明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(213)「子どもたちを守れ」「原発ゼロへ」(派遣村テレビシンポ第二回)

2011年08月01日 15時30分00秒 | 明日に向けて8月1~31日
守田です。(20110801 15:30)

7月18日に大阪で、「清水ただしの派遣村テレビ」公開収録があり参
加してきました。番組3週間分のシンポジウムが行われたのですが、
そこに弁護士の大前治さんとともに、パネリストとしてお話しさせて
いただきました。

その第二回分がオンエアになっています。ぜひ下記をご覧下さい。
脱原発団扇も紹介しました。(20分ごろからです)
http://hakenmura.tv/

今回は原発問題が中心でした。二つの話題のもとに以下のような
話をしました。

「子どもたちを守れ」

○なぜ子どもが危ないのか・・・活発に細胞分裂しているときが一番、
危ないため。また放射線は女性の方が感受性が高い。個人差も激しい。
ごく少量から身体に影響を受ける人もいる。

○食料汚染の問題。牛肉のセシウム汚染が問題になっているがそもそ
も日本の基準値は他国と比較してとても甘い。ヨーロッパなみにすれ
ばもっとたくさんの食品が基準値以上になる。基準をもっと厳しくす
ることを求めることが必要であるとともに、すでにたくさんの汚染さ
たものが出回っていることに腹をくくる必要がある。

○どういうものが危険なのかといえば、どこからどこに動いているの
か流通ルートが分からないもの。加工食品や外食では食材の安全性の
確かめようがない。

○では何を食べればいいのか。そのとき考えるべきことは、私たちの
周りには放射能以外にもたくさんの危険な化学物質があるということ。
それらをできるだけ取り入れないようにしていくことが大事。

○例えば玉子は鶏舎に鳥を押し込めて、いわば虐待してたくさん産ま
せている現実がある。鳥が大変なストレスを受けることに対して、
トランキライザーなどを使って鳥をおちつけている。こうした化学物
質はとても危険。有機農家は、そんなことをしないで鳥を平らなところ
で走り回らせて飼っている。その玉子の方が安全でおいしい。

○そのため、どこからきて、どこにいくのか分からない食べ物は危ない。
放射能汚染地帯は別だけれども、地産地消で、顔の見える関係の中で
信頼のできる生産者から食材を手に入れていくことが一番安全。

○そもそも放射線の危険性に対する考え方でも日本の考え方や基準はと
ても緩い。ICRP(国際放射線防護委員会)は、放射線には安全な値はな
いと言っている。低い時から高い時に正比例して上がって行くという
考えに立っている。ただし低い時の害はとても小さいとも言っている。

○これに対してECRR(ヨーロッパ放射線リスク委員会)は違う考え方
を採っている。放射線はむしろ低線量の時の方が人体に強い影響を与
える。グラフで言えば上方に凸型の曲線が描かれる(対数曲線)。あ
る程度の線量になると影響は横ばいになっていく。低線量被曝の危険
性を重視した考え方に立っている。

○日本政府は(見解が揺れているが)しきい値、これ以下は安全な領
域があるかのような言説を繰り返している。多くの学者が100ミリ
シーベルト以内では害は生じないとか、それ以下の害は立証されてい
ないとか述べている。ECRRと比べて、放射線の危険性を非常に低く見
つもっている。このように食品の安全基準も、放射線の危険性への認
識も非常に緩いのが日本の現実だ。


「原発ゼロへ」

○原発は事故が起こったら取り返しがつかないだけではなく、通常の
状態でも放射能を出している。それを一番受けているのが原発労働者。
点検の時など中に入っていって、雑巾で拭いたりしている。誰かの
被曝を前提にしたのが原子力発電だ。

○アメリカでこのことの研究が行われた。1950年から1989年まで、
アメリカで乳がんの死亡率が2倍になった。その原因を調べてみると、
とくに激しくあがっている地域や他の要因が考えられない地域はみ
な、原発から100マイル(160キロ)に入っていた。311以降、アメリカ
は福島原発から半径80キロ以内への立ち入り禁止をアメリカ人に通告
したが、これは100マイルの半分の50マイルにあたる。

○節電についてどう考えるか。エアコンは使ってはいけないか。そん
なことはない。家庭や個人の電力消費がそれほど多いわけではない。
もちろん無駄な使い方は論外だ。むしろ原発のために電気をどんどん
無駄に使うシステムが作られている。それをカットしていけばいい。

○例えば自動販売機は、真夏の炎天下に鉄の箱を置いてその中で
ジュースを冷やしている。冬の寒いさなかに、一晩じゅう、誰も飲ま
ないコーヒーを温めている。こうしたことをカットしていけば、充分
に電力を減らせるし、むしろ暮らしの質を良くすることができる。

○例えばコンビニのセブンイレブンは、セブンイレブンに戻って欲し
いと思う。朝7時から夜11時までの営業にする。光は生物にとって大事
なので、生物は光を見ると集まっていく習性がある。夜中にコンビニ
に光がこうこうとついていると、つい吸い寄せられてしまうことがある
と思うが、あれはそれを考えたルックスになっている。

○その前で最近は一晩中、蝉が鳴いている。草木も眠る丑三つどきに、
蝉が鳴き続けている。これは生態系への大きな打撃だ。こうしたことを
やめて、町が暗くなった方が、私たちはぐっすり眠ることができる。
だから無駄な電気を使わなくすることで、私たちは暮らしをよくする
ことができる。電気を減らすと暮らしが悪くなるというのは電力会社の
おどし文句。真実ではない。

○例えば節電のために団扇を使うのもいいが、それは私たちの伝統文化
の見直しになったりする。こうしたことを京都から呼びかけて、今年の
お祭りで、脱原発団扇をあちこちで撒いて、パタパタと放射能と原発を
追い払うという動きがある。祇園祭りで撒いて、天神祭でも撒き、仙台
の祭りでも撒くそうだ。これはとてもセンスがいいと思う。

○日本の伝統的な団扇をうまいこと使ってアピールしている。団扇を
使う生活も楽しいことが思い出される。そうやって考えると、電気を
減らして、生活のクオリティをあげる可能性もいろいろ見えて来る。
そうした発想で自然エネルギーを考えていけば、未来は明るいと思う。

○自然エネルギーについて大事なのは、どのような種類かよりもどの
ように管理するかだ。例えば小水力、水車などはとてもいい。小さな
コミュニティー単位で管理ができるからだ。それに対して今は、
電力が完全に独占体制にある。

○エネルギーとコミュニティの関係の矛盾の象徴が福島原発だ。あの
原発は東京電力管内にはない。だから原発そのものは東北電力の電気
で動いている。福島で発電した電気は福島では使われず、東京に送ら
れて使われている。新潟の柏崎刈場原発も同じ構造にある。

○このようなあり方を変えていくためには、どのような自然エネルギ
ーを使うかだけではなく、どのように使うかが大事。そのためには消
費者がどのように発電された電力を買うのか選べるようにすることも
大切だ。ヨーロッパではこうした仕組みが実現している。

○電力の販売の仕方なども含めて、変えていったときに、コミュニ
ティーを豊かにしていくエネルギーのあり方も可能になってくる。

以上。


なお一回目の話題は、「新たな貧困」と「まだまだ続く派遣切り」
でした。この放送は以下から見れます。
http://www.youtube.com/watch?v=M59Ltsmsi5E&feature=player_embedded

また過去に出演した回も貼り付けておきます。

○4月30日 福島原発事故について
http://www.youtube.com/watch?v=s5jKoYRBQ08&feature=related

○6月11日 事故対策、チェルノブイリ事故との比較、
正常性バイアスなど 
http://www.youtube.com/watch?v=xf1hyRqd_qc&feature=related

○6月25日 核兵器開発の副産物としての原子力発電と、
放射線から身を守る方法 
http://www.youtube.com/watch?v=GNEhFjWWOp8&feature=related


コメント (1)
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明日に向けて(212)南相馬の放射能汚染除去について考える(児玉龍彦教授の発言によせて②)

2011年08月01日 11時30分00秒 | 明日に向けて8月1~31日
守田です。(20110801 11:30)

児玉さんの発言内容の考察の2回目です。

今回の児玉さんの発言は、東大アイソトープ総合センターにおける、
南相馬市を主な対象とした放射能汚染除去の実践に基づいたものでし
た。それだけに厚みのあるものでしたが、こうした活動にむけて児玉
さんは、6月25日発行の、同センターニュース(Vol.42 No.1)におい
て、決意の表明を行っています。(末尾に貼り付けます)

この文章の最後を、児玉さんは「東大のアイソトープ総合センターか
らも福島汚染地域の一時帰宅の支援に、専門家派遣を開始している。
全国のアイソトープ研究者の英知を傾けて汚染土壌の除染にむけ努力
する時がきたと思われる」と結んでいますが、いまここで問題にした
いのは、南相馬市の現実です。

というのはすでに「明日に向けて」(204)でもお伝えしてきましたが、
南相馬市は全村避難を完了した飯舘村の東隣であり、高濃度の放射能
汚染の被害を受けており、プルトニウムをはじめ、さまざまな核種に
よる汚染も懸念されているからです。

この点について、同市の大山こういち市議がユーチューブで危機を発
信しています。URLは以下の通りです。
http://www.youtube.com/watch?v=a4AoaGuLoMk

なおこの動画の全文起しを、明日に向けて(204)に掲載しています。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ecfc5630f05acaf7804b66497782dcc2

大島さんは同時に、ここで6月6日に原子力安全保安院が、IAEAに提出
した報告書の中で、31種類もの放射性核種が大気中に放出されたとさ
れていることも明らかにしています。
この保安院が発表した31種の放射線核種大量放出情報は、以下から閲
覧できます。分量の大きな報告書ですが、13枚目の表5だけでもご覧
ください。驚くべき放出量です。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/20110606-1nisa.pdf

当然、児玉さんたちも、こうした保安院の発表などにも踏まえ、31の
核種の放出という事態を踏まえながら測定と除染を行っていると思わ
れますが、実は南相馬市一体の汚染がかなり深刻なのではないかとい
う懸念は、もっと前からネットなどで論議されていました。
そのうちのユニークなものを、「明日に向けて」(126)で紹介しまし
たが、ここでもまたこれに触れてみたいと思います。

これは、4月17日に福島入りして、福島市、飯館村、川俣町、南相馬市
を視察した枝野官房長官を、その服装に着目しつつおいかけたものを
で、ポイントとなることは、枝野官房長官が、南相馬市でだけ、「妙
に重装備だった」ことです。

タイトルは【意見映像】「福島県浜通りはプルトニウムで汚染されて
いるのではないですか」。作成者は「うp主」さんです。
まず映像をご覧ください。9分10秒の映像ですが、よくできています。
http://www.youtube.com/watch?v=I42g843fngw

以下、これに対する僕のコメントを「明日に向けて」(126)より抜粋
掲載します。

***

4月18日にいわき医師会が発表した放射線量は、毎時で、福島市1.7マ
イクロシーベルト、飯館村4.82マイクロシーベルト、南相馬市0.6マイ
クロシーベルトだった。にもかかわらず、枝野長官は、南相馬市でのみ
放射性対応の3M FFP3規格のマスクをしている。

現地視察でも、頭を完全に覆うフードとゴーグルを着装している。
「うp主」さんはこのように問うています。

「4月13日に福島県から発表された県内小学校の土壌汚染の結果にちょ
っと奇妙な点がある。・・・というのは南相馬市は土壌汚染は福島市
より低いのに、ヨウ素131の大気汚染は、福島市の8.4倍だ」
(4月5~6日のデータ)

「南相馬市やいわき市は、土壌汚染が低くて、空気中のセシウム濃度
も低いのに、空気中のヨウ素の濃度だけ、突出して高い。」

これを「うp主」さんは「多分、原発から気体状のヨウ素131が今も漏
れて周辺地域に拡散しているのだと思う」「それを知っていて隠して
いるとするならば、もはや犯罪行為」と断じています。

しかし・・・とこの方は、さらに推論を続けます。「たかがヨウ素や
セシウムが怖くてこんな重装備をするんだろうか?」と。

そして3号機の爆発シーンを流し、そのあとで「MOX燃料(ウランと
プルトニウムの混合燃料)の3号機の大爆発なのに、プルトニウムのこ
とはまったく報道されていない」ことを疑問として提示しています。

さらに汚染マップを表示して「原発の北西方向には濃い放射性物質の帯
が広がっているのに、北の南相馬市は、なぜか線量も土壌汚染も低い」
ことに着目しています。

これは何故なのだろうか。「うp主」さんは、ここから、測られている
のはγ線のみで、α線やβ線が未測定なのではないか。それを発する
プルトニウムやストロンチウムが測られていないのではという疑問を
示唆しています。

その上で、「うp主」さんの「妄想的」と銘打った推論が続きます。
「原発が爆発したときに、大量の放射性物質が放出された。このうち、
飛び散りやすいヨウ素やセシウムは、阿武隈山地を越えて、福島中通り
に到達し、飛散しにくいプルトニウムやストロンチウムは、浜通りに
蓄積したのではないか。そのため南相馬市周辺にプルトニウム汚染が
広がっているのではないか」という点です。

だから、枝野長官は、この南相馬市訪問のときにのみ、重装備だった
のではないかというのです。それが「フルアーマー」の理由だった
のではないか。

「うp主」さんはこう結論づけています。

「南相馬市やいわき市は空気中のヨウ素131の濃度も高く、高度にプル
トニウムに汚染されている可能性があります。お子様、乳児がいる家庭、
妊娠中の方、一刻も早く避難することを強くお勧めします。」

さて、この映像を繰り返し見て、何よりも、枝野長官の服装に着目し、
南相馬市だけ重装備だったところから、この地域へのプルトニウム飛散
の推論を立て、それを空間線量データなどから裏付けている「うp主」
さんの論証は、裁判で言えば、状況証拠を重ねていく手法のようでなか
なか見事であり、説得力があるように思えました。

僕自身は、プルトニウムが阿武隈山地を超えなかったかどうか、結論づ
けるには論拠が足りないと思いますが、少なくとも原発の直近にプルト
ニウムなど、「重い飛散しにくい」と言われてきた放射性核種が、さま
ざまに存在しており、それを知るが故に、枝野長官が、フルアーマー
だったのではという「うp主」さんの推論は説得力があると思います。

***

さてこれらに踏まえつつ、再度、児玉さんの発言に戻って考察したとき
次の指摘が目につきます。(以下、児玉さんの国会発言から)


「・・・それを見ていただきますが、まず一番有名なのはα線です。

プルトニウムを飲んでも大丈夫という東大教授がいると聞いて、
私はびっくりしましたが、α線は最も危険な物質であります。それ
はトロトラスト肝障害というところで、私ども肝臓医は、すごくよ
く知っております。

要するに内部被曝というのは、さきほどから何ミリシーベルトと
いう形で言われていますが、そういうのは全く意味がありません。
I131(ヨウ素131)は甲状腺に集まります。トロトラストは
肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。
これらの体内の集積点をみなければ全身をいくらホールボディ
スキャンしても、まったく意味がありません。

トロトラストの場合、これは造影剤でして、1890年からドイツで用
いられ、1930年頃から日本でも用いられましたが、その後、20から
30年経つと肝臓がんが25%から30%起こるということが分かってま
いりました。最初のが出て来るまで20年というのが何故かと言うと、
トロトラストはα線核種なのですが、α線は近隣の細胞を障害しま
す。そのときに一番やられるのは、P53という遺伝子です。」

(児玉さんの発言の引用はここまで)


児玉さんはここで、南相馬市でα線核種が見つかったという主旨の
ことを述べているのではありません。しかし最も危険なものとして、
α線を出す核種について言及しつつ、こうした核種の差異を無視した
「シーベルト」換算は「意味がない」と言っています。

これらから受け取れることは、さまざまな核種の存在を前提にした
測定(数値だけでなく、何がどう汚染を与えているか)が求められ
るということではないかと僕には思えます。

なおα線を出す核種については、他にもキュリウムやアメリシウム
があります。これらはプルトニウム239と比較すると半減期が格段に
短い。つまり単位時間当たりで言えば、格段に多い量のα線を出し
ますが6月14日の朝日新聞に、4月29日から5月1日の測定で、原発
から10キロ圏内の大熊町・双葉町の4か所から、キュリウム242と
アメリシウム241が検出されたことがすでに報道されています。

これについてもかつて「明日に向けて」(149)で触れましたが、
ここで紹介した朝日新聞の記事も、参考までに末尾に貼り付けてきます。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/29360d5be7cccc6d875fbd108858455c

ともあれ原発周辺は汚染の深刻さが懸念されながら、政府は放置を
続けてきています。そんな中で子どもたちが1700人も、バスで移動を
繰り返させられています。きちんとした測定や大規模除染のないまま
にです。こうした南相馬市の人々の危機的な状況にこそ、私たちは
思いを寄せ、政府と行政による大規模な測定・除染の実行を求めて
いかなければならないと思います。

なお南相馬市での放射線測定については、チェルノブイリ救援・中部の
方たちも精力的に行っておられます。測定マップを完成させて、3日
午後6時より、説明会を行うそうです。この点について、「明日に
向けて」(208)にコメントをいただきましたので、ここに紹介してお
きます。

以下、竹内雅文さんの(208)への投稿です。

南相馬に通って放射線を測定しているチームのものです。
現在、市民が居住している区域のほぼ全域にわたって
ほぼ500メートルおきに測定したマップが完成しました。
全国からのボランティアの方々と地元、南相馬の方々と
一緒に測定した結果をまとめたものです。
3日午後6時より南相馬市労働福祉会館にて
マップの説明会をします。興味のある方、お出掛けください。
主催 npo法人 チェルノブイリ救援・中部


東大アイソトープ総合センターや、チェルノブイリ救援・中部の方々、
そして何よりも、大山こういち市議をはじめ地元の方々の活動に頭が
下がります。これは地元の方々だけではなく、本質的には私たち全体
に関わることがらだと思うからです。

南相馬市での放射線被曝からの防護や避難、可能な限りの恒久的除染が
進むことを願ってやみません。



**************************

半減期17年のセシウム137による土壌汚染の除染へむけ
東京大学アイソトープ総合センター長 児玉 龍彦

ニュースレターVOL 42 No. 1(2011)
 セシウム137は、天然にはほとんどなく、環境中にあるのは、ほと
んどが1940年代以降の核実験か原発事故などの産物である。そこでワ
インの鑑定などにも用いられる。有名なのはジェファーソンボトル事
件で、18世紀のシャトーラフィットのボトルというのに、セシウム
137が検出されて偽物と考えられたという事件である。

 セシウム137は強いガンマ線を放出し、1987年にブラジルのゴイコ
ニア市で、廃止された医療機関にあったセシウム137が盗まれ、光る
物質として250人の住民が接触し4人が放射線障害で死亡するという
被曝事故としては重要な事件もおこっている。

 日本では、農業環境技術研究所の駒村美佐子先生により、1958年か
ら1993年の35年間における日本の多数の田畑での、セシウム137の土
壌中の量が検討されている。1964年からは大気中の核実験の減少に伴
い飛散量が減少しており、それと関連してどのように土壌中のセシウ
ム由来の放射線が減少していくかについて、詳細に推計されている。

その結果によると、田んぼでも畑でも、土自体は40年で流出や流入で
半分が入れ替わる。セシウム137の半減期は30年であり、両方あわせて、
日本の田畑では半減期は17年となっている。

 今回の福島原発事故のあと議員会館に呼ばれ、農林水産委員長に尋
ねられた折、半減期は17年と申し上げたが、その翌日、首相が「放射
能は20年程度、消えないかもしれない。」と言ったか言わないかが
問題となってしまった。

 だが農地のセシウム濃度は、水田から玄米へ移行するセシウムの
データをもとに、上限1kgあたり5000ベクレルと設定されている。
文科省の土壌モニタリングを見ると、すでに1万ベクレル/kg の地域
は、福島市杉妻町など原発から60km 離れたところでも観測され、非常
に広範囲になっている。しかもセシウム137の沈着は5月に入ってか
も増加傾向があり、飯舘村などでは、3月からの推定被ばく線量が
20ミリシーベルトを超えるところもある。そうするとこれは首相の
決意と政策的な選択の問題ではなく、10年、20年以上の長期にわたる
除染作業が必須になる重大事態である。

 東大のアイソトープ総合センターからも福島汚染地域の一時帰宅の
支援に、専門家派遣を開始している。全国のアイソトープ研究者の
英知を傾けて汚染土壌の除染にむけ努力する時がきたと思われる。
http://www.ric.u-tokyo.ac.jp/news/news42-1.pdf

**************************

土壌からキュリウム検出 福島第一から2~3キロ地点

朝日新聞2011年6月14日0時58分
文部科学省は13日、福島第一原発から2~3キロの大熊町夫沢の
土壌から、ごく微量の放射性物質キュリウム242(半減期163
日)とアメリシウム241(同432年)が検出されたと発表した。

 土壌は4月29日~5月1日に10キロ圏内の大熊町、双葉町の
4カ所で採取した。そのうち、第一原発から西南西約2キロと約3
キロの夫沢地区の2カ所で、1キロあたり各0.032ベクレル、
0.0093ベクレルが検出された。アメリシウムは3キロ地点で
0.028ベクレル検出された。ほかの2カ所からは出なかった。

 両物質は、体内に吸い込んだ場合に影響の大きい「アルファ線」
を出す。しかし、今回検出された値は微量で、文科省は健康に影響
を与えるレベルではないとみている。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201106130567.html
コメント (1)
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