3日(日)。昨日の日経「文化欄」に文化部S記者の「教えることはいきがい~小澤征爾、復帰前に語る」という記事が載りました 記事を要約すると、
「小澤征爾は2010年に食道がんを公表し、手術を経てからも指揮活動に挑戦してきた 昨年3月には体力回復のため1年間指揮活動を休止すると宣言、リハビリに努めてきた。自身が音楽監督を務めるサイトウ・キネン・フェスティバル(SKF)で、ラヴェルのオペラ「こどもと魔法」を振る 恩師カラヤンから『オペラとシンフォニーは両輪』と教えられ、ザルツブルク音楽祭でモーツアルトの『コシ・ファン・トゥッテ』を指揮させてもらった。それがどれほど勉強になったかわからないほどだった 2000年に『小澤征爾音楽塾』を始め、後進の指導にあたっている。『お客さんの前に立てるか、リハーサルや体調の様子を見ながら決めたい。何か短い曲でも指揮出来たら、と思っている』と語る」
長野県松本市で毎夏開かれるサイトウ・キネン・フェスティバルで忘れられないのは、1999年に小澤征爾が指揮したベルリオーズの劇的物語「ファウストの劫罰」です。スーザン・グラハムの熱唱、ルパージュのアクロバティックな演出と相まって今でも心に強く残っています
閑話休題
昨日、初台の東京オペラシティコンサートホールで、東京交響楽団のオペラシティシリーズ第72回定期演奏会を聴きました オール・モーツアルト・プログラムで①歌劇「フィガロの結婚」序曲K.492、②ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219、③歌劇「フィガロの結婚」よりアリア、④コンサート・アリア”あなたは誠実な心の持ち主”K.217、⑤交響曲第38番ニ長調”プラハ”K.504で、指揮は常任指揮者ユベール・スダ―ン、②のヴァイオリン独奏は戸田弥生、③のソプラノ独唱は新垣有希子です
東響音楽監督スダーンはいつもどおりタクトを持たずに登場します。指揮台もありません。1曲目の「フィガロの結婚」序曲が軽快なテンポで進みます スダーンはメリハリをつけながら理想のテンポで曲を進めます
2曲目のヴァイオリン協奏曲第5番は1775年12月20日に完成された曲ですが、この年は6月から12月までの間に第2番から第5番までのヴァイオリン協奏曲を集中的に書いています 第5番が”トルコ風”と呼ばれるのは、第3楽章にトルコの音楽を思わせる曲想が現われるところから付けられました
ソリストの戸田弥生がグリーンのドレスを身にまとって、スダーンとともに登場します 1993年エリーザベト王妃国際音楽コンクール優勝の戸田も貫録の年代に達しました。顔の表情から、相当緊張している様子が伺えます スダーンの合図で第1楽章が開始されます。1740年製ガルネリの美しい音色が会場に響き渡ります。オケによる最後の一音が静かに鳴り終わると、やっと笑顔を見せました
アンコールにJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番から”サラバンド”を鮮やかに演奏しました
休憩後の最初のプログラムに入ります。ソプラノの新垣有希子が純白のドレスで登場、「フィガロの結婚」からスザンナのアリア「さあ、ひざまづいて」と「恋人よ、早くここへ」を表情豊かに歌います そして、コンサート・アリア「あなたは誠実な心の持ち主」を美しいコロラチューラ・ソプラノで歌い上げます 盛んな拍手に迎えられていました この人には”華”があるので、今後、人気が出ると思います
最後は交響曲第38番ニ長調”プラハ”です。交響曲は通常4つの楽章から成りますが、この曲は3楽章形式になっています。この曲が作曲された直前にはプラハの街で「フィガロの結婚」がもてはやされており、モーツアルトは相当気を良くしていたようです
第1楽章のアダージョの序奏部はまさに”ドン・ジョバンニ”の世界です ティンパ二が有効に鳴らされます。アンダンテの第2楽章を経て、オーケストラ総動員によるフィナーレを迎えます すべて聴き終わって思うのは、やっぱりスダーンのモーツアルトはいいな、ということです
〔プログラム3月号表紙はクリムト作”アッタ―ゼーの別荘”〕