読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

The Power Law(ザ・パワー・ロー)ベンチャーキャピタルが変える世界

2024年12月22日 06時31分13秒 | ■読む

セバスチャン・マラビー著、日本経済新聞出版刊
今日のアメリカを見ると、日本より規制が少なく、法律で禁止されていないことは倫理的に問題なければ、実行しても良いという印象を受けます。
一方で、日本で、何か新しいことを始めようとする際に、念の為所管すると思しき官公庁に相談すると、非常に面倒なことになったということを、何冊かの本で読んだことがあります。
また、世界の軍事組織の関係法令は禁止条項を列挙してる(ネガティブリスト)のに対し、自衛隊の法律では、やって良いことが列挙してあり(ポジティブリスト)、緊急事態に対応できないことが多いと、自衛隊のOBが発言していました。
何か新しいことを行う時に、社会の仕組みが開放的なシステムになっていない日本は、現状維持が社会の隅々まで根付いていて、変化をもたらすことが困難になっているようです。

もっとも、以前読んだ輸送用のコンテナの普及に関する書籍によれば、第2次世界大戦後のアメリカは、あらゆる規制によって陸上や海上輸送へのコンテナの導入が遅遅として進まなかったそうです。
戦後のアメリカが繁栄を享受している間は、社会のシステムを変える必然性がなかったことが根底にあったようですが、ベトナム戦争での兵站に問題が生じて、最後に民間による効率的な兵站が実現して、初めてコンテナによる輸送の優秀性が認識されると共に、州ごとに定められた輸送に関する規制を廃止して、ようやく輸送体系の中に組み入れられたとのことです。

だから、アメリカも以前は状況が異なり、素晴らしいアイディアを持っていて起業しようとしても、銀行などの金融機関から資金を調達することが非常に難しく、従来から存在した大きな会社が新しい技術を導入して、革新的な製品を販売しなければ、アイディアが現実化することは難しかったようです。
しかも、それらの従来からの企業群は、革新的な新製品が、自社の従来から販売している製品を駆逐することを恐れて、新技術を具現化する製品を世に送り出す必然性が薄かった。
例えば、IBMがパーソナルコンピュータの製造、販売に中々踏み込まなかったのは、従来のメインフレームコンピュータの販売と保守の利益に悪影響を及ぼすとの経営判断があったからだと本書で指摘しています。
そうした時に、西海岸でコンピュータ関連の革新的な部品などを作ることを目論んだ人々に資金を提供し始めたのが、今日のベンチャーキャピタルとのことです。

以前テレビで、アメリカのベンチャーキャピタルが、コロナ禍で経営が悪化した日本の老舗ホテルに資金を投じるとのニュースに触れ、アメリカの資本に取り込まれるのかと、暗い気持ちになりました。
しかし本書を読めば、ベンチャーキャピタルが、どの様な動機で、どの様な手法で資金を投じ、その後、対象企業に接して行くのかが分かります。
全くのところ「思ってたんと違う」内容でした。

投資方針を明らかにして資金を募り、成長する可能性が高く、投資した資金が比較的短い期間で大きな額となって回収できることを目指すのです。
その実行方法は変化し、ベンチャーキャピタルによって異なるものの、有望な起業家に投資して、必要な支援を行い起業を成功させて成長軌道に乗せ、株式公開の際に、投資と引き換えに入手した株式を売却することによって利益を得ることが多いようです。
また、投資対象事業が失敗した時は、代償を求めないのが大きな特徴です。
銀行などからの借り入れでは、担保を差し出し、返済が出来ない場合は、経営責任者は全てを失うことと比較すると驚く程の違いです。

また、中国で外資が投資したことによって、アリババやティックトックなどの会社が数多出現したとのことで、今日の世界では、ベンチャーキャピタルが新業態の起業を大幅に増やして、世界経済へも大きな貢献をしているようです。
無論、富の偏在など負の側面をもたらしていますが、それは相続税などの増税で対応すべきで、ベンチャーキャピタルの行為を悪と決めつけるべきではないと著者は主張しています。

立場により、本書の評価は異なるでしょうが、私は、ベンチャーキャピタルについて知ることが出来、そのダイナミックな動きに日本がついて行けないが為に、日本経済が相対的に沈んで行きつつあるとの結論に達しました。
上下2巻ですが、ほとんどが事例の紹介で、物語を読んでいる様に感じるため、興味を持続して読めました。
良書と思います。
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セバスチャン・マラビー  ○ベンチャーキャピタル
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評価は5です。

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カメラまかせ 成り行きまかせ  〇カメラまかせ 成り行きまかせその2


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