松井徹は、愛されたい願望を抱いたのであるが、それが実現することなく、大学を卒業した。
大学の卒業を記念する謝恩会は、東京・赤坂のホテルで行われた。
徹が4年の間、密かに恋していた人が和服姿で幹事として受付を務めていた。
微笑み学友たちを迎える美形の彼女の姿 一段と輝いて見えた。
長い黒髪をアップにしていたので、別人にも映じた。
徹は既に彼女には婚約した彼氏が居たことも知らずに、最初で最後のラブレターを彼女の自宅に郵送していた。
「あなたのお手紙、読んだわ。もったいないような、とても複雑な気持ちなったの」彼女は小声で言う。
その後、彼女が5月に赤坂の同じホテルで結婚式を挙げたことを親友であった佐々木孝蔵から聞くこととなる。
ところで、謝恩会では「君には才能がある。短歌を続けなさい」と講師の相沢浩紀先生に言われる。
ラブレターには、彼女の思いを短歌に詠じていたのだが、徹は短歌を卒業し、ジャーナリストを目指す覚悟になっていた。
「あなたと、一度、話てみたかったのよ。今日でお別れなのね」声をかけてきたのが、彼女の親友の中野幸恵であった。
謝恩会は別れの場であった。
愛されたい願望―中野幸恵が徹を密に恋していたとは実に心外であった。
幸恵は、故郷の能登の中学校に赴任と言っていた
灯台下暗しとは言ったものだ。
謝恩会とは、卒業式と合わせて行われるイベントで、お世話になった先生に感謝を伝える場として開催されます。
ゼミ単位の小規模なものから学年単位の大規模なものまでありますが卒業生が主体となり、先生を招待してもてなすのは同じ。