映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

蜜蜂と遠雷 原作がなぁ

2019-10-05 12:00:46 | 新作映画
も少しクラシックに造詣深ければ

恩田陸は読み辛い小説と神がかった傑作とが混在する作家だと思う。
「夜のピクニック」で本屋大賞に選ばれた時は、たまたま当たったんだと思っていたけど、この「蜜蜂と遠雷」を読んで認識が変わった。本当に力量ある作家なんだ。
そんな傑作小説をベースに映画化するのは勇気のいることだ。ピアノコンクールに集う若者たちを四人の演者は原作通りに具象化している。分厚い原作本の大半がコンクール予選と本選の半月間の出来事だから、映画もピアノ演奏シーンが多く映される。本物がどんなものか知らないけど、リアルな迫力は伝わった。松岡茉優のオーケストラと合奏する本選シーンは圧巻だ。

それなのに、映画の感想としては薄っぺらなドラマを2時間観たことしか残らなかった。原作の読後感が重厚だっただけに、その差は埋めがたいものがある。原作で語られる四人のバッグボーンが描き切れなかったのが要因だが、やり過ぎると本編がくどくなるし、二人に絞り濃くする手もあったかもだが、違う背景の四人だからこそドラマになるのであるから難しいところだ。
四人の若者が主人公だけど、審査委員長を演じた斉藤由貴の存在感が際立っており、その目線で作るのもアリだったかも知れないと思ったりもする。





大満足の夏ドラマ終了

2019-10-05 10:19:55 | 旧作映画、TVドラマ

「なつぞら」を含めて夏ドラマが終了した。
NHKの二本を筆頭に充実したシーズンだったと思う。


「だから私は推しました」
昨今無駄に長尺な割りに中身がスカスカなドラマが多い中、一話30分全8話のこの作品を映画製作会社も含めプロデューサー・ディレクター・監督・脚本家あたりは見習うべきだ。
もっと観ていたいと思わせてくれるテレビドラマって、一年に一本あるかどうかじゃないかな。時間や話数の制約があったからかもしれないけど、端折れるところはズバッと切り捨てて状況説明をダラダラ続ける事無く人の感情を伝えてくれた。こんな優れたドラマが深夜枠でしか放送されないこの国のテレビドラマ界に不安を感じる。視聴者のレベル低下もあるだろう。若年層や視聴率をとれる年配層に媚びた番組編成をしなければならない事情もあるだろう。それでも、面白いドラマを創って楽しませたいとの熱い想いが、森下佳子の優れた脚本を得てスタッフキャストによって具象化された。
愛(オバハン)はハナに自分を重ねて愛しんだ。その無私の愛に近い感情によって、コンプレックスを抱え地下アイドルに捌け口を求めたハナは光を得ることが出来た。
地下アイドルとアイドルヲタクの物語にストーカー犯罪を散りばめたTVドラマがこんなにも面白くなるとは思わなかった。

「これは経費で落ちません!」
本来は民放が得意とするドラマ設定だと思う。女性中心のお仕事ドラマはかの名作ショムニ以降沢山作られている。本作品は逆に考えると、NHKらしくないドラマだったともいえる。会社の中でも経理部署は、誰でも存在を知っていながら縁遠い場所だと思う。お金を扱っているんだろうなと想像できるが、具体的に何をやっているのかも分かり辛い。そこに焦点をあてたことが勝因であるが、主役の多部未華子のためにアテガキされたようなキャラクターをはじめ、メンバーの全てが生き生きとしていた。若干の脚本破綻も見受けられたけど、芸達者な役者の頑張りで乗り切れた。ちょっぴり残念だったのは、恋人役の太陽君をもう少しまともな人選が出来なかっただろうか。NHKもジャニーズにはそれなりの配慮をしなければならないのか。

「凪のお暇」
このドラマも終わってみれば、芸達者な役者の演技によって保たれた。下手な役者でこの物語をやってたら見続けるのが厳しかったと思う。特に中村倫也と高橋一生の役どころは代替の利かない魅力的な男たちになっていた。あの二人に挟まれていたからこそ凪はお暇の時間を自分のためだけに有意義に過ごすことができたのだ。仕事を頑張る姿や恋愛に悩む話がほとんどのドラマの中で、何もしない時間を題材にして10話を観せきったことは、今後のドラマ題材に一石を投じた。

「監察医朝顔」
もっと家族の話に重きを置いたドラマでも良かったと思う。今の視聴者は時に重い家族の感情を観たくないのだろうけど、そこを描かなかったら、良くあるお仕事ドラマか何で生活できているか不明な往年のトレンディドラマみたいになってしまう。津波に消えた母、それをいつまでも捜し続ける父、トラウマを乗り越えて新しい家族を作り出す娘。上野樹里が大人の演技をみせてくれたからこそ、一層、家族ドラマを観たかった。

「なつぞら」
半年が短かった。広瀬すずと草刈正雄の強い印象が最後まで際立った。
あのあまちゃんも例外ではないけど、朝ドラの弱点は地方時代のきらめきが都会編になるとくすんでしまうことだ。雄大な自然の中で行なわれるロケと違い、セット撮影が中心になってしまうからでもあろう。
それにしても、主題歌やタイトルバックのアニメも含めて、大好きな朝ドラのひとつとなった。

脚本は森下佳子の「だから私は推しました」以外の選択は無かった。
男優は高橋一生の泣きと細田善彦の飄々とした浮遊感、そして草刈正雄のじいちゃん役に。
女優も多部未華子のはまり具合、桜井ユキ渾身の演技、そして横綱相撲の感ある広瀬すずに。