マネー経済と格差問題
マルクスの時代には、資本家が労働者を安い賃金で使って、利益を上げ、格差(貧富の差)が拡大しました。賃金基金説などいう説もあって、賃金はあらかじめ資本家が決めた基金の額だけ労働者に分け与えるものなどと考えられたりしました。
こうした資本家が労働者を搾取して格差が拡大することを批判して、社会主義、共産主義が生まれたことはすでに指摘しました。
ところで、今日のマネー資本主義と言われる状況の中ではどうでしょうか。
賃金は一応労使交渉で決まるようになっており、最低賃金制もあって、賃金決定の合理性や、格差拡大阻止の政策も整備されているのですが、ピケティが指摘するように、資本収益率の方が経済成長率より高いので、賃金が経済成長率と同様に上がっても格差は拡大するというのです。
ピケティは過去のこうした統計数字の分析から、何時の時代もそうだ(1960年台は例外として)と言っているのですが、マネー経済、金融工学などが盛行する今日の状態は、更に進んだ要素を生んできています。
今、資本家(もちろん全部ではありませんし、一般市民の一部も指向しています)の多くは、労働者を搾取して利得を得るのではなく、労働者など使わずに、マネーマーケットに金を投資するだけで、膨大な利得(キャピタルゲイン)を得ることが可能になっています。
所謂、投資から投機へ、さらに多様な手段(信用取引、高レバレッジ、各種のデリバティブなどの活用、金融工学の発達)を擁するマネーゲームの巨大な世界が育っているのです。
その世界の資金量は、GDPという指標で語られる実体経済が活用している資金量とは(正確な数字は産出不能と言われますが)複数桁違いに大きい数字になると言われる状態です。
こうしたマネーゲーム、金融工学の世界は、もともとアメリカが、実体経済の赤字を、マネー経済で取り戻そうとして発達させたと言われますが、今や、世界では(法人税率を低くして)マネー立国を志向する国まで生まれているのが現実です。
アメリカ有名なヘッジファンドや投資銀行などの機関投資家といわれるプレーヤーの収益は巨大で(ときには巨大なロスもあるようですが)、関わるパートナーたちの報酬は、実体経済におけるビジネスとは比較にならない巨額という指摘もあり、その影響が実体経済に関わる経営者の報酬を吊り上げているなども言われています。
しかし、そうしたマネー経済分野の報酬や賃金が実体経済に関わる人たちの賃金に影響することは一般的には起きていないようで、実体経済の世界とは別世界の現象のように見られているようです。
とわいえ、人口の1%がその国の富の9割を所有するなどというのは、まさに異常な格差社会でしょう。
ただおかしなことに、その影響が、労働者のへの配分「賃金水準」を低く抑えるようなことになっているかというと、そうでもないようですし、巨大なキャピタルゲインが、消費者物価の上昇を齎しているかというと、そうでもないようです。
これは一体どういう事でしょうか。