酒井啓子著、講談社現代新書刊
中東の状況が悪化し続けていることは十分知っているつもりですが、それは欧米の植民地支配と第二次世界大戦後の欺瞞に起因しているようです。
更に、パクス・アメリカーナの状況下で、アメリカは石油資源の確保を基本とした中東政策を進めて来ましたが、その地の複雑さとアメリカ国内の政治潮流の振り幅の大きさ故に、一貫した政策をとることは出来なかったことが事態を悪化させているようです。
国益を守ることが外交の基本であるにしても、現在の混乱を招いた欧米の失敗は歴史的に明らかになりつつあるようです。
この度のイスラエルを巡るアメリカの対応を見ても、国内の少数派のユダヤ系の人々とキリスト教の一派からの圧力が強大であるが故の強引さから、長期的な展望を基礎とした対応とは言い難いと思います。
現在の中東の状況は、正しく「カオス」なのでしょう。
このような状況をどう理解したら良いのかという手掛かりを得るために本書を手に取りました。
文章は平易で、広範な事象から、中東の今を分析するために必要な事柄を選び抜いて論を展開していて明快です。
たとえば、シーア派とスンナ派の対立が、どの様に、どの程度影響を及ぼしているのかについては、具体的な経緯を分析して論じており、思い掛けない論が提示されています。
そして、何とも成らなそうな現状に希望はあるのか無いのかを結びに述べています。
あとがきでは、執筆前からの著者の苦悩が記されていており、本書を生み出すのに、どれ程の迷いと苦闘があったかが推察されます。
良書と思います。
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○酒井啓子 ○9.11
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評価は5です。
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