人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

恩田陸著「祝祭と予感」を読む ~ 「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ小説:「1位なしの2位」の位置づけ、「ピアノからトロンボーンへの転向」の可能性などを考える

2022年05月10日 07時15分52秒 | 日記

10日(火)。わが家に来てから今日で2676日目を迎え、ロシアのプーチン大統領は9日、第2次世界大戦での旧ソ連による対独戦勝記念日に合わせ、モスクワ「赤の広場」で演説し、ロシアのウクライナ侵攻は「時宜にかなった正しい決断だった」と述べ、正当性を主張した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     ロシアと一部の独裁国家以外は「歴史的な誤った決断だった」と思っているけどね

 

         

 

昨日は5月なのに寒かったので、夕食に「豚肉のクリームシチュー」を作りました あとは生野菜サラダです。普段は牛乳を飲まないので、あわてて買いに行きました

 

     

 

         

 

恩田陸著「祝祭と予感」(幻冬舎文庫)を読み終わりました 恩田陸は1964年宮城県生まれ。1992年「六番目の小夜子」でデビュー 2005年「夜のピクニック」で吉川英治文学賞と本屋大賞を受賞。2017年「蜜蜂と遠雷」で直木賞と本屋大賞を受賞。著者多数

 

     

 

本書は直木賞を受賞し映画化もされた「蜜蜂と遠雷」に登場する人物を再登場させて物語を紡いだ短編小説6篇に加え、2017年から19年にかけて執筆した音楽関係のエッセイを付録として収録しています

短編小説は「祝祭と掃苔(そうたい)」「獅子と芍薬(しゃくやく)」「袈裟と鞦韆(ぶらんこ)」「竪琴と葦笛」「鈴蘭と階段」「伝説と予感」の6篇から成ります 「蜜蜂と遠雷」に登場したピアノ・コンテスタントの風間塵、栄伝亜夜、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、そしてピアノ教師のユウジ・フォン・ホフマン、ナサ二エル・シルヴァーバーグといった懐かしい面々がそれぞれの物語に登場します

この中で特に印象に残った作品をご紹介します

「獅子と芍薬(しゃくやく)」はミュンヘンのピアノコンクールで1位なしの2位に入賞した2人のコンテスタント、ナサ二エル・シルヴァーバーグと嵯峨三枝子の物語です 著者はこのコンクールが「たいへん難関で、めったに優勝者を出さないことで知られており、1位なしの2位とはいうものの、じゅうぶん音楽家のキャリアとして通用する」と書いているので、「ミュンヘン国際音楽コンクール」をモデルにしているのは間違いないでしょう 2人はお互いに「こいつがいなければ自分が優勝していた」と思い込んで、罵倒し合います しかし、人生は分からないもので、これをきっかけに2人は付き合うようになり結婚します(もっとも後で離婚しますが

これを読んで考えたのはコンクールにおける「1位なしの2位」の評価です コンサートのプログラムに掲載されるソリストのプロフィールに「〇〇コンクール優勝」とか「〇〇コンクール第2位」とか書いてあると、比較的分かりやすいのですが、「1位なしの2位」と書いてあると、「優勝はしなかったが、最高位だった」ことが分かるのですが、「優勝のレヴェルには達しなかった」ということも想像がついてしまうのです 個人的には世界レヴェルの名の知れたコンクールで3位に入賞すれば大したものだと思います

「竪琴と葦笛」はピアノ教師のナサ二エル・シルヴァーバーグが、マサル・カルロス・レヴィ・アナトールの音楽に対する幅広い可能性を見出し、ジャズを聴かせたことから、マサルはピアノからトロンボーンに転向するという物語です

この小説を読んで思ったのは、世界的なピアニストとして将来を嘱望されていた者が、途中で管楽器奏者に転向するケースが実際にあるのだろうか、ということです よく聞くのはヴァイオリンからヴィオラに転向したというケース、そしてピアニストから指揮者に転向したというケース(ダニエル・バレンボイム、クリストフ・エッシェンバッハ、チョン・ミョンフン等)ですが、弦楽器から管楽器へ、あるいはピアノから管楽器へという転向はあるのだろうか? 楽譜を見て演奏するということでは同じだとは言え、楽器の種類が違うことから表現方法が全く異なるので、そう簡単には転向できないと思うのですが

エッセイでは、映画「蜜蜂と遠雷」の本選シーン撮影で音楽ホールを使用した武蔵野音楽大学の広報誌に寄せた「ピアノへの憧れから生まれた『蜜蜂と遠雷』」の中で、著者がこの作品を書こうと思ったきっかけが書かれています

「そもそものきっかけは、学生時代に部屋が隣にあったサークル、モダン・ジャズ研究会をモデルにした小説を書いたことだった その小説で演奏シーンを書いてみたら、とても面白かったのである その経験が頭に残っていて、それなら、自分でも長いこと弾いていたピアノの小説を書いたら面白いかも、と直感したのだ」「それと前後して、たまたま手にした新聞か雑誌で、浜松国際ピアノコンクールに最初書類選考で落ちたコンテスタント(ラファウ・ブレハッチ)がオーディションに合格して参加し、するすると勝ち上がり最高位を獲ったのち、ショパン・コンクールで優勝した、というエピソードを読んだのである ふむ、これは面白いな、小説っぽいエピソードだな、と思ったのが直接のきっかけだった 小説を連載する雑誌の担当編集者がたいへん音楽に詳しい人だったので、『協力してもらえるな』と思ったのも大きい

恩田さんは12年かけて4回、浜松国際コンクールに通い続け、実際に演奏を聴いて小説に仕上げたのですが、最も苦労したのは小説の中で誰にどの曲を演奏させるか、というプログラミングだったそうです その中で、異能の天才少年、風間塵が一次審査で弾く曲だけは最初から決めていたそうです バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から第1番とモーツアルト「ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調K.332」第1楽章です モーツアルトのK.332は「子どもの頃に初めて聴いた時、文字通り雷に打たれたような衝撃を受けた曲」とのことです 私も大好きです

上記のほか、「蜜蜂と遠雷」にまつわる興味深いエピソードがたくさん収録されています 音楽ファンはもちろんのこと、広くお薦めします

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