26日(火).わが家に来てから667日目を迎え,空中浮遊する白ウサちゃんに驚くモコタロです
き きみぃ いつから空中に浮かべるようになったんだい?
閑話休題
現在,池袋の新文芸坐では「映画と共に闘い続けた独立プロの二人の巨匠~今井正・山本薩夫」の特集をやっています 昨日,山本薩夫監督による1952年 白黒映画「真空地帯」を観ました
この映画は山本監督が軍隊の初年兵時代に受けた人間性を奪い去った訓練を基に,皇軍の実態を描いた作品です この映画を観ていると,軍隊というところが先輩・後輩の上下関係がいかに厳しく,上官の命令が絶対的であったかが分かります.上官が下の兵隊を殴るシーンが何度も出てきますが,現在の映画と違って,本気で殴っているのが分かります
山本監督がいかに軍隊のリアリズムを描こうとしたかが身に迫ってきます
戦争は悲惨だと主張するよりも,こういう映画を観せた方が早いのではないかと思います
も一度,閑話休題
昨夕,ミューザ川崎で新日本フィルの「シェフ上岡敏之のスペイン・ラプソディー」公演を聴きました これはフェスタサマーミューザの一環として開かれた公演です.プログラムは①シャブリエ「狂詩曲”スペイン”」,②ビゼー「アルルの女 第一組曲」,③リムスキー・コルサコフ「スペイン奇想曲」,④ラヴェル「スペイン狂詩曲」,⑤同「ボレロ」です
指揮は9月から音楽監督に就任する上岡敏之です
本公演に先立って,6時20分からミニコンサートが開かれました ステージに登場したのは新日本フィルの首席フルート奏者・白尾彰,コンマスのチェ・ムンス,首席ヴィオラ奏者・井上典子,チェロの植木昭雄(首席客員?)の4人です.いったい何を演奏するのかと耳を傾けているとお馴染みのメロディーが流れてきました
モーツアルト「フルート四重奏曲第1番K.285」です.この演奏が軽快で爽やかで素晴らしかった
さすがは首席クラスによる演奏だな,と納得です
自席は前回と同じ2階斜め右ブロックです.会場は7割方埋まっている感じでしょうか オケのメンバーが配置に着きます.弦は左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという編成です.ハープが左サイドに,ホルンは右サイドにスタンバイします.コンマスはチェ・ムンス.新しく首席として入団した金子亜未のオーボエによってチューニングが行われ,指揮者を待ちます
上岡敏之が入場し指揮台に上がります.彼の場合は必ずタクトを使用しますが,譜面台がありません.すべて暗譜で指揮するようです
1曲目はフランスの作曲家エマニュエル・シャブリエ(1841-94)の狂詩曲「スペイン」です シャブリエは法学部で学び内務省に勤務するという変わった経歴の持ち主です
ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の上演を観て作曲家になる決心をしたと言いますから,ワーグナーの毒は,もとい,影響力は凄いものだと思います
シャブリエはこの曲の作曲の前年に,数か月間スペインに滞在し,アンダルシア地方の歌や踊りに接しており,その時の印象を音で描いたのが狂詩曲「スペイン」です
上岡のタクトで演奏に入ります.冒頭から南国的で華やかな世界が繰り広げられます 上岡の指揮ぶりを見ていていつも感じるのは,「しなやか」で「リラックス」しているということです
「まあ,気軽にいきましょうや」と言わんばかりのリラックスしたタクトさばきですが,いざ決めるめきところはビシッと決めます
いわばメリハリのある指揮と言ったら良いのでしょうか.鮮やかなフィナーレに1曲目からブラボーがかかりました
2曲目はビゼーの「アルルの女」第1組曲です.ジョルジュ・ビゼー(1838-75)もフランスの作曲家ですが,スペインを旅したわけでも スペインに因む音楽を書いているわけではありません.彼がセビリアを舞台とした「カルメン」を書いたことから,カルメン繋がりで選曲したのでしょう
この曲は第1曲「前奏曲」,第2曲「メヌエット」,第3曲「アダージェット」,第4曲「カリヨン」の4つの曲から構成されています 上岡のタクトで軽快に第1曲が終わると,2階中央辺りから「チャリラ~ン
」というケータイの着信音が流れてきました.はっきり言って,あの音はステージ上の演奏者にも聞こえたと思います
まだ居ますね川崎にも,こういう非常識人間が
事前のアナウンスもロクに聞いていないのでしょう.せっかくの「アルルの女」が「アレレの女」になってしまいます
在京オケの定期演奏会ではほとんどこういう現象は見られなくなりましたが,音楽祭のようなコンサートではまだまだ,夏場の幽霊のように出没するようですね.困ったものです
曲は第2曲,第3曲を経て第4曲「カリヨン」に移ります.「カリヨン」というのは鐘のことです 教会の鐘が一斉に鳴ってお祭りの開幕を告げているかのような賑やかで楽しい音楽が展開します
3曲目はロシアの作曲家ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844-1908)の「スペイン奇想曲」です 彼は軍人一家の生まれとあって海軍兵学校に入り海軍士官になりましたが,軍に籍を置いたまま作曲活動を続けました
軍艦でスペインを訪れたかどうかは定かではありませんが,この曲は,スペイン各地の民謡や舞曲を素材として作曲されています.「朝の歌(アルボラーダ)」「変奏曲」「朝の歌」「シェーナとジプシーの歌」「アストゥリア地方のファンダンゴ」の5つの部分から成り,続けて演奏されます
「朝の歌」の冒頭からスペイン情緒あふれるメロディーが力強く演奏されます この曲では全体を通してコーラングレ(イングリッシュホルン)の森明子,フルートの白尾彰,クラリネットの若手(誰だ!?)が素晴らしい演奏を展開していました
フィナーレのクライマックスは鮮やかでした
休憩後,再びオケのメンバーが配置に着きますが,この時初めて,首席ヴィオラの篠崎友美が一番後ろの奧の席にスタンバイしているのに気が付きました 最初からあの席に居たのか,それとも遅刻でもしたのか.この日のヴィオラのトップはプレコンサートで弾いた井上典子と入団2年目のフォアシュピーラー脇屋冴子です.先日のジョナサン・ノット+東響の時の人員配置を思い出してしまいました
第1曲はラヴェルの「スペイン狂詩曲」です もちろんラヴェル(1857-1937)もフランスの作曲家ですが,ラヴェルの母親はスペインの一部バスクの出身だったことから,ラヴェルはバスクの血が流れていることに誇りをもっていたと言われています
この曲は第1曲「夜への前奏曲」,第2曲「マラゲーニャ」,第3曲「ハバネラ」,第4曲「祭り」から成ります 第1曲「夜への前奏曲」は,音が出ているのか出ていないのか分からないほどの弱音で開始されます.聴いている側も緊張します
しかし第2曲以降になると,管弦楽による爆発がみられたり起伏に富んだ演奏が続きます.ここで感じたのは,上岡の指揮は最弱音と最強音の幅が極めて広いということです.オーディオ用語で言えば「ダイナミックレンジが広い」演奏ということになります
最後の曲はラヴェルの名曲「ボレロ」です 小太鼓奏者が舞台中央にスタンバイします.この曲は不思議な曲です.冒頭から小太鼓が一貫してボレロのリズムを叩き続ける中,楽器を変えながらまったく同じメロディーが奏でられていき,全曲がひとつの大きなクレッシェンドを形作っていくのです
そして最後の2小節でどんでん返しがあって曲が閉じられます
上岡のタクトは最弱音を要求します.ヴィオラとチェロのピッツィカートと小太鼓の刻むリズムにのってフルートがメイン・メロディーを奏でます そしてクラリネットが受け継ぎ,次にファゴット・・・・という具合に
そして演奏する楽器がどんどん増えていきます.最初は小さな動きだった上岡の振りが次第に大きな動きになっていきます
終盤にかけて,オケを煽り立てます
そして最後のどんでん返しで曲を閉じます
会場一杯の拍手とブラボーが指揮者と演奏者を取り囲みます 上岡はソリストたちを一人一人立たせて称賛します
上岡+新日本フィルはビゼーの「アルルの女」第2組曲から第4曲「ファランドール」を息もつかせぬスピードで演奏し拍手喝さいを浴びました
この日の公演は,9月から音楽監督に就任する上岡敏之の指揮ぶりを強く印象付けるコンサートだったと思います