企業における人件費支払能力測定の実務:第8回
―K社の過去5年の実績を見る―
このシリーズのテーマが、支払能力測定の実務ですから、企業の経営数字の具体例を出さないと、具体的な測定(計算)は出来ません。
これまで全部で13種類の経営指標を説明していきましたが、すでによくご存じの方には蛇足だったかもしれません。
という事で今回は「K社」という電機・精密機器の部品製造業の中堅企業の例を出してみました。もともと研磨の技術で伸びてきた企業です。
先ず、最初の2枚の表をご覧ください。過去5年間のK社の具体的な数字(現実の数字を多少改変)を出してみました。付表1、付表2
付表1は必要な勘定科目の数字をB/ S とP/Lから引っ張り出したものを掲げ、付表2には、それらを使って13の比率を計算したものの一覧表です。
数字を追って動きをご覧になるのには、字が小さいので、プリントアウトして並べて御覧頂けるとありがたいです。
各勘定科目や比率を克明にたどると、それだけで何日もかかってしまいますので、基本的な動きと、ちょっと気になると思われるような点について、その理由を説明する程度にします。
先に書きましたように、財務に詳しい方の力を借りて分析して頂くのが良いかと思います。。
但し、皆さんにとってわが社の数字ではありませんから、要は、実績の分析と、その後の計画の策定の具体的なやり方をご理解いただくという意味での手順の説明という事になります。
先ず、過去5年の実績ですが、2016年度は勿論実績見込みです。
2012年までは日本経済は$1=¥80といった円高に呻吟し、デフレ不況のどん底、2013年の後半に至って徐々に円安傾向が現れ、2014年4月、黒田日銀の金融緩和で$1=¥100になり、さらに2015年秋の異次元金融緩和で$1=¥120と日本経済は様変わりになりました。
この経済環境の大きな変化はK社でも明らかです。当然輸出がありますから円安差益が利益を押し上げるといった効果が顕著です。
2013年から売り上げはプラスに転じ(今年度は踊り場か)、付加価値率は20%レベルを回復、付加価値生産性も順調に伸び始めました(今年度は停滞)。それに対して1人当たり人件費は回復期にも微減状態で、労働分配率は2012年度の65.1%から、今年度まで傾向的に下がり60.8%と低下です。13年度から新卒採用を開始、人件費総額は増えていますが、1人当たりは低下です。初任給で全体が薄められたこと、非正規の採用もあったこと、特に今年度の人件費減は、残業規制の影響があると思われます(昨年並みの賃上げはしました)。
本来の堅実型の経営で自己資本比率は高めの会社です。13年度多少設備投資をしましたが、在庫圧縮で総資産はあまり増えず、その後の総資産増加も抑制気味で、総資本回転率はほとんど変わらず、微かな上昇程度で、1.5回を超える水準は自慢できると思います。
金利水準が高いのは、気になりますが、借り替えなどで低くすることが可能でしょう。。
資本生産性は、設備投資をしましたが売り上げ増、付加価値増で安定、資本装備率は従業員増でも上がっています。
財務比率は順調・良好で、経営は安定していますが、気になるのは、景気回復の中で、労働分配率(付加価値の中の人件費の構成比)の低下が進み、1人当たり人件費が上がっていないことです。世間並みの賃上げはしているのですから、低下は人員構成の問題という事でしょうが、労使ともに重視している「正規化希望の非正規従業員」の正規化も含め、従業員配慮を進めることで、従業員のやる気を引き出すような人事施策も必要なように思われます。
次回以降、このフォーマットを利用して、5年後の経営目標を立て、人件費支払能力と、雇用量、1人当たり人件費の水準の計画策定を考えたいと思います。
―K社の過去5年の実績を見る―
このシリーズのテーマが、支払能力測定の実務ですから、企業の経営数字の具体例を出さないと、具体的な測定(計算)は出来ません。
これまで全部で13種類の経営指標を説明していきましたが、すでによくご存じの方には蛇足だったかもしれません。
という事で今回は「K社」という電機・精密機器の部品製造業の中堅企業の例を出してみました。もともと研磨の技術で伸びてきた企業です。
先ず、最初の2枚の表をご覧ください。過去5年間のK社の具体的な数字(現実の数字を多少改変)を出してみました。付表1、付表2
付表1は必要な勘定科目の数字をB/ S とP/Lから引っ張り出したものを掲げ、付表2には、それらを使って13の比率を計算したものの一覧表です。
数字を追って動きをご覧になるのには、字が小さいので、プリントアウトして並べて御覧頂けるとありがたいです。
各勘定科目や比率を克明にたどると、それだけで何日もかかってしまいますので、基本的な動きと、ちょっと気になると思われるような点について、その理由を説明する程度にします。
先に書きましたように、財務に詳しい方の力を借りて分析して頂くのが良いかと思います。。
但し、皆さんにとってわが社の数字ではありませんから、要は、実績の分析と、その後の計画の策定の具体的なやり方をご理解いただくという意味での手順の説明という事になります。
先ず、過去5年の実績ですが、2016年度は勿論実績見込みです。
2012年までは日本経済は$1=¥80といった円高に呻吟し、デフレ不況のどん底、2013年の後半に至って徐々に円安傾向が現れ、2014年4月、黒田日銀の金融緩和で$1=¥100になり、さらに2015年秋の異次元金融緩和で$1=¥120と日本経済は様変わりになりました。
この経済環境の大きな変化はK社でも明らかです。当然輸出がありますから円安差益が利益を押し上げるといった効果が顕著です。
2013年から売り上げはプラスに転じ(今年度は踊り場か)、付加価値率は20%レベルを回復、付加価値生産性も順調に伸び始めました(今年度は停滞)。それに対して1人当たり人件費は回復期にも微減状態で、労働分配率は2012年度の65.1%から、今年度まで傾向的に下がり60.8%と低下です。13年度から新卒採用を開始、人件費総額は増えていますが、1人当たりは低下です。初任給で全体が薄められたこと、非正規の採用もあったこと、特に今年度の人件費減は、残業規制の影響があると思われます(昨年並みの賃上げはしました)。
本来の堅実型の経営で自己資本比率は高めの会社です。13年度多少設備投資をしましたが、在庫圧縮で総資産はあまり増えず、その後の総資産増加も抑制気味で、総資本回転率はほとんど変わらず、微かな上昇程度で、1.5回を超える水準は自慢できると思います。
金利水準が高いのは、気になりますが、借り替えなどで低くすることが可能でしょう。。
資本生産性は、設備投資をしましたが売り上げ増、付加価値増で安定、資本装備率は従業員増でも上がっています。
財務比率は順調・良好で、経営は安定していますが、気になるのは、景気回復の中で、労働分配率(付加価値の中の人件費の構成比)の低下が進み、1人当たり人件費が上がっていないことです。世間並みの賃上げはしているのですから、低下は人員構成の問題という事でしょうが、労使ともに重視している「正規化希望の非正規従業員」の正規化も含め、従業員配慮を進めることで、従業員のやる気を引き出すような人事施策も必要なように思われます。
次回以降、このフォーマットを利用して、5年後の経営目標を立て、人件費支払能力と、雇用量、1人当たり人件費の水準の計画策定を考えたいと思います。