映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

ビブリア古書堂の事件手帖

2018-11-05 21:15:31 | 新作映画




三島有紀子監督の前作「幼子われらに生まれ」がとても良くできていたので、額面どおり原作をなぞることなく面白い味付けの作品にしてくれるのじゃないだろうかと期待していた。
原作はラノベにしては読み応えがあるが、ミステリにしてはちょっと物足りないくらいの6巻。映画になっているのは原作最初のエピソード(書店アルバイト大輔の祖母の隠された不倫恋愛)を過去のストーリーとして挿入しながら、古書店主栞子の蔵書をめぐる事件の顛末が描かれる。
三島監督は過去の不倫恋愛にかなりのウェートを置いている。映画の冒頭で栞子はさっさと持ち込まれた古書から謎解きをしてしまうので、大輔の祖母の人目をはばかる過去の謎解きを楽しむようにはできていない。監督の意図は原作の主題である謎解きではなく、夫をもった女の秘めた恋愛がやりたかったのだろう。イーストウッドが撮った「マディソン郡の橋」のような焦れる熱さを醸し出せたなら面白かっただろうに、平凡な不倫物にしか見えなかった。せっかく脚本にも女性を起用しているのだから、女にしか作り出せない感情を見せて欲しかった。
それでは本筋の現代パートの事件はどうかといえば、あまりにも脚本が雑すぎて全く楽しめない。先にも書いたように、原作そのものがミステリとしては大した事がないので、原作の事件をそのままトレースしたのでは面白くなるはずがない。稀少本をめぐる攻防に至ってはとてもプロの仕事とは思えなかった。監督も不得手なことには手を出さず、原作とは違う結末でも良かったと思うが。結局前作が良かったのは、荒井晴彦の脚本のおかげだったのか。

ここでいちいち粗探しをしても仕方がないので、原作の世界観を生かしながら登場人物を魅力的に見せるにはどうしたらよかったかを考えよう。
わたくしが原作のなかで面白く感じたのは三点。
栞子さんの本に対する知識と愛情が並外れていることは分かりやすいキャラクター設定だけど、コミュニケーション障害っぽい世俗離れのなかに垣間見せる少女性を感じさせる無垢な可愛らしさが魅力だった。付き合うには結構面倒臭いかもしれないが、一般的な常識さえあれば個性的で好きなタイプだ。そんな栞子さんを好きになり、不器用ながら彼女を守ろうとする店員の大輔との恋の顛末が微笑ましかった。
二人を見守るように配置されたエピソード毎に増えていく登場人物とのやり取りも、6巻もある長いシリーズならではの楽しみだった。2時間の映画では到底無理があり、大輔の祖母の恋と稀少本事件に的を絞ったことは良いとしても、主人公栞子を魅力的に描けなかったことはエピソードの分量といい計算違いだった。
舞台が北鎌倉であり、栞子さんのキャラクターに合っていると思う。映画でも切り通しとかが印象的に使われているが、鎌倉市の協力が得られなかったからか、あまりロケーションが上手くいってるとは思えなかった。
「日日是好日」では黒木華、「寝ても覚めても」では東出昌大をつい最近観たから、その二人が全く違う役回りで出演しているとなんだか変な感じだ。日本映画界の人材不足がここでも露骨に表れている。まぁ、ジャニ○ズとかEXI◯Eとかの学芸会を見せられるより良いか。(と、納得しておこう)