香美市 わたなべ農園の渡邉志津江です。
「こしらえる」
農家は圃場での農作業と出荷の両輪回って初めて収入が得られる。
しかし、小規模なため、この日このタイミングでと畑仕事を優先すると出荷の機会を逃すことがある。
農業は出来た作物を売ってなんぼの商売なのだ。
もちろん定期出荷の分は発注書通りに仕上げていくのだが、持ち込み自由のスーパーの生産者コーナーは
自分で製作したポップがお留守番しているという訳だ。
時間には限りがあるから仕方がない。
出荷調整作業は収穫作業の何倍も手間と時間がかかる。
この作業を土佐弁では『こしらえる』と言う。
「作る」という本来の意味で使われることは各地であることだろう。
田舎に引っ越して来た当初、「こしらえてないけど食べて。」とご近所さんにいろんな野菜をいただいた。
抜いたばかりの大根やかぶ、菜っ葉は本当のごちそうだとありがたかった。
そのうちに、下葉を取ってなかったり、土つきのままのことだと理解できるようになった。
結婚の支度を「こしらえ」と言うことも考えると
『身綺麗にきちんと整える』といった意味合いと『輿入れ』とが重なって聞こえる。
「こしらえる」という言葉を単に出荷調整作業とは言えない、何か精神的なものを感じるのは私だけだろうか。
最近、丁寧に「こしらえた」ものを知人にいただいた。
天日乾燥した天然の《ひじき》だ。
子どもたちと一緒に海で採ってきたものだという。きっちりと乾いた黒々と光るひじき・・
「わー、すごい!!」と言って思わず知人の顔を見た。
満面の笑みを浮かべた彼女はもともと美人なのだが、更に輪をかけたようなまばゆさでこっちを見ている。
「採ったどー」の表情なのだ。
その時は彼女に言わなかったが、私は泣きそうになっていた。
これを『こしらえる』のに一体どれくらいの労力をかけただろう。
「これ干して仕上げるのにどれだけ手間かかったかわからん。立派やね~。見事!」
感心して言う私に案の定
「天気になったら干して、夜になったら入れて、また出して入れて」を繰り返したと言う。
私にならきっとその苦労がわかってもらえると、大喜びしてくれるはずと持って来たのだと彼女は言った。
うん、うん、わかる、わかる。
痛いほどわかるよ・・
プリントしたパッケージに入っていないだけで、天然物の天日干しの上物のひじき。
買えば一体いくらになることだろう。
本当に値打ちのあるものは値段がつけられない。
どこにも売っていないことさえある。
彼女も私も青果のある一瞬を切り取って売る商売仲間だ。
自然がもたらす深遠な恵みをお客さまと享受しながらも、営業という胸の痛む戦いをし続ける同志だ。
だからこそ、時折の「たからものくらべ」は本当の心の癒しなのだ。
この『たからもの』をうちのニンジンとこだわりの手揚げと煮る。
いつものおかずが特上品!!
なんて幸せなんだろう。
※ この記事は、NPO法人土といのち『お便り・お知らせ』2017年7月号より転載しました。