映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

ブレイディみかこ著「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で感じたこと

2021-01-25 19:37:00 | 歳時記雑感

一年中小説は読んでいるけど、物語が好きなのでノンフィクション系やエッセイなどには手を出さない。ましてや実用書の類は毛嫌いするほどに避けている。
そんな折、正月明けの図書館でお勧めコーナーにあった黄色い表紙にシンプルなイラスト画の本を手に取ってみた。読み始めてみると物語ではなく、英国在住の女性が書いた子育てノンフィクションのようだ。
良くある、外国生活の裏話程度のライトな随筆かと思いきや、かなり踏み込んだ内容の濃い書きものだった。

何でもかんでも日本の教育がダメで欧米上等なんてことはなく、日本の方が優れているなと思うところも沢山あるけど、同じ島国の英国なのに多様性の文化・生活環境の違いには驚いた。その素地の上に成り立っている教育方針として、英国では小学校の頃から(シンパシー)と(エンパシー)について学ぶらしい。
シンパシーは最早日本語になりつつある日常的な言葉だから取り立てて説明の必要はないと思うけど、「共感すること」「同情する気持ち」というように、感情が同化する様だ。この感情の同化に関しては多分日本人は世界中の民族の中でもかなり上位に位置する持ち主だろう。今更単一民族とかの右翼的論法を吐く人は少なかろうが、狭い国土(島国であることの特異性もあると思う)に多くの人がひしめき合っているし、自然災害も多いから共感したり同情したりする頻度も多いのだと思う。
エンパシーって言葉、この本を読むまで知らなかった。「他人と自分を同一視する事ではなく、他人の心情をくみ取ることができる能力」なんだそうだ。平たく言えば、「自分はあなたとは違うから共感したり同情することは出来ないけど、あなたの気持ちは理解できるので邪魔はしないからね」ってなことだろうか。

格差社会とか言われて久しいけど、みんな同じようなルーツで同じテレビ番組観て育った我々には、隣に住んでる人も遠く東や西の地で生活している人にもそれ程の違いを感じることはない。それ故にシンパシーを感じることはあっても、察するための能力を養う教育を受ける必然性がない。
エンパシー教育とは多民族が重なり合う欧米諸国のような多様性を有する国のジレンマであり、多様性の乏しい我が国のジレンマでもあると感じた。

2021冬ドラマのはじまり

2021-01-25 19:30:00 | 旧作映画、TVドラマ

コロナ蔓延化の製作現場で作られている2021冬連続ドラマについて、朝ドラ含め6本を観ようと思う。
秋から続く「朝顔2」は、あまりにも設定がおかしく変わりすぎてしまい、ついて行けずリタイアすることにした。
冬ドラマの選択は実力ある脚本家作品であることに尽きる。安定した平均点を取ろうとするのか、斬新な新境地を開こうとするのか興味あるラインナップだと思う。

「おちょやん」
モデルは馴染みのない女優の話。馴染みはないけど黒沢、小津、溝口といった世界的な名監督作品に出演しているところをみると、役者としては本物だったんだろう。そんな女優の生涯を演じるのは杉咲花。映画「湯を沸かすほどの熱い愛」での熱演は記憶に新しい。飛び切りの美人ではないけど小動物系の可愛らしい女の子だ。
序盤を観て感じたのは、杉咲花じゃなきゃ持たなかったかもしれないと言うこと。テンポも良いし朝ドラらしい展開なんだけど、珍しく家族がバラバラでヒロインの心のよりどころとならない。そのイレギュラーさが観ているこちらをザワザワさせるけど、杉咲花のあっけらかんとした軽い芝居で暗くならずに観ていられる。

「ウチの娘は、彼氏が出来ない‼︎」
恋愛小説の女王と呼ばれていた女流作家が、ミステリー小説に挑んだけど不人気のため打ち切りが決まる。北川悦吏子の自虐ネタっぽいが、あながち外れていないので少々苦笑いしなけりゃならない。そんな設定だ。
北川脚本の面白さは障害を抱えた男女のミスマッチな出会いと恋愛の機微。でも、本作は設定に倣ってか恋愛ドラマというより風変わりな母娘の物語になりそうだ。菅野美穂の下町育ちっぽい喋りは北川悦吏子の真骨頂だし、浜辺美波の娘役は多少違和感あるけど面白そうな親子だなとは思った。受けの男性陣が魅力ない感じがしてしまうのが心配なところ。しばらくは様子見かな。

「天国と地獄」
森下佳子=平川雄一朗=綾瀬はるかの組み合わせだけで視聴率がとれることは、それなりに日本のドラマが成熟している証明でもある。第一話を観た感想として、オリジナル脚本の自由さ故なのか些か突飛な展開を生んだことでリアリティに欠ける薄さを露呈している。大林監督に対するリスペクトなのか、階段落ちによる男女入れ代りは許せるとして、警視庁捜査一課の刑事があれほど緩くては安心して生活できないと感じちゃう。女性であるがための不公平感を匂わすなら、組織でしっかり歯車になっている姿を見せなきゃ説得力も何もあったもんじゃない。狙いは入れ代った後の顛末がどう動いていくかだろうけど、ベースの捜査母体の枠組みがスカスカじゃ絵空事のシラケ感が拭えない。同じ女刑事でも「ストロベリーナイト」の姫川玲子が魅力的だったのは、組織の中で戦う姿も描いていたからだ。とりあえず序盤は綾瀬はるかと高橋一生の演技力に救われている。

「にじいろカルテ」
設定も人物配置も名作「Dr.コトー診療所」のままで、主人公の医師が女医になっていたり病を抱えていたりという前提はあるけれど、僻地診療の舞台は踏襲されている。村民に泉谷しげるがいて、同じような偏屈親父(それが売りだし、それしか出来ないだろうし)を演じているのも既視感満載だ。
名作と比べては可哀想かもしれないが、ロケーションも村民の面子も広がりがなく見知った役者だけの学芸会のようだ。第一、あんな山村に若い人が溢れているわけがない。80歳以上の老人ばかりだし、子供なんて一人もいない。40,50代は若い衆と呼ばれるような現実を、いくらドラマだからと言っても無視していいモノだろうか?岡田惠和の得意そうな設定であるのに初回の雑な作りに少々幻滅した。芝居上手な役者を揃えているのだし、テレビ朝日の既存マンネリドラマとの一線を画すべく奮闘して欲しい。

「俺に家の話」
クドカンと長瀬智也の相性が良いのか、能楽師の家の話という珍しさが影響しているのか、初回観た中では断トツの面白さだった。宮藤脚本の凄いところは物語にキャラクターが嵌ると爆発的にリズムが良くなるところだと思う。演者たちがノリノリで芝居するから観ているこちらも加速せざるを得なくなる。まだ人物紹介がざっと終わったばかりなので早計なことは言えないが、これから本題の俺の家の話が語られてゆくから仕掛け次第では大化けするかもしれない。
個人的には観山家宗家(西田敏行)の介護士から後妻となる戸田恵梨香の腹黒そうな設定が楽しみだ。江口のりこの突っ込みも緩急自由自在でワクワクさせられる。

「モコミ」
30分ではもったいない気がした。橋部敦子の脚本は正当過ぎて若干鼻につくところがあり敬遠していたけど、このドラマはファンタジー色が強いのと小芝風花ならあながちありそうな人物設定なところもあってか、すんなりと物語に共感できた。
主人公モコミの特殊能力を負のエピソードばかりじゃなく、誰かの幸せのために役立つようなお話にしてくれたなら良いドラマになりそうだ。30分での完結したエピソードを作るのは難しいかもしれないが、誰かのほんの小さな幸せを描くくらいのスケールでいいから観てみたいと思う。