むぎわら日記

日記兼用ブログです。
野山や街かどで見つけたもの、読書記録、模型のことなどを載せております。

『野の春』宮本輝(新潮文庫)

2022年01月11日 | 読書
流転の海第9部、とうとう最終巻を読了しました。
宮本輝が37年間かけ、劇中で21年間が経過しています。
こんな小説が完結しただけですごいのですが、最後までクオリティが落ちないというか上がっていくのでさらにすごかったと思いました。
50歳で初めての子を授かった主人公の熊吾は、この子が二十歳になるまで生きるという誓いを立てます。その子は21歳になり、熊吾は71歳に。
未熟児だった子を育てるため、大阪の会社を引き払って四国の田舎に移ってから、金運に恵まれない熊吾でしたが、なんとか誓いを果たせたのでした。
そのとき、熊吾の運命は尽きます。
多くの人と関わりながら、不幸になった者も、幸運になった者もいました。
まさに様々な宿命が流転する海を泳ぎ切った最期だと思いました。
そして、残された人々は、またそれぞれの海を泳ぐことをはじめるのでした。
小説が疑似体験を主とした芸術であるなら、終戦からの20年間を、松坂家の人々とともに体験した感が残る本作もまた本物の小説と言えるでしょう。

コメント
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