読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

吉村昭 その2

2008年11月05日 20時56分34秒 | ■聴く
津村節子夫人に続き,講演会のメインの川西政明氏の話が始まりました。私が吉村氏の著作で初めに読んだのは「海の史劇」であったと思います。結構厚手の文庫本が上・下二巻。大分読み応えがありました。非常に地味な作風ですが,ルポタージュ風でありながら,当時のロシアや日本の状況や様々な事情,細かな事柄が時系列を基本として語られています。この本に接するまでは,東郷提督が活躍する日本海海戦だけしか知りませんでしたが,ロシア艦隊がヨーロッパ大陸北部からアフリカ大陸を迂回し,インド洋などの熱帯地方を経た末に,疲弊しきって日本近海にたどり着いたこと,ヨーロッパでの日本側の様々な工作や、世界各地から,ロシア艦隊の進行具合が着々と日本に寄せられる様,実に詳しい情報が織り込まれた作品です。
次に読んだ「破獄」は,日本の脱獄王と呼ばれた主人公が,何故,どのように脱獄したのかを詳細に描き込んでいます。川西氏の話によれば,吉村氏は,脱獄されてしまった刑務所に勤務していた刑務官すべてに聞き取り調査を行ったそうです。刑務官は,仕事柄,非常に口が堅いそうですが、何度も通い詰め、貴重な話が聞けたそうです。吉村氏は,天気に非常にこだわっており,この著作では,脱獄した日の天候を実に粘り強く調査し,定説である「大嵐」ではなく,月明かりの晴天であったことを突き止めていますが、それも刑務官の「その晩は月の明るい夜だった」との証言によるものだそうです。
こうしたことは,幾多の著作を執筆する途上で繰り返され,従来の定説を覆した例がたくさんある,とのことでした。

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