映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

岸辺の旅 辿り着かない道程

2015-10-13 19:53:14 | 新作映画
何の予備知識も持たないで観る映画は新鮮な楽しみに満ちている。
年に何本かはそんな映画に出会えるし、そういう映画に外れはない気がする。(期待してないのが良いのかも?)

  こんな旅、それもあり

 深津絵里と浅野忠信がとってもステキだ。
行方不明(亡くなって)3年たった頃、妻が白玉団子を茹でていると暗闇からのそっと現われる夫は浅野だからこそ説得力がある。(彼は実体の無い世界と行き来している感じがあるでしょ!)この唐突な設定がすんなり受け入れられる作りができたことが一番の勝因だと思う。下手な作品だと違和感だけ残って物語りに入っていけない。
深津の妻もお涙ちょうだい演技なぞすることなく、ファンタジーと現実の境目を上手く漂っていく。
 最後に二人が本当の別れとなるシーンには物足りなさを感じたけれど、黒沢清はそもそもファンタジーラブストーリーをつくりたかったのではないのだろう。だからこの物足りなさは正解なのかもしれない。原作も読んでいないので、岸辺が何を指すのか今ひとつ不明ではあるけれど、彼の岸と此の岸の間を指すのかな。そうだとすれば、死んだ夫との道行きこそが辿り着く事のない「岸辺の旅」になる。

 黒沢作品は今まで相性が悪く、初期の「ドレミファ娘の血が騒ぐ」は歓心できたが、「CURE」「回路」「ドッペルゲンガー」「LOFT」「Seventh Code」どれもが眠くなってしまいつまらなかった。「トウキョウソナタ」「リアル」は都合が合わず今もって未見のまま。本作品が好きになれたのは、所々にあらわれる黒沢的描写(心理的恐怖心を煽る画と音)が心優しさ故のものである事を観ている我々が享受できるからだろう。

 人生の10月(秋真っ只中)を生きているわたくし、連れ合いとの別れをまだ実感できないけれど、でも間違いなくいつかはやってくる。死んでから3年いろいろな場所を漂った後、不意に家族のもとに帰ってこれたなら果たして嬉しいのだろうか?それ以上に心配なのは、家族は喜んでくれるのだろうか?(まぁ、無理な感じがするな)


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