母子3人が亡くなられた先日の下松での事故について、運転手の家族が「朝の3時4時に出勤したり、夜中だったり・・・でも家事はきちんと・・・」語っておられると新聞に出ています。
たくさんの学生が亡くなったスキーバスの時もそうでしたが、僕はこういった事故の根っこには規制緩和でどんどんと運賃が下げられ最後は労働者に跳ね返ってきていると思います。そして下の大企業や大金持ちが税金逃れでペーパー会社を海外に作り続けられることと結びついていると思います。
パナマ文書の流出元となったパナマ市内の法律事務所「モサック・フォンセカ」(画面奥)。マネーロンダリングなどに関わった疑いでパナマの検察当局は12日、同事務所を家宅捜索した。文書に端を発した課税逃れ問題は日本にも波及するか=AP
中米パナマの法律事務所から流出した内部文書「パナマ文書」は、各国首脳がタックスヘイブン(租税回避地)にため込んだ“隠し財産”を暴いた。5月上旬には個人名や法人名などの基本情報がウェブサイトに公開されるという。アイスランドでは首相辞任にまで発展したパナマ文書旋風。日本にも社会を揺るがすような衝撃を与えるのか−−。【小林祥晃】
新情報求め、来月一部公開
「国会議員とその家族の名前がパナマ文書にあるか調べましたが、今のところ見当たりません。ただ、私たちの調査にも限界があります。5月にデータの一部が公開されれば、把握していなかった親族や秘書、知人などの名前を使ったケースが発覚し、状況が変わるかもしれません」
こう語るのは、パナマ文書を入手した「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)に加入する朝日新聞編集委員の奥山俊宏さんだ。ICIJは世界65カ国、約190人の記者が参加する非営利組織。日本からは朝日新聞社と共同通信社が参加しており、奥山さんは2011年から会員になった。
パナマ文書は、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した1150万点の内部文書。同事務所がタックスヘイブンで会社設立の手助けをした世界の富裕層や企業との契約書類、メールが含まれ、データ量は2600ギガバイト。これは、内部告発サイト「ウィキリークス」が10年に入手した米国の外交公電の約1500倍にあたる。
ICIJ加盟社は、この文書の分析や取材を進め、各国首脳によるタックスヘイブンを使った課税逃れの疑惑を今月3日から全世界で一斉に報道し始めた。5月上旬に公開されるのは、文書の中に出てくる21万以上の法人名と役員・株主名などの基本情報に限られるが、ICIJのウェブサイトにアクセスすれば、誰でも見られるという。
パナマ文書の日本関連分を分析してきた朝日新聞と共同通信は「日本在住者では約400人の名前が確認された」と報じた。共同は「警備会社セコムの創業者の名前もあった」とも伝えた。セコムは毎日新聞の取材に「日本の税務当局から求められた情報は随時、開示しており、合法的に処理されていると聞いている」と、適法性を強調する。ならば、問題はないのか。
奥山さんは「文書に名前があるからといって全て違法というわけではありませんが、合法であっても法や制度の欠陥の問題提起になるケースはあると思う」と話す。パナマ文書の基本情報を公開する理由についても「市民の情報や知恵も借りながら、社会全体で問題を共有するという意義がある」と指摘する。富める者が税を払わずにすむ仕組みのままでいいのかという根源的な問いかけである。
税逃れ会社設立「簡単です」
パナマ文書の衝撃は対岸の火事ではない。「日本の一流企業でタックスヘイブンに子会社を持っていない企業はないんじゃないかな。有能な経営者はタックスヘイブンを使って納税額を抑えていますよ」。企業の納税実態に詳しい中央大学名誉教授(税務会計学)の富岡幸雄さんは、あっさりと断言する。
終戦直後の1946年から15年間、国税庁に勤務し企業の申告漏れの摘発に辣腕(らつわん)を振るい、91歳の現在も学者として課税逃れの実態を調べている。富岡さんは「世界の税制を知り尽くした税理士や会計士の集団が、顧客である多国籍企業や経営者に課税逃れの手法を提案し、報酬を得ている」と指摘。「彼らは『タックスプロモーター』と呼ばれていて、日本にもこうした助言をする事務所はいくつもある」と語る。
実情はどうなんだろうと、都内の一等地で国際会計事務を扱うオフィスを訪ねてみた。「分かる者が全員席を外しておりまして」と門前払いが数軒続いた後、ようやくパナマ船籍の登録業務をしている会社が「うちはやっていませんがね」と言いながら、課税逃れ目的の会社設立の手続きについて解説してくれた。
「パナマにペーパーカンパニーを作るのは簡単ですよ。役員を決め、数十万円の手数料を払えば数日で作れます。契約しているパナマの法律事務所に書類を送れば、現地の弁護士が手続きしてくれる。もちろん現地に行く必要はありません。富裕層や大企業の資産管理専門の業者は少なくないでしょうね」
日本でもタックスヘイブン経由の課税逃れが横行しているとは……。規制することはできないのか。富岡さんに尋ねると、「政府も手をこまぬいてきたわけではないんだけれど」と複雑な表情を浮かべ、摘発の難しさを語った。
「78年にはタックスヘイブン対策税制を整備し、悪質なケースは摘発してきた。しかし、税制には必ずグレーゾーンがあり、規制範囲は国ごとに異なる。課税権は国の主権だからです。ところが、経済活動に国境はない。そこに隙間(すきま)ができる。隙間を突く者は必ず現れ、いたちごっこになるんです」
ツケ払うのは一般の国民
菅義偉官房長官はパナマ文書の報道が初めて出た直後の6日の会見で、税務調査は「考えていない」と述べ、当初は関心を示さなかった。しかし15日になって一転、「税務調査を行うなど適切な対応に努める」と政府答弁を出した。主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がこの問題への対策を強化する動きを見せたため、重い腰を上げて国際協調の姿勢を示したとみられる。
鈍い日本政府の反応とは対照的に、公益財団法人「政治経済研究所」理事で、タックスヘイブンを使った闇ビジネスに関する著書がある合田寛さんは「日本の国民はもっと怒っていい。今回の騒動は租税回避問題に国民の目を向けさせるチャンスだ」とパナマ文書の公開を積極的に評価する。「一部の富裕層だけが課税を逃れられるというのは、極論すれば民主主義の危機です」と自身も本当に怒っている。どういうことか。
「一番の問題は、タックスヘイブンを利用できるのは手数料などを負担できる富裕層や多国籍企業に限られることです。国際通貨基金(IMF)の調査では、経済協力開発機構(OECD)加盟国だけで、年間50兆円近くもの額を徴税できるのに、その機会が奪われていると言われます。税収不足のツケは結局、国内で納税する国民に回ってきます」
真面目に税を払っている企業や国民の納税額に直結する問題という見方は富岡さんも同じだ。「そもそも日本の税制は大企業に甘すぎる。私の試算では、大企業優遇の税制を見直せば、法人税率を上げずに年間9兆円の税収を確保できる。消費税も上げる必要はない。国民はもっと怒り、寝ている政府を起こすべきだ。租税回避に詳しい税理士を国税庁の味方につけて摘発に当たるとか、日本政府がやれることはたくさんある」
パナマ文書公開だけでは、資産を隠す日本の企業や富裕層は震えない。「国民は課税逃れに怒っている」という声を上げ、新たな社会規範と法制度につなげなければ−−。
■ことば
タックスヘイブン
外国企業に対する税率が極めて低いか無税の国などのことで、パナマの他、カリブ海の英領ケイマン諸島、英領バージン諸島などが有名。多国籍企業や富豪が課税を逃れるため、投資会社や子会社を設置し、資産や利益を移すケースが多い。こうした国などは各国の金融当局に対し情報開示に非協力的なため、マネーロンダリングなど犯罪の温床になるとの批判も高まっている。