10日(金)。わが家に来てから273日目を迎え,家の中を荒らしまわるモコタロです。
何だ坂 こんな坂 登り坂 下り坂 まさか ってか.
閑話休題
昨夕、上野の東京藝大奏楽堂で「東京藝大,ベルリン・フィルの首席クラリネット奏者ヴェンツェル・フックスを迎えて」公演を聴きました プログラムは①ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第4番”街の歌”」、②シューマン「クラリネットとヴィオラのための”4つのおとぎ話」、③プーランク「クラリネット・ソナタ」、④ヴェルディ「歌劇”運命の力”序曲」、⑤coba「30人のクラリネット達人のための~英雄の嘆き」、⑥メンデルスゾーン「コンツェルトシュテック第2番」です
全自由席です.小雨の中,上野公園を横切って開場時間を少し過ぎて奏楽堂に着きましたが,何とか1階12列25番,右ブロック左通路側席を押さえることが出来ました ベルリン・フィルの首席奏者の演奏が2,000円で聴けるとあってか,会場は老若男女を問わず8割方埋まっている感じです
1曲目のベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第4番変ロ長調」は”街の歌”という愛称で呼ばれています これはフィナーレの変奏主題に当時ウィーンで大流行していたヴァイグルのオペラ「海賊,または船乗りの愛」の第12曲の三重唱が使われているからです
演奏はクラリネット=フックス,チェロ=河野文昭,ピアノ=伊藤恵です.調性からして明るい曲ですが,私は第2楽章の冒頭,ピアノの伴奏に乗ってチェロが美しいメロディーを奏でるところが大好きです 第3楽章はいかにもオペラの三重唱を歌っているような楽しげな雰囲気の曲です
この3人のアンサンブルは本当に素晴らしいと思います
2曲目はシューマン「クラリネットとヴィオラとピアノのための”4つのおとぎ話”」です.この曲はシューマンが精神病院に入院する数か月前にわずか3日間で書き上げた作品ですが,曲を聴く限り,精神に異常をきたした作曲家による作品とは思えないほどリラックスしたロマンティックな曲です
クラリネット=山本正治,ヴィオラ=川崎和憲,ピアノ=伊藤恵による演奏ですが,『おとぎ話』という雰囲気が良く出た演奏でした.心地よい演奏だったせいか,前席の若い女性2人組は揃って右へ左へ舟を漕いでいました この3つの楽器の組み合わせは非常に珍しいですが,有名な曲としてはモーツアルトの「三重奏曲”ケーゲルシュタット・トリオ”」があります
次の曲はプーランク「クラリネット・ソナタ」です.初演はプーランクが死去した約3か月後の1963年4月10日で,ジャズにおけるクラリネットの第一人者ベニー・グッドマンと,かの大指揮者レナード・バーンスタインのピアノによって演奏されたということです 当時は願ってもない最高の組み合わせだったでしょう
第1楽章の冒頭は相当速いパッセージで,クラリネットが超絶技巧で演奏されます 曲想はプーランクらしい”軽妙洒脱”と言っても良いでしょう
あるいはエスプリに溢れた曲想と言っても良いかもしれません
伊藤恵の伴奏のもと,フックスは何の苦も無く軽快に演奏を展開します
プログラム後半は,ヴェルディ「歌劇”運命の力”序曲」から始まります ヴェルディのオペラの序曲の中では一番好きな曲と言っても良いかもしれません
30人のクラリネット奏者(東京藝大クラリネットアンサンブル)がステージに登場,左サイドに高音部のクラリネットが,右サイドに低音部のクラリネット(バゼット・ホルン,コントラバス・クラリネットなど)が配置され,ステージ中央にフックスと山本正治がスタンバイします
都響首席クラリネット奏者の三界秀実が指揮者として登場します.この曲は,曲自体が持つ独特の魅力があるので,聴いていると思わず引き込まれます
アリアに相当するパッセージはフックスが演奏しますが,歌心に満ちた見事な演奏です
次いでアコーディオン奏者で作曲家でもあるcobaの「30人のクラリネット達人のための~英雄の嘆き」が同じメンバーで演奏されます 聴いていて印象に残るのは,スラップ・タンギングと呼ばれる奏法(はじくような音色を出す演奏技術)です
まるでジャズを聴いているような気分になります
最後はメンデルスゾーン「コンツェルトシュテュック第2番」です.ステージ左サイドにフックスが,右サイドにバセットホルンの十亀正司がソリストとしてスタンバイします 「コンツェルトシュテュック」というのは小さな協奏曲という意味で,19世紀前半に好まれていたジャンルだということです
3つの楽章から成りますが,極めて短い曲なのであっと言う間に終わってしまいます.フックスも十亀も軽快に演奏し,楽しませてくれました
それにしても,メンデルスゾーンっていろいろな曲を作っているのだな,と思いました
アンコールにはモンティの「チャルダーシュ」が,フックスの超絶技巧によって鮮やかに演奏され,天下のベルリン・フィルの首席奏者の存在感をあらためて誇示し,コンサートを締めくくりました
プログラムにフックスのレッスンを受けた学生たちの声が掲載されています.「近くだと学生の方が音量がある感じがしても,ホールで聴くと先生の音が響いているのに驚いて,そんな音を間近で聴ける幸せ」という感想が印象的です 超一流のアーティストの演奏とはそういうものかも知れません