キカクブ日誌

熊本県八代市坂本町にある JR肥薩線「さかもと駅」2015年5月の写真です。

東風吹かば匂ひをこせよ

2013年04月29日 | ☆SHERLOCK祭
「最後の挨拶」のラスト。こんな台詞で締めくくられます。
この「最後の挨拶」自体は、ワトスン君の文体じゃないのも手伝って、あまり何度も読み返していないエピソードなのですが、ここのところの台詞はとても温かい感じがして好きなんです。


「東風が来るね。ワトスン君」

「そうは思わんが、ホームズ。こんなに暖かいもの」

「相変わらずだね、ワトスン君は。時代は変わっても君だけは同じだ。とはいえ、東風は吹くのだ。これまでイングランドに吹いたことのない風がね。冷たく厳しい風になるだろう、ワトスン、そしてその突風の前に我々の善良な人々の多くが萎えてしまうだろう。しかしそれは神の吹かせる風なのだ。そして、嵐の過ぎた後には、もっと清潔で、もっと善良でもっと強い国土が輝かしい太陽の下、広がることになるのだ。
車を出してくれ、ワトスン君。そろそろ出発の時間だ。僕は500ポンドの小切手を持っているが、早いとこ換金してしまわなくては。振出人が現金化を差し止める可能性があるからね。もっとも彼にそれが出来たらの話だが。


(延原訳の記憶もかなり混ざっていますが、拙訳です)


"There's an east wind coming, Watson."

"I think not, Holmes. It is very warm."

"Good old Watson! You are the one fixed point in a changing age. There's an east wind coming all the same, such a wind as never blew on England yet. It will be cold and bitter, Watson, and a good many of us may wither before its blast. But it's God's own wind none the less, and a cleaner, better, stronger land will lie in the sunshine when the storm has cleared. Start her up, Watson, for it's time that we were on our way. I have a check for five hundred pounds which should be cashed early, for the drawer is quite capable of stopping it if he can."




ここに出てくる「東風」。
これを私はながいこと「こち」と呼んでいました。
もしかしたら、延原訳の文庫本に「こち」と振り仮名があったのかも知れません。

「東風~こち」といえば、思い出されるのは、菅原道真の和歌
「東風吹かばにほひをこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ(春を忘るな)」

日本の地理的条件、しかも平安当時の西日本文化圏においては、「東風」は春の象徴であり、また春の東風は嵐になりやすいという意味も持っていたそうです。
気候は変わりませんから、今も同じですね。

では、イギリスはどうなんでしょう?
イギリスの気候の「東の風」っていうと、どういう象徴なんでしょ?
ここでの「an east wind」は嵐の前触れという意味で使われているようです。
ワトスンの台詞から想像すると、日本のとは逆で、これから寒くなるとかいう季節に吹くことが多いのかな?

この点、きっと誰か研究してるんじゃないかと思うので、ご存知の方がいらしたら教えていただきたいです。



そして出てきましたね。

Start her up

車に対して her が使われています。
(この時代はもう車が出てきてて、ワトスン君が運転するようですよ)
シャーロックの第一話「ピンク色の研究」でも「Open her up」という台詞が出てきてましたね。

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