8/7(金) 5:29配信
THE PAGE
甲子園で6日に行われた阪神―巨人戦で仰天の“原采配“があった。8回に5番手の堀岡隼人(21)が炎上して7失点、11点差をつけられると原監督はブルペンに残っていた4投手を温存し、野手の増田大輝(27)を登板させたのだ。小松島高時代に投手経験のある増田は、近本光司、大山悠輔を凡退に打ち取り、無失点に切り抜け、試合後、原監督は、連戦の中での作戦であったことを明らかにした。だが、ネット上では、この采配を巡って議論が巻き起こった。果たしてこの采配、アリ?ナシ?
野手の増田が近本、大山斬り
阪神のワンサイドゲームのはずの甲子園が騒然となった。8回から登板した堀岡が自らのフィールディングミスや、中谷の満塁本塁打などで7失点し、スコアが0-11となると原監督は、なんとマウンドに内外野も守れる代走のスペシャリストの増田を送ったのだ。
「ジャイアンツのピッチャー堀岡に代わりまして増田」
アナウンスが流れる中、苦笑いを浮かべなら増田がピッチング練習を始めると場内のざわつきがさらに大きくなった。
ブルペンには中川、大竹、鍵谷、大江の4投手が残っていたが、原監督は、9回の攻撃を残すのみの「負けゲーム」に使うことを嫌い温存したのだ。6連戦のど真ん中。試合後、作戦のひとつであったことを明かしているが、事実上のギブアップ宣言である。
小松島高校時代に投手経験のある増田は119キロのスライダーを交えながらスピーディーなテンポで立派に配球を組み立て、近本を136キロのストレートで二ゴロに打ち取った。続く江越大賀の打席では、最速138キロをマーク。フルカウントから投じた120キロのスライダーは、ストライクに見えたが、審判は温情からかボールと判定。二死一塁となって次の大山は、2球目の138キロのストレートを捉えて逆方向に打ったが、もうひとつ打球に伸びがなく下がったライトのパーラのグラブに収まった。
13球のプロ初登板を終えた増田は、複雑な笑顔でベンチへ走って帰り、原監督も笑顔で、急造投手を迎えた。9回の巨人の攻撃も坂本勇人、丸佳浩、岡本和真の3人で終わりゲームセット。阪神にとっては、今季初登板の高橋遥人が好投、打線が爆発しての連敗ストップとなったのだが、話題は、仰天の原采配に持っていかれた。
メジャーでは大差のついた試合で、中継ぎ投手を温存するための野手の投手起用戦略は珍しくない。マーリンズ時代のイチロー、アストロズ時代の青木宣親(現ヤクルト)も登板経験がある。だが、日本では「相手打者に失礼」「試合をあきらめた姿勢を見せるのはファンへの冒涜行為」などの考え方が根強くあり、過去に西武のデストラーデが敗戦処理登板をしたケースなどがあるが、この戦術は浸透してこなかった。
またメジャーでも、近年、ブルペン温存による野手登板機会が急増し、ファンの間で議論が起き批判の声が続出したため、機構側は昨年オフにルールを改定。「野手の登板は延長戦または6点差以上の試合に限る」との制限をつけて今季から導入予定だった。新型コロナウイルスの影響で、登録メンバーを増やすなどイレギュラーなルールが採用されたため、導入は先送りされたが、そういう流れの中で、原監督がメジャー式の野手登板を伝統のTG戦で実行したのだから、ネット上で「アリ」「ナシ」の議論が巻き起こるのも無理はなかった。
“ヤフコメ“にも大量の意見が寄せられたが、決して賛否両論ではなく、意外にも、そのほとんどが原采配を支持するものだった。
「過密日程だしアリなんじゃないの」「メジャー式の采配」「驚いたけどナイス采配」「賛否両論はあるだろうが、この采配を支持する。増田が良く投げた」「見どころのない完敗ゲームを楽しませてもらえて良かった」…中には、「『相手に失礼』とか『最後まで何が起こるか分からないのに勝負を投げた』とか言う人もいるでしょうが、中継ぎ投手の肩を休ませるのも長いシーズンを戦う戦略の一つ」と要点をまとめた意見も。
戦略としてのブルペン陣の温存だけでなく、エンターテインメントとしてファンを楽しませた起用を評価する声もあった。
ただ「阪神ファンとして後味が悪い」「作戦としてはアリだが、この手をとらざるを得ない試合運びを(巨人は)大いに恥じるべき」「金を払って観にいくものだとはどうしても思えない」などの批判もあった。
巨人、楽天、西武などでヘッド、戦略、作戦コーチを務めたことのある野球評論家で、新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ強化アドバイザー兼総合コーチの橋上秀樹氏は、こんな意見を持つ。
「原さんでないとできない、原さんだからこそできた作戦でしょう。メジャーでは当たり前ですが、日本では批判されることが先に立ち、なかなかこうは踏み切れません。報道を見ると、宮本投手コーチが増田、岸田ら、こういうケースに登板可能な投手経験のある野手をリサーチしていたようなので、その周到なリスク管理に驚かされます。今年の連戦が続く過密日程を考えると、戦略的に大敗ゲームで中継ぎを休ませることの意義は大きいですよ。残っていた中川、大竹、鍵谷、大江らは、勝ちゲームや接戦で必ず使うピッチャー。できれば、こういう展開の中で使いたくない。最後まで堀岡に投げさせるべきだ、いや、ここまで炎上した投手の続投は逆にファンに失礼だ、野手を使い試合をあきらめた姿勢を見せるべきではない、などの賛否は出てくるでしょうが、1戦必勝の高校野球と違って、プロ野球は、明日があり、シーズントータルで勝負を競うスポーツです。いわゆる戦力を使わずに負ける、捨てゲームを戦略的に作ることが重要になります。こういう疲労の蓄積の回避が最後には効いてきますよ。私は、これを契機に特に投手力に不安のあるチームなど、他にも真似をするチームが出てくるのではないかと思っています」
原監督の第二次政権時代に、戦略コーチ、打撃コーチを務めたこともある評論家で新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ強化アドバイザー兼総合コーチの橋上秀樹氏は、5連勝の裏には、“原マジック“が見え隠れしているという。
「他球団に比べると、先発がしっかりとしていて主軸のバッターが固まっているという戦力の有利さもありますが、原さんの采配が冴えています。最終回にも二死一、三塁から仕掛けましたね。DeNA相手に4点はセーフティーリードではないという考えがあり、何もせずに終わるより、少しでも得点につなげる可能性を探ったのでしょう。結果、得点にはつながりませんでしたが、相手チームに“こんなことをやってくるのか”という意識を植え付け、チームの野球観も高めることにつながります」
またウィーラー、丸を試合前に教えた原監督の選手への直接指導は、橋上氏がコーチ時代にも行われていたという。
「監督に声をかけられる、教えてもらうというのは、選手にとって嬉しいことなんです。それだけで意気に感じる。技術以上に魔法みたいなところがあるんですよ」
一方で、先の広島戦では、丸にプロ入り初となる1試合2つの犠牲バントをさせるなどの非情の采配もある。ベテラン、若手関係なく、戦闘集団に必要な「勝利最優先主義」の鉄則を貫いているため、強いリーダーシップが生まれチームに一体感が出てくる。
橋上氏は、「セ・リーグの他の監督に比べると采配が光ります。動くとこは動く、我慢するところは我慢するを徹底しています。他の監督は、どちらかというと選手任せの野球で、あまり戦術、戦略は目をひきません。巨人には、整備された戦力に加え、なおかつ采配のプラスアルファがあります。監督としての力量、経験はちょっと抜けているように感じます」と評価した。
広島・佐々岡監督、ヤクルト・高津監督は、監督就任1年目。阪神の矢野監督、中日の与田監督も、まだ2年目で監督経験は浅い。横浜DeNAのラミレス監督が、唯一、就任5年目で、クライマックスシリーズ、日本シリーズ進出経験もあるが、原監督は長嶋茂雄氏の通算勝利1034勝を抜き、これで1039勝目である。橋上氏が指摘する采配力の差が、セのペナントレースの行方を大きく左右することになるのだろうか。
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