インターネット上での偽・誤情報の拡散等
SNSや動画配信・投稿サイトなど様々なデジタルサービス普及により、あらゆる主体が情報の
発信者となり、インターネット上では膨大な情報やデータが流通し、誰もがこれらを容易に入手す
ることが可能となった。
本節では、このような「情報爆発」とも呼ばれる状況の中、情報・データ
流通をめぐりネット上で何が起きているのかを整理し、各国の対応等を分析する。
1 現状
1 アテンション・エコノミーの広まり
情報過多の社会においては、供給される情報量に比して、我々が支払えるアテンションないし消
費時間が希少となるため、それらが経済的価値を持って市場(アテンション・マーケット)で流通
するようになる*1。
こうした経済モデルは、一般に「アテンション・エコノミー」と呼ばれる。
プラットフォーマーは、可能な限り多くの時間、多くのアテンションを獲得するため、データを駆使
してその利用者が「最も強く反応するもの」を予測しており、プラットフォーマーの台頭によりイ
ンターネット上でもアテンション・エコノミーが拡大している。
インターネット上で膨大な情報が流通する中で、利用者からより多くのアテンションを集めてク
リックされるために、プラットフォーム上では過激なタイトルや内容、憶測だけで作成された事実
に基づかない記事等が生み出されることがあり、アテンション・エコノミーは偽・誤情報の拡散や
インターネット上での炎上を助長させる構造を有している*2。
2 フィルターバブル、エコーチェンバー
人は「自らの見たいもの、信じたいものを信じる」という心理的特性を有しており、これは「確
証バイアス(Confirmation bias)」と呼ばれる。プラットフォーム事業者は、利用者個人のクリッ
ク履歴など収集したデータを組み合わせて分析(プロファイリング)し、コンテンツのレコメン
デーションやターゲティング広告等利用者が関心を持ちそうな情報を優先的に配信している。
このようなプラットフォーム事業者のアルゴリズム機能によって、ユーザーは、インターネット上の膨
大な情報・データの中から自身が求める情報を得ることができる。
一方、アルゴリズム機能で配信された情報を受け取り続けることにより、ユーザーは、自身の興
味のある情報だけにしか触れなくなり、あたかも情報の膜につつまれたかのような「フィルターバ
ブル」と呼ばれる状態となる傾向にある。このバブルの内側では、自身と似た考え・意見が多く集
まり、反対のものは排除(フィルタリング)されるため、その存在そのものに気付きづらい。
また、SNS等で、自分と似た興味関心を持つユーザーが集まる場でコミュニケーションする結
果、自分が発信した意見に似た意見が返ってきて、特定の意見や思想が増幅していく状態は「エ
コーチェンバー」と呼ばれ、何度も同じような意見を聞くことで、それが正しく、間違いのないも
のであると、より強く信じ込んでしまう傾向にある。
フィルターバブルやエコーチェンバーにより、インターネット上で集団分極化が発生していると
*1 鳥海不二夫 山本龍彦 共著「デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康の実現を目指して」(日経プレミアムシリーズ)
の指摘がある*3。意見や思想を極端化させた人々は考えが異なる他者を受け入れられず、話し合う
ことを拒否する傾向にある。フィルターバブルやエコーチェンバーによるインターネット上の意
見・思想の偏りが社会の分断を誘引し、民主主義を危険にさらす可能性もありうる*4。
3 違法・有害情報の流通
総務省が運営を委託する違法・有害情報相談センターで受け付けている相談件数は高止まり傾向
にあり、2022年度の相談件数は、5,745件であった。
2022年に法務省人権擁護機関が、新規に救済手続を開始したインターネット上の人権侵害情報
に関する人権侵犯事件の数は1,721件、処理した人権侵犯の数は1,600件であり、いずれも高水準
で推移している。
SNSユーザーを対象に実施したアンケート調査*5によると、約半数(50.9%)の人がインター
ネット上の誹謗中傷等の投稿(「他人を傷つけるような投稿(誹謗中傷)」)を目撃したことがある
と回答している(図表2-3-1-1)。また、過去1年間にSNSを利用した人の1割弱(8%)が「他人
を傷つけるような投稿(誹謗中傷)」の被害に遭っていると回答している。
図表2-3-1-1 SNSユーザーを対象としたアンケート調査(目撃経験)
0 10
目撃した際のサービ
4 偽・誤情報の拡散
近年、インターネット上でフェイクニュースや真偽不明の誤った情報など(以下「偽・誤情報」
という。)に接触する機会が世界的に増加している。2020年の新型コロナウイルス感染症拡大以
降は、当該感染症に関するデマや陰謀論などの偽・誤情報がネット上で氾濫し、世界保健機関
(WHO)はこのような現象を「infodemic*6」と呼び、世界へ警戒を呼びかけた。
また、OECDによると、2021年に欧州に居住する人のうち「インターネット上のニュースサイ
トやSNS上で偽又は信憑性が疑わしい情報(untrue or doubtful information or content)に接
した経験がある」と回答した人は半数以上に達した。なお、このうち、オンライン上の情報の真実
性を確認すると答えた人は26%であった*7。
我が国でもインターネット上の偽・誤情報拡散の問題が拡大している。
総務省が2022年3月に実施した調査*8では、我が国で偽情報への接触頻度について「週1回以上」(「毎日又はほぼ毎日」と「最低週1回」の合計)接触すると回答した者は約3割であった。
また、偽情報を見たメディア・サービスについては、「ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)」、「テレビ」、「ポータルサイトやソーシャルメディアによるニュース配信」の順に高くなっており、特にSNSについては5割を超えた。
SNS等のプラットフォームサービスでは、一般の利用者でも容易に情報発信(書込み)が可能
で、偽・誤情報も容易に拡散されやすいなどの特性があり、このことがSNSで偽・誤情報と接触
する頻度が高い要因の一つであると考えられる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます