5日(火)。わが家に来てから646日目を迎え白ウサちゃんにキスを強要するモコタロです
いいだろう 減るもんじゃないし えっ 口が減らないって?
閑話休題
昨夕、サントリーホールで新日本フィル第560回定期演奏会を聴きました プログラムはマーラー「交響曲第8番 変ホ長調 ”千人の交響曲”」です
出演は、罪深き女=エミリー・マギー、栄光の聖母=市原愛、エジプトのマリア=中島郁子(ゲルヒルト・ロンベルガーの代演)、法悦の教父=マイケル・ナギー、懺悔する女=ユリアーネ・バンゼ、サマリアの女=加納悦子、マリア崇敬の博士=サイモン・オニール、瞑想する教父=シェン・ヤン。合唱は栗友会合唱団、児童合唱は東京少年少女合唱隊、コンマスは豊嶋泰嗣、指揮はダニエル・ハーディングです
ここ数日、レイフ・セーゲルスタム指揮デンマーク国立放送管弦楽団によるCDで予習してきました こういう難解で長い曲を聴くときには、”ながら”でもいいから何度も音楽を流して、曲を耳に馴染ませるのが一番です
開演直前、木管が練習に勤しんでいる中、P席に混声合唱が入場します 手前3列に女声陣、その後ろに男声陣、右サイドに児童合唱がスタンバイします
大人の合唱団が黒の衣装で統一しているのに対し、児童合唱団が白の聖歌隊服で統一しているのが対照的です
次いで金管楽器、弦楽器、打楽器が入場します。弦はチェロとコントラバスが左サイドに置かれ、ヴァイオリン・セクションが左右に分かれる対向配置が取られます
拍手の中、歌手陣が入場しオケの後ろ側にスタンバイし、同時に指揮者のハーディングが登場し指揮台に上がります。2階正面のパイプオルガンも準備OKです
ハーディングのタクトにより第1部の幕が開きます。オルガンと低弦に導かれて合唱が「来たれ、創造主、聖霊よ!われらの魂を訪れたまえ」と歌い上げます この曲は、最初からクライマックスです
第1部「賛歌:あらわれたまえ、創造の主 聖霊よ」、第2部「ゲーテ『ファウスト』第2部最終場面」から成りますが、第1部はハイテンションの音楽が約30分続きます
マーラーはこの曲について「交響曲は世界のようなものでなければならない。すべてを包含するものでなければ」、「これまでの交響曲はこの曲に対する序曲に過ぎなかった。どれも主観的な悲劇を扱ってきたが、この交響曲は偉大なる歓喜と栄光を讃えるものだ
」と述べています。
ところで、私は昔から、歴史に残る偉大な作曲家について、あるイメージを抱いています 前人未到の高い山を汗を拭き拭き登っている人がいます。それを暖かく見守っている太陽があります。さらにその世界を包む大きな宇宙の存在があります
高い山、それは孤高の音楽家J.S.バッハです。それを登っているのは努力の人ベートーヴェンです。そして暖かい眼差しを注いでいる太陽、それは天才モーツアルトです。そして、その世界を包み込んでいる宇宙がマーラーです
そういう意味では、マーラーの交響曲は、この第8番に限らず、すべての交響曲に宇宙を感じます
約30分休みなく続く第1部ではホルン、木管楽器のベルアップ奏法(楽器の先の部分を持ち上げて演奏する)が見られます これはマーラーの指示によるものでしょう。何しろ、マーラーが指揮した初演時には、ミュンヘン・フィルの前身であるカイム管弦楽団と、客席後方に配したバンダ(小楽団)が計171人、2つの合唱団と少年合唱団が850人、独唱が8人、指揮者マーラーを入れると1030人を超えていたということです
3000人の聴衆に訴えるにはベルアップでもしないと、音が届かなかったでしょう
さて、第1部がハイテンションのまま終わると、バリトンのナジとバスのシェンヤンの二人が舞台袖に引き上げます。第2部に入って合唱の後、バリトンとバスの独唱があるのですが、そのための準備です 第2部が始まると二人は指揮者のすぐ右サイドにスタンバイして歌います
二人は歌い終わると、もう後に出番がないので一旦舞台裏に引き上げます
第2部では歌手陣のソロが聴かれますが、一番良かったのは懺悔する女を歌ったソプラノのユリアーネ・バンゼ(南ドイツ出身)、そしてマリア崇敬の博士を歌ったテノールのサイモン・オニール(ニュージーランド出身)です この二人は文句なく世界的に通用する歌手です。共通点は恵まれた身体です
加納悦子も良かったし、代演の中島郁子も頑張りました
罪深き女を歌ったソプラノのエミリー・マギーは、新国立劇場で「フィガロの結婚」「イドメネオ」「影のない女」に出演しているとのことですが、記憶にありません 今回も決して悪くはなかったと思いますが、印象が薄いのはどうしたものでしょう
第2部も終わりに近づき、栄光の聖母を歌う市原愛が2階左サイドの扉の前に立って「さあ、いらっしゃい!もっと高い領域までお昇りなさい」と歌い上げます
舞台袖に引っ込んでいたバリトンとバスが舞台に戻り、トランペットとトロンボーンが2階P席上方にスタンバイし、合唱団により最後の「神秘の合唱」が歌われます 大管弦楽と大合唱によってフィナーレが演奏され、90分に及ぶ「千人の交響曲」が終結します
会場割れんばかりの拍手とブラボーが舞台に押し寄せます 何度かのカーテンコールの後、コンマスの豊嶋泰嗣からハーディングに大きな花束が贈呈されました
今回がハーディングの新日本フィル「ミュージック・パートナー」としての最後の公演です
ハーディングが通訳を伴って登場し、最後の挨拶をしました
「私が新日本フィルを初めて指揮したのは2011年3月11日でした(※東日本大震災の当日)。その日演奏したのは奇しくもマーラーの第5番でした あれから5年間に60回近くのコンサートで指揮をしてきました
こういう形で最後を迎えるとは思いもよりませんでした。これからも、このオーケストラを愛していただきたいと思います
最後に、皆さんにお願いがあります
」
客席もオケのメンバーも「お願いって何だろう?」と思ってハーディングに注目すると、おもむろに胸ポケットからスマホを取り出して、”自撮り”を始めました オケのメンバーと自分を、客席と自分を、色々な角度から写しています。これには聴衆もオケのメンバーも大受けで拍手喝采に湧きました
出身国の英国がEU離脱を決めたのに そんなことしてていいの?なんて野暮なことを言う人は一人もいません
ハーディングさん、なかなか演歌テナー、もとい、エンタテイナーですね
ダニエル・ハーディングは2016/017シーズンからパリ管弦楽団の音楽監督に就任します パーヴォ・ヤルヴィの後任ですね。挨拶の中でも、またすぐにお目にかかれると言っていましたが、彼は11月にパリ菅とともに来日しマーラーの第5交響曲を振ります
ハーディングさんの今後の活躍をお祈りします