映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

キネマ旬報ベストテン考 その弍

2019-02-07 20:31:24 | 映画ベストテン

キネマ旬報社のベストテンが発表されたので、過去のベストテンにはどんな作品が選出されていたんだろうかと調べてみました。
選外にも大好きな映画は沢山ありますが、限が無いので、取りあえず毎年のベストテン作品の中からわたくしが特に大好きな映画を拾い上げてみました。

1950年代
「七人の侍」「東京物語」「幕末太陽伝」
流石に後世に残るような傑作しかピックアップできませんでした。
黒澤、小津の世界的評価も上記二作品に代表されるでしょう。コメディ映画の最高峰として川島作品を選びました。

1960年代
黒澤作品で一番好きなのが「赤ひげ」。チャンバラでは「用心棒」より、一層エンターテイメントが冴えてる「椿三十郎」。原作の凄さを忠実に映像化した「砂の女」。長大なシリーズの原点として「男はつらいよ」一作目を。実験的な映像と古典の融合を成し遂げた傑作「心中天網島」。みんな怖ろしく面白い作品ばかりです。

1970年代
TVで子供の頃一度だけ観て感激した「旅の重さ」は今ちゃんと観てみたい。山田洋二「故郷」「幸福の黄色いハンカチ」は山田作品群でも一番好き。田中絹代と高橋洋子に圧倒された「サンダカン八番娼館希望」。いかにも'70年代の日本映画「祭りの準備」「サード」暑苦しく暗い。横溝=市川昆の中でも傑出した出来の「悪魔の手毬唄」や野村芳太郎監督作品で一番好きな「事件」のように、ベテランも活躍している。日本映画の枠を超えた発想とスケールだった「太陽を盗んだ男」。長谷川監督はどうしちゃったんだろう。もったいないなぁ。

1980年代
日本映画の面白さに目覚めた'80年代。倉本聰+高倉健の最高傑作「駅STATION」。今でも日本映画で一番好きな「遠雷」。大林監督の美しいファンタジー「転校生」。深作演出の切れ味が気持ち良い「蒲田行進曲」。早世の天才相米監督と女優夏目雅子が残した「魚影の群れ」。後期今村作品の傑作「楢山節考」「黒い雨」。日本の美しさを再発見させてくれた「細雪」。独特の映像と語り口で衝撃的だった森田監督「家族ゲーム」。アイドル薬師丸ひろ子を女優に開眼させた「Wの悲劇」。新しい映画のあり方を提示してくれた伊丹監督「お葬式」。声高に叫ぶ事無く反戦を語り続けた黒木監督の「TOMORROW/明日」。そして、とうとうアニメ映画が確固たる地位を確立するために宮崎駿の「となりのトトロ」は生まれた。個人的には「魔女の宅急便」が一番お気に入りですけど。

1990年代
大林監督作品で一番好きなのが「ふたり」中島朋子がまだ可愛かった頃。アルタミラの青春コメディ「シコふんじゃった」「Shall We ダンス?」「がんばっていきまっしょい」周防監督は期待を裏切らなかった。地味だったけど、優しい気持ちになれる映画の「うなぎ」今村昌平晩年の傑作。ゆとりが無くてあんまり映画を観ていなかった頃です。

2000年代
沖縄のおばあの若かりし恋を描いて新鮮だった「ナビィの恋」。アルタミラ青春コメディの代名詞「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」は矢口監督の快作。在日の若者を描いた「GO」も新鮮だった。柴崎コウが幼い!子供の頃行ってみたかった常磐ハワイアンセンターの創生期を描く「フラガール」。静謐な「阿弥陀堂だより」熟練の「たそがれ清兵衛」は日本映画の気高さを教えてくれた。「誰も知らない」「歩いても歩いても」は大好きな是枝ブランド。弟子の西川監督作品「ディアドクター」は上手い映画だった。山下監督の「リンダリンダリンダ」「天然コケッコー」は癖のある映画だけど、とても可愛い作品。中年女子に焦点を当てた「かもめ食堂」は美味しい映画。中島監督の毒気と中谷美紀を堪能できる「嫌われ松子の一生」。麻生久美子の儚げな命の灯火を描いた「夕凪の街桜の国」。落語家の日常が心地良い「しゃべれどもしゃべれども」。好きな映画はそれぞれ名場面が浮かんできます。

2010年代
アクション時代劇を観せてくれた「十三人の刺客」。鬼才園子温監督が血まみれの狂気を描いた「冷たい熱帯魚」。いつも脚本の見事さに感銘する内田監督「鍵泥棒のメソッド」。同じく構成に非凡さを感じる吉田監督「桐島、部活やめるってよ」。堂々たる横綱相撲の映画を撮り続ける石井監督「舟を編む」。長大な原作を2部作でまとめた成島監督「ソロモンの偽証」と母と娘の情愛に涙が止まらなかった「八日目の蝉」。李監督も失敗作は無いが、一番好きな「怒り」を。ジブリ以外でもアニメ映画の優秀さを再認識させてくれた「この世界の片隅に」。初見より回を重ねるごとに愛おしくなる「海街diary」と「万引き家族」。新しい恋愛映画を感じさせてくれた「寝ても覚めても」。
2010年代最後の今年も記憶に残る大好きな映画に出会えるよう、元気に映画館通いをいたしましょう。




キネマ旬報ベストテン考

2019-02-07 20:28:32 | 映画ベストテン

漸くキネマ旬報ベストテンが発表された。
本来出版物なんだから、出版と同時に告知されるべきなんだろう。
先年までは選者が選んだ10位までが正月早々発表されていた。それに慣れていたので、待ち遠しかった。
2018年度の選出でびっくりしたことが二つ。

一つは、選者と読者が選んだ一等賞が邦画も洋画も同じだったこと。調べたわけじゃないからいい加減な話になっちゃうけど、これって結構珍しいんじゃないかな?
「万引き家族」はいつも通ぶった選出をしてくる選者にとっても外せなかったんだろう。パルム・ドールのお陰で大ヒットしたからメジャー作品みたいになったけど、本来はひっそり公開されて一部の人に評判になるような映画だからな。わたくしも一等賞にしたから文句の付け様がないけど、そうなってしまうとちょっぴり寂しい。(ほぼ毎年、選者のチョイスを皮肉っていたので・・・)あまり面白味は無いけど、まあ、順当な結果としてパチパチパチ。アカデミー外国語賞は対抗馬が強烈過ぎて難しそうだ。相対評価だから仕方が無い。
「スリービルボード」は観てないから何んとも言えない。家の奥様によると、まあまあの出来らしい。アカデミーも外れたし、日本の評論家もそれほど騒がなかったから意外といえば意外だった。

二つ目は、主演賞に安藤サクラと柄本佑夫婦が選出されたこと。これこそはキネ旬始まって以来じゃないかな。これまた調べもしないで言ってるけど。
安藤サクラは随分前から当確だったよね。子を持てなかった女の悲しさ悔しさみたいなものが、あの泣きの演技に凝縮されていたし、ケイト・ブランシェットだけじゃなく観た誰もが納得の演技だった。
柄本佑の受賞対象作品は一つも観てないし、二作品は存在さえ知らない。お父さんに似た粘っこい演技をするイメージしかない。亡くなったお母さんへの良い餞になることだろう。

さて、日本映画が豊作だった2018年、わたくしの選んだベストテンがキネ旬読者と選者にはどのように評価されたのか、興味本位で並べてみた。(読者選出は30位までしか発表されていないので、選外であってもゼロと言うことではない)

好きものどうし選出⇒キネ旬読者選出⇒キネ旬選者選出

①万引き家族⇒1位⇒1位
②ちはやふる結び⇒30位⇒50位
③寝ても覚めても⇒4位⇒4位
④カメラを止めるな⇒2位⇒17位
⑤今夜、ロマンス劇場で⇒25位⇒選外
⑥若おかみは小学生⇒選外⇒28位
⑦来る⇒17位⇒20位
⑧生きてるだけで、愛⇒23位⇒30位
⑨日日是好日⇒5位⇒9位
⑩SUNNY強い気持ち強い愛⇒選外⇒39位

①万引き家族 ③寝ても覚めても 
この二本は同じ価値を共有できた作品だったということ。
②ちはやふる結び ⑤今夜、ロマンス劇場で
大体こんな評価だと思っていたけど、②はやや評価が低すぎやしないかと思う。面白いのは⑤に読者はそれなりに食いついたが、選者は一点も入らなかったこと。
⑥若おかみは小学生 ⑨日日是好日
意外に思ったのは、⑥のような佳作に読者は票を投じていないこと。逆に⑨が読者も選者もベストテンに選出していることが、それ程のものかと感じてしまった。樹木希林へ対する賛辞の証の意が大きいと思う。
④カメラを止めるな⇒2位⇒17位
唯一噛み付くポイントを見つけたのがここ。
2018年映画界の最大トピックスと言える④の大ヒットは、SNS等の不特定第三者による宣伝活動が要因の一つでもあるが、肝心の映画そのものが面白かったからだ。読者は最大のリスペクトをもって2位に選出している。確かに王道の映画作品ではないし、技術的にも演出も演技もアラだらけだけど、この作品をベストテンに選出できないキネ旬選者とは、いったいどこの宇宙人だ!?映画に対する純粋な愛なんか無いのか!

偉そうなこと書いたが、読者にも選者にも評価されている作品をことごとく観てない。
瀬々敬久監督の「菊とギロチン」「友罪」、「その鳥はうたえる」の三作品は信頼しているブログでも評価が高かった。がんばって観ておけばよかったと後悔している。「孤狼の血」は原作が面白かったし、監督もキャストも一流だったけど単にあの手のドラマが嫌いなので敬遠した。同じ理由で「斬、」「止められるか、俺たちを」も。全くノーマークだったのが「鈴木家の嘘」。必ずこういう映画はあるから仕方が無い。CS放送された時にはチェックして観てみる。