映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

家族をつくれなかったヤクザの話

2021-02-02 19:42:00 | 新作映画

前作「新聞記者」は最近CS放送で観たばかり。はっきり言ってドキュメンタリーの「i新聞記者ドキュメント」の方がスリリングで面白かった。望月衣塑子本人のパワフルな言動にはフィクションは太刀打ちできなかったということだろう。
それでも日本映画には珍しいチャレンジだと思う。テーマが現在進行形の政治絡みになると、我が国のエンターテイメントはすっかり消極的になってしまう。欧米だけじゃなく、お隣韓国でも結構掘り下げた描き方をしているから羨ましいと思ってもいる。まあ、現在の日本人は大半の人が政治に関心ないし、堅苦しいお話を映画館まで行って観ようとは思わないだろうから仕方ないか。斯く言うわたくしも諦めモードで国政を眺めていたりする。

さてさて、そんな藤井監督の新作「ヤクザと家族」。新聞記者の次にヤクザを持ってきたかと少しだけ残念に思っていた。使い古されたヤクザの世界を描いて何か面白い事でも発見できるのだろうかと。
かの「ゴッドファーザー」のような血を分けた任侠一家のお話かと思っていたら、如何にも日本のザ・ヤクザ世界の話だったのでここにもうんざりポイントがちらちらしちゃう。盃交わした親子の契りだとか兄貴だの叔父貴だのとかも昭和中期の日本かッ!

設定は赤錆だらけの陳腐さなんだけど、物語は気持ち良いほど流れるように進んでゆき厭きることはない。街のチンピラ不良少年がヤクザの親分に目をかけられて、極道の世界にどっぷり漬かり、兄貴分の身代わりに14年の刑務所暮らしをする。出所した彼に待っていたのは時代遅れのヤクザ稼業と世間の冷たい風当たりだ。14年前に情を交わした女との間に娘がいることが分かり、ヤクザから足を洗うが、世間はそんなに寛大ではないのだ。かつての弟分に刺され海に沈む男の無残な姿が揺らめく。

ヤクザというアブレ者同士が作る義理の家族と、血を分けた親子を軸とした家族。欲しかった本当の家族を手に入れることなく死んでいった男に同情することはないけど、痛ましい無念さはずっしりと感じることができた。

綾野剛にとって、代表作の一つになるだろうな。北村有起哉とか市原隼人、岩松了の様に普段あまり気にすることのない役者の渋さに唸った。磯村勇斗の将来性にも注目したい。尾野真千子演じる女子大生に「随分老けてるな」と被る台詞には笑ったけど、実年齢に近い中学生の母親役は流石だとこれまた感心。

いつか誰れかが、花束みたいな恋をした

2021-02-02 19:37:00 | 新作映画

坂本裕二が映画の脚本を書いた。それだけで映画館に行く価値はあると思う。数多い傑作テレビドラマの台本は会話劇が魅力的で、それはテレビという媒体だからこその優位性なんだけど、スクリーンではどんなふうに演出され演じられるのだろうかと期待半分不安半分。

何処にでもありそうな出会いと別れを描いている。だからって自分の事の様に心ときめいたり、些末なことですれ違ったりの喪失感を共有できるものじゃない。多分ご覧になった多くの男女は何処かに自分を投影できたと思う。どんどん好きになってゆく気持ちとか、面倒臭ぇなと思ってしまう煩わしさとか。時の流れの中に漂う二人の気持ちを掬い取れるように見せてくれた土井演出と有村架純、菅田将暉の演技も良い仕事しているなと感じ入った。

同じ物が好き=相性が良いとは限らないけど、コーヒー飲みながら本を読むのが好きな人と週末はグラウンドを駆けまわっていないと気が済まない人の組み合わせがずっと続くとは思えない。どちらかが感化されて同じ趣味を持つようなことはあるだろうけど、人と人は何処かに接点がないと交わり会えないものだ。だからって、同じ作家の同じタイトルが好きな二人もこの映画の様にいつかは離れてゆく。

別れ話のファミレスの別席では、かつて自分たちがときめきあった様に近づく男女がいる。それぞれ別の彼氏彼女連れで偶然出会っても、表面上は素知らぬ顔で後ろ姿どおし手を振り別れゆく。
永遠なんて無い事はもう知っているけど、なんか切ないような軽やかなような、そんな作品。