吉村昭の出世作として有名な作品です。
軍の最高機密として建造された巨大な戦艦。その巨体ゆえに隠蔽にも莫大な労力をかけながら進められた建造。工事に携わる人々にさえ知らせらない全貌。艦名さえも極秘とされ、世界一の戦艦でありながら、ひっそりと誕生した武蔵。
誕生後も、重油不足から本格的な戦いに出撃することもなく、訓練と輸送の地味な任務のみを淡々とこなす日々がつづく、最大最強の戦艦であったのです。
そんな武蔵の建造から、シブヤン海に沈むまでを描かれています。
絶対に沈まない不沈戦艦たる武蔵だけに、敵機の集中攻撃を受けたときの乗組員の被害は甚大でした。
小学生のころ図書館で『戦艦武蔵の最期』という本で読んだ海戦の様子を思い出しました。
そこには、甲板が血で滑って歩けないので砂をまくとかかいてありました。
吉村昭の作品にはない、ミクロ視点の描写が印象的だったので、それと合わせて武蔵のもつ異常さを強く感じることになりました。
大きさ、強さ(攻撃力・防御力)ともに異常に強力であったものの、海戦の主役は戦艦ではなく航空機にとってかわられた時代に咲いた大輪の仇花のようです。
そんなものを作り出してしまう人間の業を考えさせられました。