地下室にこもった男がつづった物語を、読者が読まされる形式の小説となっています。
その男自体が主人公となるのですが「自尊心が低く、かつプライドが高い」困った性格をしていて、世の中の全員が敵だと思っているような人間です。
地上が生きているのが苦しくて、地下で本を読んで暮らしている設定なので、現在で言えば、引きこもりでしょう。こういう人間がロシアにも多くいるというのですから、昔から引きこもりというのはあったのです。
その男が、自分が主人公の物語を手記という形にしたためいるのですから、面白い話の訳がありません。前半の3割程度と、後半7割程度のボリュームで2つの話が載っていて、前半の話は、面白くもなんともない、この『地下室の手記』を真似てシロートが書いたらこうなるみたいな小説でした。後半は、プロの小説家の仕事で、小説はこう書けば、こんなネタでも小説として面白く読めるよ、というお手本のような出来です。
私は、令和元年の「京都アニメーション放火殺人事件」の犯人を思い浮かべてしまいました。彼とドストエフスキーの違いは、この作品の後半のような小説を書けなかったのでしょう。
解説によると、この後につづく『罪と罰』から『カラマーゾフの兄弟』までの5大長編へつづく転換点となった作品だそうです。つまならい人間の普遍的な性質を物語として面白く書く才能が開花した記念すべき作品となったということでしょうか。
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