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「生きてるだけで、愛。」題名が良い。
だからといって甘いラブストーリーとはかけ離れたお話だ。
菅田将輝演じるゴシップ雑誌の編集者は、たまたま合コンで出会った女に惹かれてそのまま同棲している。自分に無いものに魅力を感じるのは動物の本能なのかもしれない。地味で感情の起伏に乏しい男には、趣里演じる引きこもりの女が持つ攻撃的で感情を爆発させる生き方に抗えない。
いつも、男にとって女は感情の捉えどころが難しい。わたくしもかつてお天気屋の女の子とお付き合いしたことがある(速攻でふられましたけど)。自分の感覚とはぜんぜん違うから楽しかったけど疲れた。この映画の主人公である引きこもり女ほどではなくとも、感情が不安定な人と付き合うには体力が要るのが良くわかった。還暦直前の今となっては、どんなに魅力的でも感情的な女は御免だ。
引きこもり女も自分を変えたいし、変えようと努力する。男の前カノに無理やり働かされたカフェバーにも徐々に馴染み、居場所を見つけたかに思えたが、一般人からすれば些細な感覚の違いが我慢できず飛び出してしまう。走りながら全裸になった女が男の胸で言う台詞にこの映画の全てがある。
「あんたはいいよね。あんたは、あたしを捨てられる」
「けど、あたしはあたしを捨てられない」
こんなに自分の感情に苦しむ人もいるのかと絶句した。ふと、永訣の朝、とし子の嘆きがよぎった。「うまれでくるたて こんどはこたにわりやのごとばかりで くるしまなあよにうまれてくる」(今度生まれてくるときは自分のことでこんなに苦しまないよう生まれてきたい)
主演女優の趣里は朝ドラ「とと姉ちゃん」で知った。彼女のお父さんのことは、ポルノ雑誌の切れ端を身体にまといドラム缶の風呂に入っていた頃から知っているし、お母さんに至っては全曲の音源をレコードで持っているし、ファイナルコンサートのDVDも買ってしまうぐらいのマニアックなファンだ。
そんな両親をもっているけど、彼女のエキセントリックな演技は素質だけではないように思う。舞台挨拶などで見せる素の表情からは小柄で小動物を連想させる普通のお嬢さんだ。お母さんも決して美人ではなかったが人を惹きつける顔立ちをしていた。趣里の目元にもそんな名残を感じる。暫く出演作を注目してみよう。