創作 愛されたい願望 8

2024年12月13日 03時07分28秒 | 創作欄

松井徹は、愛されたい願望を抱いたのであるが、それが実現することなく、大学を卒業した。

大学の卒業を記念する謝恩会は、東京・赤坂のホテルで行われた。

徹が4年の間、密かに恋していた人が和服姿で幹事として受付を務めていた。

微笑み学友たちを迎える美形の彼女の姿 一段と輝いて見えた。

長い黒髪をアップにしていたので、別人にも映じた。

徹は既に彼女には婚約した彼氏が居たことも知らずに、最初で最後のラブレターを彼女の自宅に郵送していた。

「あなたのお手紙、読んだわ。もったいないような、とても複雑な気持ちなったの」彼女は小声で言う。

その後、彼女が5月に赤坂の同じホテルで結婚式を挙げたことを親友であった佐々木孝蔵から聞くこととなる。

ところで、謝恩会では「君には才能がある。短歌を続けなさい」と講師の相沢浩紀先生に言われる。

ラブレターには、彼女の思いを短歌に詠じていたのだが、徹は短歌を卒業し、ジャーナリストを目指す覚悟になっていた。

「あなたと、一度、話てみたかったのよ。今日でお別れなのね」声をかけてきたのが、彼女の親友の中野幸恵であった。

謝恩会は別れの場であった。

愛されたい願望―中野幸恵が徹を密に恋していたとは実に心外であった。

幸恵は、故郷の能登の中学校に赴任と言っていた

灯台下暗しとは言ったものだ。

 

謝恩会とは、卒業式と合わせて行われるイベントで、お世話になった先生に感謝を伝える場として開催されます。

ゼミ単位の小規模なものから学年単位の大規模なものまでありますが卒業生が主体となり、先生を招待してもてなすのは同じ。


創作 愛されたい願望 7)

2024年12月11日 06時25分03秒 | 創作欄

田舎育ちで、農家の後継ぎを逃れ大学に進学し、国文科を専攻した徹は、心理学科の木村貞治教授の部屋に呼ばれた。

「君と一度、話をしたかっんだ」何時もとは違う柔和な木村教授の表情であった。

徹は母親の勧めで心理学の講義も選択していた。

徹の母親と木村教授は従兄の関係だった。

しかも、遠隔地に住む木村は若き日には、徹の母親の実家に同居して、町の高校に通学していた。

母親は当時14歳、木村教授は16歳だった。

「君は、お母さんに似ているね」木村教授は自ら出したお茶を「飲んで」と促す。

緊張していた徹は一口お茶を飲む。

そして、木村教授はパイプを口にくわえながら話し出す。

「私は山奥の農家に育ち、長男なのに家を飛び出した。幸い次男の朗が家を継いだ。君は大学を出てからどうすつもりなのかね」

「先生、実は新聞社へ行くことになりました」

「新聞社?」

「業界紙ですが・・・」

「そうか、頑張りなさい。それでは、君はお母さんが望んでいた学校の先生にはならないんだね」木村教授は俯きながらパイプの煙をくゆらせた。

農家を継がなかった母親の兄は、高校の教師となっていた。

徹は幼いころ、母親に愛されたい願望を抱いていたが、特に愛されたのは弟だった。

 

 

 

 


創作 愛されたい願望 6)

2024年12月09日 11時02分43秒 | 創作欄

徹は高校と大学でドイツ語を学んだのだが、身に付かなかった。

英語は中学生からであるが、さらにダメだった。

入学式に目を留めたことが契機となり惚れた女学生と席を並べる機会を狙ってドイツ科の授業を選択したのだが、彼女にはすでに彼氏がいて、二人は何時も行動をともにしていたのだ。

徹は国文科専攻であるが、体育科も選択して、昼休みを含めて体育館で過ごすことも増えた。

先輩や講師には、オリンピックに出た人もいた。

だが、体操については高校生から体操をやってきた同期生にはとても及ばなかった。

剣道だけは高校生からやっていたので、大学生から初めて同期生たちには、試合では負けなかった。

「今日は、やけに少ないな。皆はどうしたんだ?」講師の一人が講堂へ入っくるなり、怪訝そうに学生たちに聞くのだ。

「皆、国体に行ってます」と一番前に座る学生が説明する。

「そうか、君たちも頑張って、来年は国体へいくようにしなさい」と講師は促すが「ハイ」と応える学生は皆無だった。

徹は1500メートのタイプ測定で2位となる。

油断だった、気を抜いたらゴール手前で後から追い込んできた学生に寸前で差されてしまった。

その学生こそ、徹が密かに惚れていた秋山純子の彼氏だったのだ。

徹は講師でオリンピックにも出た体操の青山貴子先生から「バーベルを片付けなさい」と命じられた。

バーベルを使用していた数人の学生が放置したまだっだ。

青山貴子講師の練習姿を見るために、徹は体育館へ行くことが増えた。

高校生の時に惚れこんだ田辺みどりに面影が似ている青山講師に対して心を投影させていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 


創作 愛されたい願望 5)

2024年12月04日 09時16分41秒 | 創作欄

高校生になろうとした徹は、母親の強い願いから農業高校へやむなく進学した。

1年後に弟は普通高校へ進学するのだ。

町には女子高を含めて、3校があった。

1年生の担任は日本農大を出た姫木春子先生であった。

姫木先生は徹の村の農家の娘であった。

その先生は、宮沢賢治の信奉者であって、姫木先生が熱く語る宮沢賢治像に徹は引き込まれていくのだ。

そして、農業の道も悪くないのでは、と考え直していく。

徹は文学に目覚める契機となり、詩などもノートに書いてみた。

また、姫木先生に勧められ小説「土」も読んでみた。

さらに、太宰治や芥川龍之介の小説や坂口安吾にも興味を示す。

それらの小説の「感想文」書いて、姫木先生に読んでもらった。

「徹君、良く本を読むわね」姫木先生の褒め言葉が徹の胸にある種の感情を抱かせていく。

だが、2年後に姫木先生は、大学の同窓生と結婚することなり、村を離れ東京へ向かうのだった。

宮沢 賢治は、日本の詩人、童話作家。
仏教信仰と農民生活に根ざした創作を行った。
作品中に登場する架空の理想郷に、郷里の岩手県をモチーフとしてイーハトーヴと名付けたことで知られる。 
生まれ: 1896年8月27日, 岩手県 花巻市
死去: 1933年9月21日, 岩手県 花巻市
両親: 宮澤政次郎、 イチ
影響を受けた人: 宮崎駿、 手塚治虫、 Leiji Matsumoto、 長野まゆみ

』(つち)は、長塚節の長編小説。作者の郷里である茨城県鬼怒川沿いの農村を舞台に、貧農一家の生活を農村の自然や風俗・行事などと共に、写生文体で克明に描いた ...

 

 
 

 

 


創作 愛されたい願望 4)

2024年12月02日 22時27分54秒 | 創作欄

松井徹にとって、中学生の思い出は、園田朱音(あかね)との出会いであった。

徹の村の小学校の登校距離は約4㌔で、町の中学校は6㌔の道程であったのだ。

朱音は、中学校から500mほどの近隣に在住していた、「徹ちゃん、家で休んで帰ったら」と親切にも徹を誘うのだ。

彼女は、母子家庭であった。

彼女の父親は、競馬にのめり込み、しかも水商売の女と入れ込んだ挙句に、女の夫から刺殺されていた。

朱音は、刺殺された父親の愛人の娘であった静と親友であった。

そして彼女は親友というより、女同士の性の相手だった。

実は、15歳の朱音は同性愛であり、同時に男をも求めてた。

その日、徹は深部を朱音によって手と口でいびられ、初めて異世界を味わう、そして深いまでの罪悪観に陥いるだ。

その朱音が、突然死しなけば、どんな人生になったいたのか?

だが、徹は現実世界に戻され、仰天するのあるが、朱音はあろうと静に包丁で刺殺されたのだ。

 

 

 


創作 愛されたい願望 3)

2024年12月01日 03時17分55秒 | 創作欄

松井徹にとって、小学生時代の思い出の一つは、6年生の時に担任となった草間登紀子先生であった。

村長の娘である草間先生は、教育大学を出て村の母校へ教師として戻ってきたのである。

理科の先生で、実験室では生徒たちに顕微鏡を覗かせながら授業をした。

それは、生徒たちにとって、未知の世界を開眼させる契機となった。

さらに、課外授業として休日の「理科クラブ」を創設していた。

野山の植物や動物、鳥の観察である。

双眼鏡を5個も自腹で購入して、生徒たちに使わせた。

それも、生徒たちにとっては、未知の世界の開眼だった。

夜の校庭の高台では、草間先生が望遠鏡を設置した。

この望遠鏡も先生が自腹で購入してもので、如何にも高級なものとして生徒たちにの目には映じた。

眼で見てきた月や星とは雲泥の差がある天体観測に生徒たちには歓喜するとともに、異次元の世界を強烈までに生徒たちの胸によどめたのである。

徹は、初めて大人の女性を感じさせる草間先生に、可愛いがられる生徒の一人になりたいと密に願望するのだ。


創作 愛されたい願望 2)

2024年11月30日 02時51分41秒 | 創作欄

松井徹は、祖父母を知らなかった。

祖父の幸志郎は太平洋戦争で戦死していた。

神棚には、サイパン島で亡くなった祖父の和服姿で、口髭の遺影が掲げられいた。

祖父は母親の春子に似ていて、神経質な顔立ちだった。

そして、祖母の梅は空襲で亡くなっていた。

地方の町にまで戦禍が及んだのである。

祖母は、徹が住む村ではなく、祖母の実家の町に米を担いで届に行った日に運が悪く焼夷弾で家族ともに戦死していた。その祖母の遺影は何故か洋服姿だった。

父親の真司は養子であったことを、徹は後年知る。

母親は祖母から教えられたというを大正琴を趣味としていて、徹と弟の春樹が通学していた小学校の文化祭で、その大正琴を演奏した。

弟は大正琴に興味を示し、母親から習っていたが、徹は父親の趣味であるハーモニカに興味を示したが、いくら練習しも上手にはならなかったのだ。

母親は家事をしながら歌謡曲を口ずさんでいた。

父親も酒に酔うと昭和の演歌を歌っていた。

小学校は自宅から約4㌔の道程であり、小学生たちは下校時は野山や野畑で遊ぶびながら帰っていた。

弟の春樹は女子たち好かれていたので、共に帰宅していた。

徹は悪ガキ仲間たちと、弟たちをはやし立てていた。

徹は弟のように女のから愛されたかったのに、それが叶わなかった。

知恵遅れで幼馴染の晶子だけが親しい間柄であったが、段々、その晶子を避けるようになってゆく。

晶子は悲しそうにたたずみ、徹を見詰めていた。

 


創作 愛されたい願望 1)

2024年11月29日 06時50分55秒 | 創作欄

松井徹は幼い頃、母親の春子から度々、暴力を受けてきた。

ヒステリックな性格の春子は、心のイライラを息子にぶっていたのである。

だが、何故か弟の春樹にはほとんど、感情を爆発させることはなかった。

徹の血液は母親と同じB型だった。

一方の弟は父親の真司と同じA型であり、温厚で無口な父親に性格が似ていた。

1歳違いの弟が幼稚園に通っていたのに、徹は幼稚園に通っていなかった。

徹は母子家庭の幼馴染の朗と野山を駆けずり回っていた。

知恵遅れで同世代の晶子とは、畦道や堰で遊んでいた。

堰とは、田圃に水を引き入れる水路である。

畦道は蛍が飛ぶ季節となると幻想的となる。

感動する晶子の肩を抱いてみた。

小学となった徹も、母親から暴力を振るわれていた。

堰を石や木材の切れ端で堰き止め魚を獲るなど悪さをして、問題を起こしていた。

人の畑からスイカも盗んで食べていた。

母親は農業や蚕をやっていたが、父親は村の役場に勤める半農家であった。

その父親は役場に勤務していた未亡人と親しくなったことで、家庭は騒動ともなる。

「そんな顔していて、よくも女から惚れらたもんだね」母親にとっては当然の嫌味だった。

実は、相手はあろうことか幼馴染の朗の母親の峰子だったのだ。

 

 

 

 


創作 義理と人情 続編 1

2024年11月14日 14時43分02秒 | 創作欄

徹は、日本の宗教団体に入信したメイユウに餞別として100万円を進呈した。

そして、成田空港へ送って行く電車内の中で、「中国国内では、信仰は難しいかもいれないな」と言ってみた。

メイユウは「センセイ、わたし、ないしょで、信心します。センセイの幸せ祈ってます」と決意を述べた。

ちなみ、香港には組織があったことを、歯科技工士の木村虎雄から聞いていたのだ。

木村は日本国内ではなく、香港で折伏され入信していた。

メイユウが信仰する宗教団体は1980年代、すでに世界宗教になりつあった。

「センセイ一度、中国にきてください。まってます」

「行けたらいいのだけれど・・・」それは徹の本心ではなかった。

「センセイ わたしの写真うけとってください」メイユウは浅草で徹から買ってもらった赤いバッグから写真を取り出した。

それはチャイナドレスでベッドに横たわるメイユウの妖艶な姿だった。

だが、その写真は皮肉にも、妻の愛子に見られてしまう。

「あなた、この写真は何なのよ」愛子が突然大声を上げ、怒りにまかせて写真はその場で引き裂かれる。

 

 

 

 

 

 

 


心の財(たから)

2024年11月14日 10時03分22秒 | 創作欄

▼逆境、苦闘といった言葉は、意外とうしろ向きな意味あいを含んでいるが、それらが生命の原動力ともなるものだ。

逆境があらねば圧力はなく、圧力がなければ変化も起こらない―天文学者・ジャストロウ

壮大なる宇宙の誕生 (集英社文庫)

ジャストロウ、 小尾 信彌監訳
 
▼世は無常だ。
しかし変化に翻弄されず、逆に自らが前向きな変化を起こす。
そのためには不動の信念と勇気による実践が大切となる。
▼わが地域こそ、わが本国土でる。
その地域にたいせつにせずに、平和の建設もない。
▼目標に向かって、懸命に挑戦する、ひたぶるに戦う。
歯をくいしばって道を開いていく―振り返ってみれば、その時は苦しいようで、じつはいちばん充実した、人生の黄金の時なのだ。
目的の<宝>さがしも大切だが、全力で目的地への前進する<勇気の旅>もまた、最高の宝となるのだ。
▼世界には、未だ多くの紛争がある。
そうした紛争を克服する思想として、今、仏教思想への関心が高まっている。
その思想とは、人間の尊厳であり、人々に奉仕し、貢献する機会がふえていくことだ。
人間革命の哲学と行動に、世界の知性が期待をよせている。
共生の哲学が世界を包むことだ。
<いつか>ではなく<今まさに>に平和の構築を!
 

創作 義理と人情 おわり

2024年11月14日 03時42分15秒 | 創作欄

メイユウは、女の嫉妬心であったのだろうか、彼女の同居人である姉や従妹の名前なの一切を徹に明かすことはなかった。

「センセイは、わたしだけの人」彼女は徹に一途な気持ちを打ち明ける。

そして、驚くことに、既に日本の宗教団体の信者となっていた。

「センセイ、わたしと一緒に幸せになってください」と徹を弘教するまでとなる。

実は、彼女が勤務する韓国店の同僚から折伏されていたのである。

その後、メイユウの従兄が来日する。

羽振りが良くなったメイユウの従妹の話が、来日の契機となっていた。

この従兄こそが、メイユウの命運を左右するこことなったのだ。

徹がメイユウに与えた金が、皮肉にも従兄の標的となった。

新宿の大久保病院に搬送されたメイユウは、短刀で従兄に腹部を差されたものの、命を取り留めていた。

「もう、わたし、お金いらないです」メイユウが涙を流す。

徹が初めて、メイユウの柔らかい手を握りしめる。

「センセイ、わたしに、最後のキスしてください」徹は一瞬、ためらったが、それに応じた。

「わたし、北京に帰ります。さよなら、センセイのさよならのキス、とても嬉しいです」彼女は、白い数珠を握りしめていた。

徹は、改めて思った。

日本語の文字は、中国の漢字に由来する。

その意味で、中国は日本とは切っても切れない因縁のある国である。

メイユウに日本語を教える中で、そのことを徹な改め痛感していたのだ。

つまり、中国は日本にとっては、<報恩の国>とも言えたのである。

 

参考

折伏(しゃくぶく)とは、仏教用語で、悪人や悪法を打ち砕き、迷いを覚まさせることを意味します。
 
 
「折」は破邪の意、「伏」は顕正の意で、間違った考え方を打ち破り、正しい道に導くことを意味します。
 
 
折伏は、仏教における化導弘通(けどうぐづう)の方法のひとつで、相手の立場や考えを容認せず、その誤りを徹底的に破折して正法に導く厳しい方法です。
 
 
創価学会では、折伏を「真実を言いきっていくこと」と捉え、誠実に、まじめに、相手の幸せを願って仏法を語っていくことが折伏になるとされています。また、自分が分かっている範囲で話をし、折伏に挑戦していくことも大切です。
 
 
 

創作 義理と人情 5

2024年11月14日 02時20分26秒 | 創作欄

メイユイは、徹から得た金の大半を北京に送金する。

そして、彼女の姉と従妹が来日することなったのだ。

3人は中野・中央の6畳との4畳半のアパートの部屋に同居する。

メイユイはそれまで、新宿・大久保のアパートの4畳半に住んでいたのであるが、徹の斡旋で移転していた。

徹はアパートでメイユイに日本語を教えていた。

彼は過去に国語教師になり損ねた経緯があったのである。

メイユイは徹に恋愛感情を抱いていたが、徹は数か月前に歯科医師の天田孝蔵の勧めで歯科衛生士の戸田愛子と見合い結婚をしていた。

「センセイ、なぜ、結婚、わたしに、隠していたのですか」メイユイは泣くのだが、どうにもならない帰結だった。

「わたし、とても、残念です」二人のやりとりは、日本語が全く分からない彼女の同居人の姉と従妹には通じない問題であった。

徹は既に中国株の運用で3000万円余の利益を得ていた。

徹は再度、メイユウに500万円を渡す。

それが、結果的に皮肉にも裏目に出たのだった。

 


創作 義理と人情 4

2024年11月13日 15時56分59秒 | 創作欄

徹は、65歳で亡くなっ父親真司の遺産の株を運用した時もあった。

日々、営業の仕事で外出しても、株の動向が、気になり、証券会社の店頭の電光掲示板に釘付けとなる。

肝心の期待した父親の外国企業の株も下がり始めていたので、それに見切りをつけなけれならない状態に堕ちる。

そこで、その中の二つの株を売り、日本企業の株に切り替える。

だが、それまでものが裏目に出た。

気落ちした彼は、中国人のメイユイ(美雨)との交際のなかで、中国企業の株に注目して大きな利益を得るこことなる。

その株の運用を指南したのは、営業で知り合った歯科医師の天田孝蔵であった。

天田は、歯科医師対象の講演の後に、突然に参加した歯科医師に対して、講演内容とは全く関係のない話題に転じるのだ。

「皆さん、中国株を買いなさい。有望です」当然、受講者たちは唖然とする。

そして徹は、天田先生が勧めていた中国株で得た利益の一部の50万円をメイユイに手渡す。

「センスイ、こんなにお金たくさん、ほんとに、いいのですか」と彼女は目を丸くするばかりであった。

 

 

 

 

創作 義理と人情 3

2024年11月13日 01時51分56秒 | 創作欄

北側徹は、営業の仕事で北海道はじめ、仙台、新潟、名古屋、大阪、岡山、広島、高知、福岡などへ行っていた。

この間に、忘れていた中国人のメイユイ(美雨)から社内に電話がかかってきたことを同僚の木島紀子から伝えられた。

「とても、可愛い声の人なのね」と紀子が言う。

彼女とは3年前の同期入社であった。

近視の彼女は黒縁の回るい眼鏡をかけていた。

常に黒にセーターとロングのスカート姿であった。

性格がさっぱりしている。

上司である編集長の浅野里美は入社した早い時期に「北側さん、木島さんには手を出さないでね。私の大事な人だから」と釘を刺された。

以前勤務した社の先輩の大森明音(あかね)が「北側君は女に直ぐに手を出すから気をつけて」と余計なアドバイスをしていたのだ。

午後5時の退社時間に、メイユイから電話があった。

「例の彼女よ」電話を受けた紀子はニヤリとする。

「ハイ、北側です」

「センセイ、メイユウです。今日、会えますか?」

「どこで?」

「わたし、新宿歌舞伎町の店にいます。会いに来てください。韓国料理のお店のハヌリです」

徹が以前勤務していた会社は新宿にあり、彼は韓国料理のハヌリを知っていた。

水道橋から新宿へ向かう。

個室の店で、働く女性は皆、チマチョゴリ姿だった。

李朝の王妃

 

「メイユウさんチマチョゴリ似合っているよ」徹を迎えて微笑むメイユウに声をかける。

「わたし、これよりセンセイに見せたいですチャイナドレス」

可愛い声が尖った。

「メイユウさん、その声で歌ってみてください」酒と韓国料理を運んできた彼女と歓談してながら願ってみた。

「センセイ、何うたいますか?」

「そだな、夜来香 (イエライシィアン」

彼女は小声で歌った。

 

 

 

 


創作 義理と人情 2

2024年11月12日 02時03分11秒 | 創作欄

人生には落し穴もあるものだ。

その落し穴は、人間関係に起因する落し穴でもあった。

誰と出会うかによって、人生行路は決まる場合もある。

北側徹は、梅が満開であった夜の東京・湯島神社へ行った帰り、春日通の路地裏のビル地下1階のスナックへ初めて足を踏み入れる。

その店は、韓国パブであったのだ。

40代と思われるママさんの他に、若い4人のホステスが居た。

だが、来店した客は20分ほど、ウイスキーなどを飲むと、ホステスの人と共に店を出て行くのだ。

「二人は何処へ行くのか?」徹は想ってみた。

約1時間後に、客と出て行ったホステスの一人が戻ってきた。

新たな客が来て、同じく20分ほどウイスキーなどを飲むと、ホステスの人と共に店を出て行くのだ。

「買春だな?」徹は確信した。

その店はホテルと隣接していたのだ。

だが、新客の徹は警戒されていたようで、ホステスからの誘いはなかった。

一方、彼はお金で女を抱かない質であったのだ。

韓国人ホステスの一人と思っていた徹の脇に座ったホステスは、にこやかに「メイユイ(美雨)です」と名乗る。

「北京から来たばかりです。わたし、日本語勉強したいです。教えてください」女はビールを徹のグラスに注ぐ。

他のホステスは皆ミニスカートであったが、メイユイはロングスカートであり、しかも野暮な上着姿でもあった。

30分ほどして、徹は店を出た。

メイユイが店の階段の上まで、徹を送り出す。

「わたしは、店やめます。センセイわたしにまた会ってください」メイユイは体を売る女ではなかった。

ママからの「客に身を売ることを求める」要請に抗していたのだ。

「センセイ、名刺ください」すがりつくような声の響きであった。