3日(月)。わが家に来てから今日で2822日目を迎え、ロシア外務省は28日、第二次世界大戦をテーマにした学術会議をモスクワで開き、ラブロフ外相が「日本の軍国主義の犯罪を忘れるな」などとするメッセージで日本を批判した というニュースを見て感想を述べるモコタロです
主権国家ウクライナに侵略し 殺人・破壊行為を繰り返したロシアの犯罪を忘れるな
昨日、新国立劇場「オペラパレス」でヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」を観ました 本公演は当初、2020年4月に上演される予定でしたが、新型コロナ禍の影響で中止となり、この日まで延期されていたものです この日やっと2年半ぶりに初日公演を迎えました そのためか、会場はほぼ満席状態です
キャストはジュリオ・チェーザレ=マリアンネ・ペアーテ・キーランド、クレオパトラ=森谷真理、トロメーオ=藤木大地、コルネーリア=加納悦子、セスト=金子美香、アキッラ=ヴィタリ・ユシュマノフ、ニレーノ=村松稔之、クーリオ=駒田敏章。管弦楽=東京フィル、合唱=新国立劇場合唱団、指揮=リナルド・アレッサンドリー二、演出=ロラン・ぺリです
「ジュリオ・チェーザレ」はゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685ー1759)が1723年に作曲、1724年にロンドンのキングス劇場で初演されたオペラです 「ジュリオ・チェーザレ」とはジュリアス・シーザーのことです
ローマの将軍チェーザレは政敵ポンペーオを追ってエジプトに入るが、ポンペーオはエジプト王トロメーオに殺されていた ポンペーオの妻コルネーリアとその息子セストは復讐を誓うが、やがてトロメーオに捕らえられる トロメーオの姉クレオパトラは弟から王座を奪うべく、チェーザレに近づく トロメーオの側近アキッラに追われたチェーザレは、海に飛び込み逃走する 弟に捕らえられたクレオパトラをチェーザレが助け出し、トロメーオはセストに殺される。チェーザレはクレオパトラに王冠を与える
【注】ここからは、演出に関わる記述がありますので、これから本番をご覧になる方で、先入観なしに鑑賞したいという方は読まないようにしてください。
ロラン・ぺリの演出は、舞台をエジプトの古代文明博物館の収蔵庫という設定にしています 巨大な彫像や絵画が次々と登場します
バロック音楽の第一人者と言われるイタリア出身のリナルド・アレッサンドリー二の指揮で軽快な序曲の演奏に入ります オーケストラピットを見ると、上手にリュートの親分のようなテオルボ(低音のリュート)が2台スタンバイし存在感を示しています フルートはその音色から古楽器の「フラウト・トラヴェルソ」と思われます 弦楽器はノンヴィブラートで歯切れの良い古楽奏法で演奏します
バロック・オペラは、語りや対話でストーリーを伝えるレチタティーヴォと感情を歌うアリアが交代で進みます また、同じフレーズを繰り返す「ダカーポ・アリア」が歌われます 歌手はダカーポ(頭に戻る)したときは装飾を加えて技巧を凝らして歌います そして、歌手はアリアを歌った後は退場します これらは当時のオペラのルールだったそうです。本公演でも、このルールに従った演出により物語が進行します
歌手陣は総じて優れたパフォーマンスを発揮しましたが、中でも歌唱力・演技力ともにずば抜けて素晴らしかったはクレオパトラを歌い演じた森谷真理です ソプラノですが、どちらかと言うとメゾに近いソプラノで、独特の艶のある声質で魅力があります 全3幕を通して数々の技巧的なアリアが歌われますが、アジリタやコロラトゥーラを含めて美しい声により完璧に歌い上げていました この公演に限って言えば、タイトルは「ジュリオ・チェーザレ」ではなく「クレオパトラ」にすべきだと思えるほど圧倒的な存在感を示していました
主役のジュリオ・チェーザレを歌い演じたマリアンネ・ペアーテ・キーランドはノルウェー出身のメゾソプラノです。魅力のある美しい声で歌唱力もありますが、今回は完全に森谷真理に食われていました 本人のせいではありません
トロメーオを歌い演じたカウンターテナーの藤木大地は、この演出ではコメディータッチの役割を負わされていて、新鮮に感じました 歌唱力は申し分なく演技もぺリの演出に適ったもので存在感を示しました
コルネーリアを歌い演じた加納悦子は、夫を失った心情を切々と歌い上げ、ベテランの味を発揮しました
セストを歌い演じた金子美香は、父親を殺された復讐の決意を力強く歌い上げました
アキッラを歌い演じたヴィタリ・ユシュマノフはサンクトペテルブルク出身のバリトンですが、コルネーリアに対するストーカー的な愛情と、主人トロメーオの裏切りに対する怒りを迫力ある歌唱と演技で表現しました
ニレーノを歌い演じた村松稔之を始めて聴いたのは2017年の三枝成彰「狂おしき真夏の一日」ユウキ役でしたが、その当時から将来性を買っていました 今回もクレオパトラの従者ニレーノを持ち前の力強くも美しいカウンターテナーで歌い上げました 演技力もあり、これから世界に向けて進出していくと確信します
チェーザレの腹心クーリオを歌い演じた駒田敏章は声が良く通るバリトンです
リナルド・アレッサンドリー二指揮東京フィルは歌手に寄り添いながら、時に自らチェーザレの、あるいはクレオパトラの心情をメリハリのある演奏で歌い上げていました
「ジュリオ・チェーザレ」はオペラセリア(正歌劇)ですが、ロラン・ぺリの演出はユーモアに富んでいて飽きさせません
第1幕冒頭のシーンでは、雁首だと思っていた彫像の口が開いて、歌手のアリアに合わせて歌い出してビックリしました あれは本物の人間にメイクをして首から下を隠しているのだろうか、それとも人形の口をポンプで空気を入れることによって動かしているのだろうか、などと考えてしまいました また、アキッラがポンペーオのクビを持ってきてチェーザレに見せるシーンでは、1メートルもありそうな彫像の頭の部分が運ばれてきて驚きました 第2幕では、チェーザレがアリアを歌っている最中に、背後にヘンデルと思わしき肖像画が現れ、振り返ったチェーザレとニレーノが「何か変デル」と言いたげにするシーンが笑いを誘いました また、クレオパトラが大きな絵画の額縁の中に入り込んでアリアを歌うシーンは、とても美しく”絵”になりました 第3幕では、トロメーオとクレオパトラを騎馬戦の馬(人間)に乗せて登場させ、意表を突きました このほかにも、観衆を飽きさせない”仕掛け”が随所に施されていて、ストーリーがテンポ良く進みます これが2流の演出家の演出だったら絶対に飽きます ロラン・ぺリは「オペラ・セリア」の世界に「オペラ・ブッファ」の要素を取り入れて極上のエンターテインメントに仕上げたと言えます
満場の拍手のなか、カーテンコールが繰り返されます 午後2時に開演した本公演が終演したのは午後6時半を過ぎていました 長丁場のオペラ公演でしたが、まったく長いとは感じませんでした かくして初日公演は大成功裏に終了したと言っても良いでしょう