ロジャー・ローウェンスタイン著、日本経済新聞出版社
本書は、アメリカがまだ弱肉強食の資本主義に突入する以前の社会経済状況の下で、従業員の年金と健康保険給付を無節操に拡大したことにより、やがて財政的に立ち行かなくなる事態に追い込まれた事例を3つ挙げています。
最初がゼネラルモーターズ、2つ目がニューヨーク州都市交通局、3つ目はサンディエゴ市です。
1つ目の事例では経営側と組合、2つ目は更に議会が加わった3者、3つ目は更に年金運営組織が加わった4者の失敗の過程が、社会経済状況と歴史的経過を背景に描かれています。
そして多くの人物が登場しますが、殆どの人々は目の前の都合によって間違った選択をしてしまい、一部の人は私欲で悪事を働きます。
日本との制度の違いが大きいことと、アメリカ人の税金への嫌悪感と不信感に驚きました。
日本の社会保障制度も、少子高齢化によって先行きの不安があり対岸の火事と思うことは出来ませんが、そもそもの社会の成り立ちが全く異なることに、改めて思い至りました。
著者は解決策を提案していますが、小さい政府を望む保守層がかなり居ることから、全体的に合理的な社会保障制度が成立する見込みは厳しい様に感じました。
また、目先の事情に囚われ、自己の利益を優先する傾向がアメリカの方が強いと感じましたが、人間の普遍的な性質なので、これも高みの見物と見ることは出来ないと思います。
日本人は、社会全体の調和を重んじる傾向が強いので、本書が対象とする様な分野では良い方向にあると思う一方で、2000年頃から、アメリカが取り組んでいる大変革による熾烈な競争がもたらすアメリカの繁栄が強烈で、日本が大きく立ち後れている現状に不安を覚えます。
日本人は、革新を好まず、安寧と秩序を重視する傾向が強いので、社会システムの大変革は、国外からの大きな圧力があって、初めて動き出すことは歴史が証明しているように思います。
もっとも、日本が置かれている少子高齢化は世界の最先端の課題の下で、財政的な面を始めとする社会システムの緩やかで確かな変更が、政治家ではなく、主に公務員の力によって勧められているように感じます。
ガバナンスとしては如何なものかと感じるものの、政治家の行動は、国民の気質と選択の結果なので仕方がありません。
今後の世界が、「資本主義&民主主義VS権威主義国家VS宗教原理主義」の対立でどのように成って行くのか、混迷の最中で予想も付きません。
そんなことを読了して感じました。
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○GM ○ロジャー・ローウェンスタイン
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評価は4です。
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