9日(月)。長いようで短かかったゴールデンウィークも終わりましたね 息子も昨日、単身赴任先の鶴岡市に戻りました。連休中は息子が1日おきに夕食を作ってくれたので大いに助かりました 今日からまた月曜から金曜までは私が1人で作らなければなりません
ということで、わが家に来てから今日で2675日目を迎え、英BBCなどによると、イタリア政府は6日、同国北部の港で全長140メートルのヨット「シェエラザード」を差し押さえたが、これはロシアの反政権運動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の陣営が「世界最大級のヨットで7億ドル(約913億円)の価値があり、プーチン氏のものだ」と主張していた船で、米当局者もプーチン氏との関係を指摘している というニュースを見て感想を述べるモコタロです
千一夜物語の語り手シェエラザードの命は救われたが プーチンの罪は免れられない
広瀬陽子著「ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略」(講談社現代新書)を読み終わりました 著者の広瀬陽子さんは、2月のロシアのウクライナ侵略以降、小泉悠氏とともに、テレビの報道番組でロシア専門家として引っ張りだこの人なので、ご存じの方は多いと思います 広瀬さんは1972年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院総合政策学部教授。慶應義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院政治学研究科修士課程修了・同博士課程単位取得退学。政策・メディア博士(慶応義塾大学)。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究。2018~2020年には国家安全保障局顧問を務めた。著書に「ロシアと中国 反米の戦略」(ちくま新書)などがある
本書は次の各章から構成されています
プロローグ
第1章「ロシアのハイブリッド戦争とは」
第2章「ロシアのサイバー攻撃と情報戦・宣伝戦」
第3章「ロシア外交のバックボーン・・・地政学」
第4章「重点領域・・・北極圏、中南米、中東、アジア」
第5章「ハイブリッド戦争の最前線・アフリカをめぐって」
エピローグ
著者は第1章の中でロシアの「ハイブリッド戦争」について次のように定義・解説しています
「ハイブリッド戦争とは、政治的目的を達成するために軍事的脅威とそれ以外のさまざまな手段、つまり、正規戦・非正規戦が組み合わされた戦争の手法である いわゆる軍事的な戦闘に加え、政治、経済、外交、プロパガンダを含む情報、心理戦などのツールの他、テロや犯罪行為なども公式・非公式に組み合わされて展開される。ロシアのハイブリッド戦争は、2013年11月の抗議行動に端を発するウクライナ危機でロシアが行使したものとして注目されるようになった 非線形戦(非対称戦)などと言われることもある」
そして、ハイブリッド戦争によるメリットとして①低コスト、②効果が大きい、③介入に関して言い逃れができる、という点を挙げています
そのうえで、ハイブリッド戦争において重要な役割を果たしている主体として「サイバー攻撃」「特殊部隊」と並んで「民間軍事会社(PMC:Private Military Company)」を挙げています 「PMCは単なる傭兵ではなく、戦闘のみならず、ロジステックスやインテリジェンスに至るまで、非常に幅広い役割を担っている」とし、エルケ・クラフマンがまとめたPMCの7つの役割を紹介しています。それは①戦闘、②紛争地域で活動する政府、国際機関および非国家主体の人員および基地に関連する人質・施設保護、③軍事訓練およびアドヴァイス、④軍用装備の運用及び保守に関する支援、⑤軍用装備の調達、流通、仲介、⑥爆発物の解体、⑦捕虜の選別を含む情報収集および分析、です
著者は民間のPMCへの戦闘のアウトソーシングの理由として次の7点を挙げています
①人件費の節約・・・軍隊で最もお金のかかるのは人件費である 前線で兵士1人を戦わせるためには、まず前線に立つ前の訓練費用、武器など戦闘装備の供給、弾薬から被服までの補給・補修、食事、宿舎、兵士が負傷した際の医療費、死亡した場合の弔慰金、退役後の年金など、とてつもない費用がかかる 米軍のように高度に技術化された軍隊では、最前線で戦う兵士とそれを支える人員の比率は1対100であるとされ、これは戦闘を行っている兵士1人を支える後方要員が100人必要になることを意味する したがって膨大な人件費がかかる
②サービスのきめ細かさ・・・クライアントの要望に応じて、かなり困難な依頼も引き受けてくれる
③質の高いサービス・・・優秀な人材もおり、多額な費用を出せば、正規軍よりも優秀な人材に任務を遂行してもらえる
④効率性・迅速性・・・正規軍から人員を補充すると厄介な政治的・官僚的な手続きが必要となるが、PMCからは煩雑な手続きなしで人員の補給が可能となる
⑤死の保障をしなくてよい・・・軍人が死亡すれば、膨大な見舞金や補償金などがかかり、遺族から批判を受けることも少なくないが、PMCの戦闘員はあくまで自己責任で参加しているため、PMCの戦闘員がどうなろうと、政府の責任ではない
⑥国際的な批判を受けづらい・・・正規軍であれば、その活動の責任は当該軍が属する国家に帰せられるが、あくまでも民間であるPMCの活動は、仮に当該国家が活動を依頼したとしても、当該国家は「知らぬ存ぜぬ」を貫き通すことができる可能性が高い
⑦軍事力の補填・・・PMCを雇うことによって、戦争以外の国内のゲリラ、武装勢力、テロリストなどに対抗する術を得ることができる
また、ロシアには多数のPMCが存在するが、最大のPMCは2014年創設の「ワグネル」であり、2014年のウクライナ危機やシリア内戦などでも暗躍していたと説明しています 「ワグネルの詳細は明らかになっていないが、社員は5000人以上と言われ、そのうち2000~3000人ほどが戦闘要員だと言われる」としています
2月のロシアによるウクライナへの侵略に関するテレビの報道番組での小泉悠氏や広瀬陽子さんの解説を聞いている限り、今回の戦争でも「ワグネル」の戦闘要員が暗躍しているようです
著者は第3章「ロシア外交のバックボーン・・・地政学」の中で、「プーチンは外交に『グランド・ストラテジー』を駆使してきた それは旧ソ連諸国を中心とする勢力圏の維持である」として、外交に巧みに用いてきた8つの戦術・手段を挙げています
①外交とビジネス・・・ソ連時代から関係が深い旧ソ連諸国を、ロシアの勢力圏に維持しておくために有効な手段
②情報とプロパガンダ(メディア操作)・・・近年ではインターネットを駆使してフェイクニュースを大量発信するトロール部隊の暗躍や、サイバー攻撃によってウェブサイトの情報を書き換えたりする手法も増えている
③政治家のすげ替えや教会の利用・・・反露的思考を持つ指導者・政治家はクーデターや情報戦などを利用して失脚させ、親露的な者にすげ替える ロシア正教会を利用することもある
④反対勢力・市民社会・過激派の支援・・・反体制派や不安分子を経済面、技術面で支援し、内政の不安定化を図る
⑤破壊活動・テロリズム・・・暗殺など不可解な事件の多くにロシアが関与していると考えられている
⑥経済・エネルギー戦争・・・旧ソ連諸国のなかでエネルギー非産出国は、石油・天然ガスの多くをロシアに依存している場合が多い。政治的にロシアに従順でない場合、ロシアはエネルギー価格を吊り上げたり供給を停止したりする。また、相手国の輸出産品に対して禁輸措置を講じて、相手国を追い込むこともある
⑦凍結された紛争や未承認国家、民族間の緊張の創出や操作・・・ロシアは「凍結された紛争」(停戦合意ができていながらも、領土の不法占拠や戦闘や小競り合いの散発が継続し、真の平和が達成されない状況)を意図的に創出し、また解決を阻止してきた ロシアは相手国に存在する分離主義勢力を支援することで、あえて民族間の緊張を生み出し、情勢を不安定化させた。この戦術は、ジョージア、モルドヴァ、ウクライナなどで特に効果的に用いられた
⑧正規・非正規の戦争(サイバー攻撃、秘密部隊の利用、プロパガンダ、政治工作)・・・正規・非正規の戦争を巧みに組み合わせる戦法は「ハイブリッド戦争」に代表されると言える
上記の「グランド・ストラテジー」を見ると、今回プーチンがウクライナに仕掛けてきたこと、あるいはウクライナを支援する勢力に対し行ってきたことが頭に浮かびます
著者は同じ第3章の中で、「ロシアのほんとうの狙い」について次のように述べています
「クリミアを例外として、ロシアは領土拡張を望んでいない ウクライナ危機の際、ロシアがウクライナ東部についても併合を狙っているという論調が多く聞かれたが、それはまずありえない。なぜなら、併合をすれば、それだけロシアが守らねばならない国土が多くなり、年金や社会保障、教育、医療やインフラなどをすべて『当地の国民が以前の政府のもとで得た満足より大きな満足を感じられるレベル』で提供しなければいけないからである それはロシアの大規模な経済負担を意味する。これ以上支えなければいけない領土が増えれば、ロシアは経済的に持たない。加えて、ウクライナという国家のなかに、親ロシア的な地域を維持することこそが、ウクライナがEU、NATOに加盟しづらい状況を担保することになり、また親ロシア的な地域が外交的な権利を維持できれば、ロシアがウクライナの外交に影響を及ぼすことすらできる。このような状況がロシアにとって最も望ましい」
この辺の実情はどうなのか、疑問に思うところがあります 現在の戦況に照らして、「クリミアを例外として、ロシアは領土拡張を望んでいない」のか、あるいは「クリミアと東部の2州(ルガンスク州とドネツク州)を例外として、ロシアは領土拡張を望んでいない」のか、何とも言いようがありません それは広瀬さんに聞いても分からないことで、本当のところはプーチンがどう考えているかにかかっています
ロシアがナチスドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」の今日(5月9日)をきっかけに、本書で侵略国家ロシアの戦略を学ぶのも意義あることだと思います