18日(月・休).わが家に来てから659日目を迎え,白ウサちゃんに意見しているモコタロです
白ウサちゃん いくら仲良しだといっても 乗り過ぎだよ!
閑話休題
昨日、初台の東京オペラシティコンサートホールで「国立音楽大学オーケストラ第125回定期演奏会」を聴きました プログラムは①W.ウォルトン「戴冠式行進曲『王冠』」、②モーツアルト「クラリネット協奏曲イ長調K.622」、③ショスタコーヴィチ「交響曲第5番ニ短調」です
②のクラリネット独奏は国立音大学長・武田忠善、指揮は尾高忠明です
自席は1階25列10番,左ブロック右通路側です.会場は出演学生の家族・親戚・友人・知人,大学OBを中心にほぼ満員御礼の状態です それを反映して,通常のクラシック・コンサートに比べて若い聴衆が多く見受けられました
問題は,こういう若い聴衆が在京オケの定期演奏会に来ているかどうかです
さて,私がこのコンサートを聴こうと思ったのは,2年前の7月に準メルクルの指揮でベルリオーズ「幻想交響曲」の演奏を聴いて素晴らしいと思ったからです
1曲目のウィリアム・ウォルトン(1902-83)の「戴冠行進曲」は,BBC放送局からの委嘱を受けて作曲し,1937年5月12日,ウェストミンスター寺院でとり行われた英ジョージ6世の戴冠式の際に初演されました ウォルトンは,かの「威風堂々」の作曲者エドワード・エルガーを引き継ぐ英国の作曲家として期待されたのでした
戴冠式ではメアリー王太后の入場の際にこの作品が,王と王妃の入場時にエルガーの「帝国行進曲」が演奏されました
曲は勇壮な行進曲部分と牧歌的な主題が奏でられる部分が交互に現れます エルガーの「威風堂々」を知っているわれわれの耳には,やはりちょっと物足りなさを感じますが,英国音楽の伝統に基づいた堂々たる行進曲であることは理解できます
2曲目はモーツアルトの「クラリネット協奏曲イ長調K.622」です.この曲はモーツアルトの死の年,1791年9月28日~11月15日に作曲されました この曲を作ったきっかけは,1781年ごろに知り合ったクラリネットとバセット・ホルンの名手アントン・シュタートラーとの出会いです
シュタートラーという人は,モーツアルトに「この人に自分の作った曲を吹いてほしい」と思わせる実力があったクラリネット奏者だったということです
初演は1791年10月16日にシュタートラーのソロでプラハ国立劇場で行われたと言われています
コンマスがチューニングの準備に入ります.いつもはオーボエに音出しを指示するのですが,モーツアルトの「クラリネット協奏曲」はクラリネットが使われません.代わりにチェロに基調となる音を出させていました
この曲は第1楽章「アレグロ」,第2楽章「アダージョ」,第3楽章「アレグロ」から成ります.ソリストの武田忠善が尾高忠明と共に登場します 武田氏は1975年に国立音大を卒業し,フランス国立ルーアン音楽院でジャック・ランスロに学び,同音楽院を一等賞で卒業しました
その後,内外のコンクールで目覚ましい活躍をして,現在は国立音楽大学の学長を務めています
第1楽章は,死の年に作曲されたとはとても思えないような晴れやかささえ感じさせる曲想です 第2楽章はこの曲の白眉です.独奏クラリネットによるモノローグは,人生を達観したモーツアルトの心象風景を表しているかのようです
そして,第3楽章は再び第1楽章のように明るく何事もなかったかのように淡々と音楽が進みます
武田学長の演奏は円熟の演奏で,しみじみと聴き入りました.学生たちのサポートも見事でした
休憩後はショスタコーヴィチ「交響曲第5番ニ短調」です この曲は,オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」に対する酷評記事がプラウダに載った,1936年のいわゆる「プラウダ批判」の後に,起死回生をかけて世に問うた作品です.彼はこの曲を文字通り”命がけで”作ったのです
プログラムの曲目解説に次のような記述がありました
「作品の構想に関しては今なお謎が多いのだが,2000年のペンデッキ―の論文をはじめ『引用のカモフラージュ』について近年,興味深い指摘がなされている ショスタコーヴィチには1934年来,エレーナというロマンスの相手がいた.エレーナは1932年に結婚したばかりのショスタコーヴィチが真剣に離婚を考えたほど,熱烈に愛した女性だった
やがて作曲家に長女が生まれ,またエレーナが密告で逮捕されたことなどから,2人の関係は終わり,その後1936年に出所した彼女はスぺインに渡り,著名な映画監督ペンディツキ―・カルメンと結婚した.『プラウダ批判』による絶望・恐怖と,エレーナへの愛.ここからペンディツキ―は秘められた『愛と死』のテーマを指摘し,『愛』の側面の音楽的根拠として,ビゼーの『カルメン』との関連を第1・第4楽章で指摘した
そこでは冒頭からの明らかな引用を避けつつも,『カルメン』の音列・リズム・テンポ・調性を巧みに変化させている様子が観察されている
」
ショスタコーヴィチの「第5交響曲」について,このような指摘を見たのは初めてだったので,ビゼーの「カルメン」の音楽が,変形しながらも第1楽章と第4楽章に紛れ込まされていることを耳で聴いて確かめようと思いました
尾高の指揮で第1楽章が力強く開始されます.低弦は根性が入っています コントラバスの男子学生の一人がとても元気です
踊っているような感じで演奏していました.楽章を通して気を付けて聴いていたのですが,「カルメン」を聴きとることは出来ませんでした
第2楽章はアイロニカルです.ショスタコーヴィチ得意の諧謔的なメロデイーが続きます
第3楽章はまるで葬送行進曲です.ここでは,フルートの独奏が美しく響き渡りました
第4楽章ではティンパ二が大活躍でした
残念ながらこの楽章でも「カルメン」のメロディーを聴きとることが出来ませんでした
学生たちは尾高忠明の指揮のもと,終始緊張感に満ちた素晴らしい演奏を繰り広げました 演奏後は拍手とブラボーがしばらく鳴り止みませんでした
会場を満たした演奏学生たちの家族・親戚・友人・知人・大学OBの皆さんも満足されたことでしょう