻な世界を描き出したものだと感動しました。いわゆる冒険小説とは違い、男のロマンとは無縁です。
考えてみれば、この世に棲む人々は、少しずつおかしい。ずれている。しかし、何となく周りと調子を合わせて生きており、ほとんど本当の自分をさらけ出していません。この作品で登場するヒーローの集団の人達は、そうした擬態を習得することなく、生身の魂で世を駆け抜けているのだと思います。村上さんは、どの登場人物にも等しい視点で描いており、激しい内容にも関わらず、読み終えて穏やかな気持ちになれました。人の有り様を暖かく描いて秀逸な作品でした。
評価は5です。

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