23日(月).昨日午後,池袋にコンサートに行くため明治通り沿いのバス停で待っていた時のことです.私の前に高齢の中国人らしき(中国語を話していたので)3人が並んでいたのですが,3人とも形も大きさもヴァイオリンに似たハードケースを肩から下げていました おそらくバス停近くの会場で中国に因んだコンサートか何かがあったのでしょう
すると,後ろから仲間らしき7~8人の人たち(同じような楽器を肩から下げていた)がやってきて,彼らと話し始めたのです.バスが来たので乗ろうとすると,彼らは私の後から来たにも関わらず 前に並んでいた3人といっしょにバスに乗り込んだのです
唖然としました
さらに,彼らは優先席前辺りに固まって話をしていたので,後から入ってくる人が奥に行けません.後方が空いていたので 運転手が『もう少し奥にお詰めください』とアナウンスするものの 日本語が通じないので動きません
運転手は止むを得ずバス停ごとに 乗り込もうとする人に『後から来るバスをご利用ください』と乗車拒否せざるを得ませんでした
彼らは間違いなく音楽家で 言わば『文化人』です.その文化人が列に並ばず バスに乗り込んだのです
これは日本の常識では考えられないことです
中国は黄河文明を生んだ偉大な国だし,日本も多くのことを学んだ模範的な国だったかもしれませんが,現在の文化水準はこんなものなのでしょうか
私は楽器が演奏できる人は無条件で尊敬してしまう癖がありますが,今回ばかりは世界を見渡せば音楽家にも常識が通じない人たちもいるのだな,と考えを改めました.本当に残念なことだと思います
ということで,わが家に来てから今日で846日目を迎え,自分に似た物体を見て何者かを考えているモコタロです
キミはいったい何者? 普通ウサギはネクタイなんてしないし
味見しようと舐めてみたら キミ 紙だったんだね おお紙よ!
閑話休題
昨日,池袋の東京芸術劇場大ホールで新日本フィルのコンサートを聴きました これは「2017都民芸術フェスティバル」参加公演で,プログラムは①スメタナ:連作交響詩「わが祖国」から「モルダウ」,②ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調」,③ベートーヴェン「交響曲第3番変ホ長調”英雄”」です.②のヴァイオリン独奏は大谷康子,指揮はオンドジェイ・ブラベッツです
自席は2階L列7番,左ブロック左から2つ目です.会場は文字通り満席です オケのメンバーが登場し配置に着きます.コンマスは西江王子(オケのメンバーはこう呼んでいるらしい)
いつものように左からヴァイオリン・セクション,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという編成です
ブラベッツが登場,指揮台に上がります.彼はプラハ音楽院でホルンと指揮法を学び,卒業後は国内の数々の器楽コンクールで入賞を果たしており,指揮では2013年にチェコ・フィルの副指揮者に就任しています
1曲目のスメタナ「モルダウ」はチェコ国民楽派の開祖と親しまれているべドルジハ・スメタナが作曲した連作交響詩の第2作です 泉で湧いた水が川となりボヘミアの街を流れていく様を美しい音楽で描いたものです
冒頭のフルートと弦楽のピッツィカートによる音楽は透明感があって素晴らしいですね
この曲でクラシックに入門した人も少なくないのではないかと思います.ブラベッツは慈しむように音楽を紡いでいきます
2曲目はドイツ・ケルン生まれのマックス・ブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調」です この曲は三大ヴァイオリン協奏曲の次くらいに多く演奏される人気曲です.3つの楽章から成りますが,切れ目なく演奏されます
会場いっぱいの拍手に迎えられて,空色の明るいステージ衣装に身を包まれた大谷康子が指揮者と共に登場します 彼女は長年 東京交響楽団のコンミスとして活躍してきましたが,昨年,同楽団の名誉コンサートマスターの称号を与えられています
他のオーケストラには例がないのではないかと思います
第1楽章は短い序奏に続いて独奏ヴァイオリンが入りますが,1708年製グァルネリが最低音から最高音まで美しい音色で会場に響き渡ります 甘美な第2楽章に次いで,躍動感あふれる第3楽章が展開します
会場いっぱいの拍手とブラボーに,大谷は客席に一礼,振り返ってオケに一礼します そして,指揮者ブラベッツに対し,オケのメンバーを立たせるように求めます.この辺は自らがコンミスを務めてきたので オーケストラに対する気配りが自然にできるのでしょう
休憩後は,ベートーヴェンの交響曲第3番変ホ長調”英雄”です よく知られているように,当初はナポレオン・ボナパルトに献呈しようとしたのですが,彼が皇帝に即位したという知らせを聞いて「あの男も結局は平凡な人間に過ぎなかったのだ.自己の野心のためにすべての人の人権を足下に踏みにじった
」と憤慨し,「ボナパルト」というナポレオンへの献辞をペンで書き消し,出版に際して「ある英雄の思い出のために」と書き加えたのでした
オケを見渡すと,プログラム前半より規模を縮小し,全体で50人規模の編成になっています 管楽器は2管編成ですが,ホルンだけ3本です.真嶋雄大氏のプログラム解説によると「この交響曲により初めてチェロとコントラバスが分離された」と書かれています.ということは,それまではチェロもコントラバスも混在して演奏していたことになります.トリビアでした
第1楽章は全合奏で2回主和音が強奏され,続いてチェロが主題を奏でます これを聴くと交響曲第2番までとは規模が違うことがはっきりと分かります
雄大なスケールと言って良いでしょう
第2楽章は葬送行進曲です.この楽章は聴きごたえがあります
管楽器が活躍しますが,金子亜未のオーボエを筆頭に,荒川洋のフルート,河村幹子のファゴット,重松希巳江のクラリネット,吉永雅人のホルンが冴え渡っていました
第3楽章はスケルツォですが,従来の交響曲はここで「メヌエット」がきます これも革命家ベートーヴェンの先駆的な試みです
中間部のトリオではホルン3本による演奏が聴かれますが,ホルン出身のブラベッツも満足の素晴らしい演奏でした
そして第4楽章のフィナーレを迎えます.ブラベッツ+新日本フィルは集中力に満ちた演奏を展開します
満席の聴衆からの拍手とブラボーに,ドヴォルザークの「チェコ組曲」から第2番「ポルカ」をアンコールに演奏し コンサートを締めくくりました
ブラベッツは聴衆からだけでなく,オーケストラのメンバーからも大きな拍手を受けていたので,短期間のうちにオケのメンバーの心を掌握したのでしょう とてもいいコンサートでした