灯りが全くない中での奇抜なまでの回転ベッドでの性行為。
昭は想ってみた「なぜ、だったのか」
女のエロチックな裸体を見られなかったことが、あっけない気持であり、同時に複雑な気持ちでもあった。
実のところ、彩音は観音菩薩の背中の入れ墨を晒すことをためらっていた。
元の彼氏は、同じ北の朝鮮2世でしかも暴力員であり、彩音に入れ墨を強要し、彼女はそれを拒めなかった。
「女は初めてなのね」衣服を身に着けた彩音は、部屋の灯りの下で髪を整えていた。
「そうなんだ」昭は童貞を恥じきる気持ちはなかった。
相手を好きになっても、これまで女性に対して能動的になれなかった。
「あなたのこと、知って置きたいの何でも話してね」真顔だった。
「女性と喫茶店へ行ったこともないし・・・」
「本当なの。あなたって、おかしな人ね」
「おかしくも、事実なんだ」
「どうしてなの?」
「どうして、そういう機会はなかったんだ」
「そうなの」女がほほ笑んだ。
昭はその笑みに魅了された。
昭は、女の問いに応じて生い立ちから家族構成についてまでしゃべった。
女に知ってもらうことが、女の心を得ることだと、しゃべりながら思い込んでいた。
「まだ、私の顔赤い? 酔いも醒めたけど」
「赤い顔もいいですよ」
「変な人ね」
2人は円形ベッドで身を寄せて座っていたが、1時間後に湯島のホテルを出た二人は、夜の湯島天神へ手をつないで向かう。
夜風が心地よく昭は、幸せを感じていた。
梅の季節も終わり、境内には人影はほとんでなかった。
女は手を合わせ、しばし祈っていた。
信仰心がまったくない昭は、天神の本堂を見上げるだけであった。
「あなたは、あちからから、男坂よ」
そして、女が女坂をくだる。
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