6日(水)。昨夕、大手町の日経ホールで「第410回日経ミューズサロン」マティアス・シュルツのフルート・リサイタルを聴きました 当初、ウィーン国立歌劇場管弦楽団の元首席奏者ウォルフガング・シュルツが出演予定だったのですが、病気のため、子息が引き継ぐことになったものです
彼は1972年ウィーン生まれ。ウィーン国立音楽大学で父親のウォルフガング・シュルツに師事、1996年に首席で卒業し、2005年3月からウィーン国立歌劇場管弦楽団のフルート奏者として活躍しています
自席はG列8番、かなり前のやや左の通路側で、ソリストの顔の表情が良く見える席です 全610席の会場は前半分がかなり埋まっているものの、後ろ半分はぱらぱらといった感じです
これはソリストがウォルフガングからマティアスに変わったからか、それ以前の理由かは不明です
伴奏ピアニスト・鈴木慎崇とともに登場したマティアスは背が高くガッチリした体型の人です 前半1曲目の「フルートとピアノのためのハンブルガーソナタ」は、ヨハン・セバスチャン・バッハの次男C.P.E。バッハが1786年に作曲した作品です
第1楽章「アレグレット」、第2楽章「プレストのロンド」から成りますが、ちょっと聴いた感じではテレマンのような音楽で、軽快なメロディーが奏でられます
1786年と言えばモーツアルトがちょうど30歳、歌劇「フィガロの結婚」を作曲した絶好調の時です。同じ時代に生きた作曲家でこうも曲風が違うものか!と驚きます
2曲目はベートーヴェン「フルートとピアノのためのセレナーデ ニ長調」です。これは「フルート、ヴァイオリンとヴィオラのためのセレナーデ」を編曲したものです。私は初めて聴きました 第1楽章「アレグロ」の弾むような曲想から、第6楽章の「アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・ディジンヴォルト(急速にそして気楽に)」まで、全体的には明るい基調の楽しい曲です
休憩時間にはホワイエで「ミューズサロン」のスポンサーであるファンケルからHTCコラーゲンの無料サービスがあり、ヤクルト味の小瓶をいただきました 言う間でもなく、この間はコーヒーは売れていませんでした
後半1曲目はアルベール・ルーセルの「フルートを吹く人たち」です。第1曲「牧神」、第2曲「ティテール」、第3曲「クリシュナ」、第4曲「ドゥ・ラ・ぺジョーディ氏」の4曲から成りますが、それぞれ当時の名フルート奏者に捧げられました 前半の2曲から一転して、いかにもフランス音楽といった曲想です
2曲目のプーランクの「フルート・ソナタ」こそ、この日の”目玉”でしょう 第1楽章冒頭のメロディーを聴けば「あぁ、あの曲ね!」と、誰もが分かる有名な曲です。明るい中にアンニュイな雰囲気が醸し出された20世紀のフルート曲における名曲中の名曲です
前半の2曲ではマティアスは物足りなそうな感じでしたが、”やっと自分が吹きたい曲が吹けた”といった印象を受けました。彼の演奏は輝きに満ちていました
この日のプログラムを組んだのは父親であって彼自身ではないのですから、必ずしも自分が演奏したい曲ばかりではないでしょう しかし、プロは求められた条件の中で、いつでも実力を発揮することを求められているのです
プログラム最後はヴェルディ作曲ジュリオ・プリッチャルディ編曲による「”椿姫”によるファンタジー」です。プリッチャルディは名フルート奏者だったのですが、超絶技巧を披露するために編曲した作品です 歌劇「椿姫」の中から、ヴィオレッタのアリア、乾杯の歌など、有名な曲を超難しくアレンジした曲です。タンギングが難しそうですが、マティアスは何の苦労もなく輝かしい音色で美しくも哀しい「椿姫」の世界を描いていきます
拍手に応えて、バッハの管弦楽組曲第2番から最後の曲「バディヌリ」を鮮やかに、次いでエルガーの「愛のあいさつ」を表情豊かに演奏しました
さて、予定通り父親のウォルフガング・シュルツが演奏したらどうだったか・・・・・・と想像してみたくもなりますが、子息のマティアスは”ウィーンの風”を運んでくれたのではないか、と思います