「憲法改正をはじめ、占領時代に作られた仕組みを変えていこうという立党の原点を呼び起こす」

 安倍晋三首相は昨年11月末、保守系の会合でそう話した。12月には橋下徹・前大阪市長と憲法改正をめぐって懇談している。今夏の参院選で自民が独走すれば、改憲が見えてくる。

 野党は「安倍一強政治」に対抗し、共闘を模索。勝敗の行方を決する32の1人区で選挙協力を実現し、反転攻勢を狙う。

 昨年12月には、学生団体「SEALDs(シールズ)」などが「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」を設立し、参院選で野党統一候補を支援すると表明。連携の機運は高まっている。

 そうした構図の下、参院選の前哨戦とされるのが、4月の衆院北海道5区の補欠選挙だ。ここで自民が圧勝すれば、安倍首相は改憲の動きを加速させるために衆院を解散し、衆参ダブル選に持ち込むとの観測も流れる。野党側の危機感は強く、市民連合の山口二郎法政大学教授は「補選で勝てば安倍さんは怖くて衆院解散を打てない」と、自民独走阻止に意気込む。

 だが、選挙に通じる野党関係者の表情は渋い。

「選挙を決めるのは結局は“顔”。国民の支持を集める政治家が前面に出ないと、選挙は勝てない。与党の顔は安倍首相と橋下氏。野党は誰か。岡田(克也・民主党代表)や松野(頼久・維新の党代表)では、荷が重い」

 そんななか、永田町では「野党大逆転のシナリオ」を実現できそうな男に注目が集まっている。誰か。「沖縄県の翁長雄志(たけし)知事です。彼が参院選の全国比例で出馬すれば、04年に浜四津敏子氏(公明)が獲得した過去最高の182万票超えは確実。300万票台に乗せることもありうる」(前出の野党関係者)

 翁長知事は辺野古新基地に反対し、安倍政権に一歩も引かない姿勢を貫いている。たしかにこの人なら、“反安倍”のシンボルになれるかもしれない。

 実現可能性はどうなのか。インサイダー編集長の高野孟氏はこう分析する。

「沖縄では1月24日に宜野湾市長選、6月に県議選、夏ごろには国が翁長知事を訴えた代執行訴訟の判決が出るなど、重要な政治日程が続く。キャンプ・シュワブ前の現地闘争も激しさを増すことは確実で、知事を辞めて国政に出るのは簡単ではない」

 だが、たとえ立候補しなくても、選挙の“顔”になれるという。

「沖縄が安倍政権との政治交渉で敗れ、裁判でも敗訴となると、残りは実力行使しかない。こうなると、知事自ら日本全国を行脚して辺野古基地の問題を訴え、参院選の争点にしようとするでしょう。沖縄では、知事が辺野古の座り込み闘争に参加して世界中のメディアの注目を集め、安倍政権の横暴を訴えるのではとも言われている」(高野氏)

 向かうところ敵なしの安倍政権。そこに“アリの一穴”をあけるのは、東京から遠く離れた“島国の王”かもしれない。

週刊朝日  2016年1月15日号