8月24日、日本共産党熊本地区委員会と熊本市議団で、熊本市長へ「立野ダム建設を中止し、ダムによらない治水対策の抜本的強化を求める申し入れ」を行いました。
この間の市民団体といつ所になった学習会や調査の中で、立野ダム建設の必要性がないことや、逆に建設することによって多くのリスクがあることがわかってきました。
ダム建設による治水効果の一番の受益地となる熊本市の態度表明が極めて重要となります。
私たちは、具体的な問題点を指摘し、立野ダムの建設中止と、ダムによらない白川の治水を求める申し入れを行いました。
申し入れの内容は、以下のとおりです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
熊本市長 大西 一史 様
2015年8月24日
立野ダム建設を中止し、ダムによらない治水対策の抜本的強化を求める申し入れ
日本共産党熊本地区委員会
委員長 重松 孝文
日本共産党熊本市議団
上野 美恵子
那須 円
山部 洋史
私ども日本共産党は、かけがえのない阿蘇の自然を守ることと、市民の安全安心な生活の確保のため、白川治水対策の抜本的な推進を両立させる立場で、立野ダム建設中止とダムによらない治水対策の強化を繰り返し求めてまいりました。
この間の調査により、以下の点が明らかになったことから、8月17日に日本共産党熊本県委員会、同じく熊本地区委員会、熊本県議会議員・熊本市議団はじめ県下の地方議員で国土交通省に対し、「河川改修・遊水地などダム以外の治水対策をすすめ、立野ダムは中止を」と求める申し入れを行いました。
立野ダムは、あまりにもリスク(危険、損害)が大きすぎる
① 世界の阿蘇の入口に高さ90m、幅200mのコンクリートのダムができれば、「世界の阿蘇」の景観、環境、貴重な資源、観光などに取り返しのつかない被害をもたらします。世界農業遺産、世界ジオパークに阿蘇が認定され、さらに世界文化遺産登録を目指す阿蘇にとって、立野ダムは重大な障害物です。現に、仮排水路工事によって、世界ジオパークの重要サイトである立野峡谷の柱状節理が破壊され(写真)、阿蘇くじゅう国立公園の特別保護地区の北向き山原始林の下部は、巨大なトンネルによってえぐられています。 ジオパーク(「大地の公園」「地質公園」)は、「保全」「教育」「地域の持続的発展」をめざすもので、「保全」は、とりわけ重要です。ジオパークには厳格な保存と管理の規定があり、4年ごとに審査があります。ジオパークの重要サイトに巨代ダムが造られ、柱状節理をはじめ大事な資産が破壊されていることが、審査で明らかになれば、阿蘇が世界ジオパークに認定される際、外輪山の採石場が厳しく指摘されたことから見ても、認定が抹消されることは避けられません。阿蘇、熊本、日本が、観光はもとより社会的信用性という点でも大きなダメージを受けるこうした事態は絶対あってはなりません。
② 穴あきダムの直径5メートルの3つの穴が、阿蘇の巨大な岩石、流木、土砂によってつまることが懸念されます。国交省は、「穴がつまらない」ことを、「爪楊枝」による水理実験で検証したと説明していますが、大水害時の阿蘇・立野の状況からして、到底納得できるものではありません。穴がつまることによって、下流には通常洪水をはるかに上回る被害をもたらします。穴がつまれば、一級河川白川の河川機能が喪失し、農業、漁業、地下水涵養に甚大な被害をもたらします。農業、地下水の問題は、一般にダムがもたらす被害とは次元の異なる大規模な、長期にわたる被害です。立野ダム建設は、県民にとって、熊本県にとって、取り返しのつかない大惨事をもたらす危険性を抱えています。
③立野ダムの右岸(立野側)は、洪水時に地下水が噴出し、立野層を巻き込んだ大きな浸透破壊につながる危険性がある」(国交省内部文書)など、安全性に大きな疑問があり、徹底した情報開示、説明、第3者的検証が必要です。
④立野ダムの総事業費は当初の2倍余の917億円、県の負担275億円(推定)です。新国立競技場建設における都の負担・500億円は都民1人当たり3700円、4人世帯15000円であり、大問題になっています。立野ダム建設における熊本県の負担275億円は、県民1人あたり1万5千円、4人世帯6万円に相当します。新国立競技場建設を上回る県民負担となる立野ダム建設は県財政に深刻な影響を及ぼすことは間違いありません。新国立競技場は、ゼロからの見直しになりました。財政負担の大きい立野ダム建設についても中止すべきです。
⑤国交省が、立野ダム建設に固執してきたことによって、白川の河川改修が遅れました。2012年7月12日の白川水害被害の大半は、立野ダムのために投じられてきた約400億円を、河川改修に回し、築堤や河道の拡幅、橋の架け替えなどをやっておれば防げました。立野ダム建設計画が、「7・12」水害の元凶と言えます。
以上、指摘しましたように、立野ダムがもたらすリスク(危険、損害)は、重大かつ深刻なものです。
河道拡幅、築堤、橋の架け替えで、下流域(小碩橋)では、ダムは不要
日本共産党は、白川の「現況河道流下能力算定表」(2008年2月)にもとづき、下流域のほとんどのところが目標流量である毎秒2300tを上回っている(子飼橋~竜神橋間では、3000数百トン流下)ことを指摘し、立野ダムではなく、河川改修を進めることを求めてきました。
市民団体メンバーが請求し開示された「現況河道流下能力算定表」(2015年3月)によると、河川改修によって小碩橋下流の国管理区間(熊本市中心部)では、毎秒3500~3600t規模が流れるようになっており、流量がそれより低いところも、進行中の工事が完了すれば、河川整備計画レベル(毎秒2300t)はもとより河川整備基本方針(150年に1回の洪水・毎秒3400t)をも流れることになります。
堤防の「厚さ」「強度不足」を考慮したスライド堤防高でも「流下能力」は、すべて毎秒2300トンを上回り、そのほとんどが毎秒3000tを上回っています。スライド予防高でもほとんど毎秒2300トンを上回っています。
このように、ダムを建設しなくても十分に白川の河川流量の調節ができることははっきりしています。立野ダム建設事業の検証に係る検討報告書3・1・1「立野ダムの目的」として、「熊本市など下流域における洪水被害を軽減すること」としており、リスクが極度に高い立野ダムは不要です。
立野ダム建設のために、抜本的な治水対策が棚上げされた中流域
白川上流域(黒川流域)は、総合的な治水対策がすすめられています。ところが、中流域(未来大橋から立野まで)は、河川整備計画がつくられず、遊水地計画も具体化せず、中流域の安全が、意図的に低く抑えられてきており、治水対策はなお不十分です。
第1に、黒川流域で熊本県が進めている治水対策は、河道改修、輪中堤、宅地かさ上げ、遊水地計画など、総合的な治水対策です。
遊水地計画は、小倉遊水地は、掘り込み式(初期遊水地)21ha、2次遊水地(地役権設定方式。売買価格の約3割の補償、通常は農作物可能)65ha、手野遊水地は、初期遊水地10ha、2次遊水地40haとなっています。県河川課がまとめた資料によると、小倉地区遊水地では地役権対象地権者総数102名のうち不満者数はゼロ、手野地域では地権者総数44名の中で不満者数1名。1名は、買収希望者です。地役権方式遊水地計画は、農家の同意を得るうえで効果的な治水対策といえます。地役権方式による遊水地の設定は洪水調節機能において大きな役割を果たすことが既に明らかになっています。
平成23年7月、新潟県を襲った豪雨災害において、新潟県土木部管理課関係者がまとめたレポートによると、刈谷田川遊水地は毎秒180トンの洪水調節機能を発揮し、一方刈谷田ダムの洪水調節は毎秒100トン。合計280トンの洪水量が低減し、水位を、遊水地により35センチ、ダムにより19センチ、合計54センチ低下させることができたことを明らかにしています。地役権方式遊水地が、ダムを上回る治水効果を果たしたということです。
国交省は、(球磨川の)「ダムによらない治水を検討する場」第1回幹事会で、「大雨が降ったときに、川から水があふれて洪水にならないように、一時的に水を貯めこみ、下流の流量を少なくする(河川水を下げる)働きがあるとして、遊水地について、「掘り込まない」遊水地18ケ所で有効貯水容量約330t、「掘り込み」遊水地2ケ所で約330tとする検討諸元を示しています。
第2に、立野ダム事業の検証に関わる検討報告書(平成24年)によると、「中流部の遊水地増設、河道の掘削を行い、河川整備計画で想定している目標と同程度の目標の達成をはかる」治水対策案が検討されています。
この治水対策案では、「遊水地は、地役権方式では必要な治水効果が得られない」ので、遊水地は、「掘り込み方式にする」となっていますが大きな問題点があります。
まず、「地役権方式遊水地は必要な治水効果があげられない」と切り捨てていることです。これは、国交省、県の方針、実際の効果からして、一方的で是認できません。
次に、「掘り込み方式」の遊水地計画を立てていながら、実際の対策では、これも切り捨て、棚上げしていることです。「掘り込み式」遊水地計画の面積は130ha、深さは5~6mです。最大貯水量は約780万トンです。立野ダムの総貯水量は、約1000万トンです。この計画を実現すれば、立野ダム建設の根拠はなくなってしまいます。
中流域において、「地役権」「掘り込み」の遊水地を設置すれば立野ダムは完全に不要です。
以上の経過と内容は、国土交通省が、立野ダム建設ありきで、「地役権方式」遊水地を葬むり、「掘り込み式」遊水地も図面だけで、計画から意図的に外したと指摘せざるを得ません。
結果として、①中流域(未来大橋から立野)の安全性は、「河川整備計画で想定している目標と同程度の目標」以下におさえられた。②中流域の遊水地計画がなくなることによって、下流・熊本市の安全性も、意図的に低く抑えられた。③立野ダム建設を生き残らせた。ということが指摘できます。
中流域、下流域(熊本市)の安全をともに高めるために、必要なことは、以下の点です。
①「白川河川整備計画」では、基準点(代継橋)で、毎秒2300tの洪水を、立野ダムによって、200tカットすることになっています。立野ダム以外の治水対策で、200tをカバーできれば、リスク(危険、損害)が著しい立野ダムは不要です。なお、想定外の洪水では、立野ダムは、洪水があふれ機能しません。むしろ、穴が詰まったら、被害は想像を絶するものになってしまいます。未来大橋~立野間の河川整備計画をつくり、安全を高めれば、その効果は中流域にとどまらず、下流域(熊本市)の安全を向上させることになります。
よって、現在進められている、河道拡幅、河床の掘削、堤防補強、橋の架け替えなどについては、住民合意をもとに、速やかに完了させる。
②中流域の遊水地設置は、貴重な地下水の涵養にも一定の効果をもたらします。よって、県が黒川流域で具体化し、推進している河道改修、輪中堤、宅地かさ上げ、遊水地計画などのダム以外治水の総合的対策を、中流域で具体化する。
なかでも、「地役権方式では必要な治水効果が得られない」との「立野ダム事業の検証に関わる検討報告書(平成24年)」の一方的な断定、「掘り込み式」遊水地計画の棚上げについて撤回することを、県と国土交通省に求めること。
③流域住民、農家、ダム以外治水に詳しい専門家を含めた「中流域のダム以外治水を検討する場」を設置し、早急に河川整備計画を確定すること。
情報伝達などソフト面を一層充実する「白川防災・減災行動計画(タイムライン)」策定を
近年の異常気象による大規模水害と被害が、日本でも世界でも増大傾向にあり、「想定外」の大雨、洪水に対して、ハード、ソフト面での備えが不可欠です。
立野ダム建設、あるいはダム以外の治水対策、いずれであっても「想定外」の洪水には対応できません。立野ダムをつくれば、「超過洪水」による被害、ダムによる治水効果を加味したより狭い川幅、低い堤防などにより、被害は増幅することになります。
「想定外」の洪水に対しては、情報伝達の整備、地域ごとのハザードマップの作成、日常からの避難訓練など、ソフト面の対策の抜本的に強化が求められています。
国土交通省・水災害に関する防災・減災対策本部地下街・地下鉄等ワーキンググループ「中間とりまとめ」等にもとづいて、避難確保、浸水防止計画、浸水防止用設備(止水版、防水扉等)に対する支援など、「白川防災行動計画」(タイムライン)を下流域、中流域(小碩橋~未来大橋)に策定することが必要です。とりわけ中心市街地・地下街、地下空間を有する熊本市中心部対策を急ぐ必要があります。
以上のような理由から、以下の点について取り組んでいかれるよう要望いたします。
<要望事項>
1、 立野ダム建設は必要ないという立場を表明し、建設中止を国・県へ申し入れること
2、 国・県と協力し、「白川河川激甚災害対策特別緊急事業」として行われている明午橋上流のみらい大橋までの区間の工事が速やかにすすめられるよう市としても協力すること。その場合、河川改修ならびに関連工事の実施に当たっては、流域住民の意見を十分に聞き、計画に反映させながらすすめていくこと。
3、 この間県が、白川の治水対策として黒川流域で取り組んできた河道改修・輪中堤・宅地かさ上げ・遊水地計画は効果が明らかになっており、白川中流域でも具体化していくよう県に働きかけ、市として協力すること。
4、 白川中流域における遊水地などの治水対策は、実施すれば地下水保全にもつながっていくので、県・中流域自治体と協力して、流域住民(熊本市民も含む)・農家・治水の専門家を含めた「白川中流域のダム以外の治水を検討する場」を設置し、中流域の治水計画を早急に策定すること。
5、 避難確保、浸水防止計画、浸水防止用設備に対する支援など、「白川防災行動計画」(タイムライン)を下流域、中流域(小碩橋~未来大橋)においても策定すること。その場合、町内会・民生委員・消防団・自主防災クラブなど、地域との共同を図ること。
6、 白川の河川改修・整備計画について、市民への情報公開・説明責任を十分に果たしていくこと。
以上
この間の市民団体といつ所になった学習会や調査の中で、立野ダム建設の必要性がないことや、逆に建設することによって多くのリスクがあることがわかってきました。
ダム建設による治水効果の一番の受益地となる熊本市の態度表明が極めて重要となります。
私たちは、具体的な問題点を指摘し、立野ダムの建設中止と、ダムによらない白川の治水を求める申し入れを行いました。
申し入れの内容は、以下のとおりです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
熊本市長 大西 一史 様
2015年8月24日
立野ダム建設を中止し、ダムによらない治水対策の抜本的強化を求める申し入れ
日本共産党熊本地区委員会
委員長 重松 孝文
日本共産党熊本市議団
上野 美恵子
那須 円
山部 洋史
私ども日本共産党は、かけがえのない阿蘇の自然を守ることと、市民の安全安心な生活の確保のため、白川治水対策の抜本的な推進を両立させる立場で、立野ダム建設中止とダムによらない治水対策の強化を繰り返し求めてまいりました。
この間の調査により、以下の点が明らかになったことから、8月17日に日本共産党熊本県委員会、同じく熊本地区委員会、熊本県議会議員・熊本市議団はじめ県下の地方議員で国土交通省に対し、「河川改修・遊水地などダム以外の治水対策をすすめ、立野ダムは中止を」と求める申し入れを行いました。
立野ダムは、あまりにもリスク(危険、損害)が大きすぎる
① 世界の阿蘇の入口に高さ90m、幅200mのコンクリートのダムができれば、「世界の阿蘇」の景観、環境、貴重な資源、観光などに取り返しのつかない被害をもたらします。世界農業遺産、世界ジオパークに阿蘇が認定され、さらに世界文化遺産登録を目指す阿蘇にとって、立野ダムは重大な障害物です。現に、仮排水路工事によって、世界ジオパークの重要サイトである立野峡谷の柱状節理が破壊され(写真)、阿蘇くじゅう国立公園の特別保護地区の北向き山原始林の下部は、巨大なトンネルによってえぐられています。 ジオパーク(「大地の公園」「地質公園」)は、「保全」「教育」「地域の持続的発展」をめざすもので、「保全」は、とりわけ重要です。ジオパークには厳格な保存と管理の規定があり、4年ごとに審査があります。ジオパークの重要サイトに巨代ダムが造られ、柱状節理をはじめ大事な資産が破壊されていることが、審査で明らかになれば、阿蘇が世界ジオパークに認定される際、外輪山の採石場が厳しく指摘されたことから見ても、認定が抹消されることは避けられません。阿蘇、熊本、日本が、観光はもとより社会的信用性という点でも大きなダメージを受けるこうした事態は絶対あってはなりません。
② 穴あきダムの直径5メートルの3つの穴が、阿蘇の巨大な岩石、流木、土砂によってつまることが懸念されます。国交省は、「穴がつまらない」ことを、「爪楊枝」による水理実験で検証したと説明していますが、大水害時の阿蘇・立野の状況からして、到底納得できるものではありません。穴がつまることによって、下流には通常洪水をはるかに上回る被害をもたらします。穴がつまれば、一級河川白川の河川機能が喪失し、農業、漁業、地下水涵養に甚大な被害をもたらします。農業、地下水の問題は、一般にダムがもたらす被害とは次元の異なる大規模な、長期にわたる被害です。立野ダム建設は、県民にとって、熊本県にとって、取り返しのつかない大惨事をもたらす危険性を抱えています。
③立野ダムの右岸(立野側)は、洪水時に地下水が噴出し、立野層を巻き込んだ大きな浸透破壊につながる危険性がある」(国交省内部文書)など、安全性に大きな疑問があり、徹底した情報開示、説明、第3者的検証が必要です。
④立野ダムの総事業費は当初の2倍余の917億円、県の負担275億円(推定)です。新国立競技場建設における都の負担・500億円は都民1人当たり3700円、4人世帯15000円であり、大問題になっています。立野ダム建設における熊本県の負担275億円は、県民1人あたり1万5千円、4人世帯6万円に相当します。新国立競技場建設を上回る県民負担となる立野ダム建設は県財政に深刻な影響を及ぼすことは間違いありません。新国立競技場は、ゼロからの見直しになりました。財政負担の大きい立野ダム建設についても中止すべきです。
⑤国交省が、立野ダム建設に固執してきたことによって、白川の河川改修が遅れました。2012年7月12日の白川水害被害の大半は、立野ダムのために投じられてきた約400億円を、河川改修に回し、築堤や河道の拡幅、橋の架け替えなどをやっておれば防げました。立野ダム建設計画が、「7・12」水害の元凶と言えます。
以上、指摘しましたように、立野ダムがもたらすリスク(危険、損害)は、重大かつ深刻なものです。
河道拡幅、築堤、橋の架け替えで、下流域(小碩橋)では、ダムは不要
日本共産党は、白川の「現況河道流下能力算定表」(2008年2月)にもとづき、下流域のほとんどのところが目標流量である毎秒2300tを上回っている(子飼橋~竜神橋間では、3000数百トン流下)ことを指摘し、立野ダムではなく、河川改修を進めることを求めてきました。
市民団体メンバーが請求し開示された「現況河道流下能力算定表」(2015年3月)によると、河川改修によって小碩橋下流の国管理区間(熊本市中心部)では、毎秒3500~3600t規模が流れるようになっており、流量がそれより低いところも、進行中の工事が完了すれば、河川整備計画レベル(毎秒2300t)はもとより河川整備基本方針(150年に1回の洪水・毎秒3400t)をも流れることになります。
堤防の「厚さ」「強度不足」を考慮したスライド堤防高でも「流下能力」は、すべて毎秒2300トンを上回り、そのほとんどが毎秒3000tを上回っています。スライド予防高でもほとんど毎秒2300トンを上回っています。
このように、ダムを建設しなくても十分に白川の河川流量の調節ができることははっきりしています。立野ダム建設事業の検証に係る検討報告書3・1・1「立野ダムの目的」として、「熊本市など下流域における洪水被害を軽減すること」としており、リスクが極度に高い立野ダムは不要です。
立野ダム建設のために、抜本的な治水対策が棚上げされた中流域
白川上流域(黒川流域)は、総合的な治水対策がすすめられています。ところが、中流域(未来大橋から立野まで)は、河川整備計画がつくられず、遊水地計画も具体化せず、中流域の安全が、意図的に低く抑えられてきており、治水対策はなお不十分です。
第1に、黒川流域で熊本県が進めている治水対策は、河道改修、輪中堤、宅地かさ上げ、遊水地計画など、総合的な治水対策です。
遊水地計画は、小倉遊水地は、掘り込み式(初期遊水地)21ha、2次遊水地(地役権設定方式。売買価格の約3割の補償、通常は農作物可能)65ha、手野遊水地は、初期遊水地10ha、2次遊水地40haとなっています。県河川課がまとめた資料によると、小倉地区遊水地では地役権対象地権者総数102名のうち不満者数はゼロ、手野地域では地権者総数44名の中で不満者数1名。1名は、買収希望者です。地役権方式遊水地計画は、農家の同意を得るうえで効果的な治水対策といえます。地役権方式による遊水地の設定は洪水調節機能において大きな役割を果たすことが既に明らかになっています。
平成23年7月、新潟県を襲った豪雨災害において、新潟県土木部管理課関係者がまとめたレポートによると、刈谷田川遊水地は毎秒180トンの洪水調節機能を発揮し、一方刈谷田ダムの洪水調節は毎秒100トン。合計280トンの洪水量が低減し、水位を、遊水地により35センチ、ダムにより19センチ、合計54センチ低下させることができたことを明らかにしています。地役権方式遊水地が、ダムを上回る治水効果を果たしたということです。
国交省は、(球磨川の)「ダムによらない治水を検討する場」第1回幹事会で、「大雨が降ったときに、川から水があふれて洪水にならないように、一時的に水を貯めこみ、下流の流量を少なくする(河川水を下げる)働きがあるとして、遊水地について、「掘り込まない」遊水地18ケ所で有効貯水容量約330t、「掘り込み」遊水地2ケ所で約330tとする検討諸元を示しています。
第2に、立野ダム事業の検証に関わる検討報告書(平成24年)によると、「中流部の遊水地増設、河道の掘削を行い、河川整備計画で想定している目標と同程度の目標の達成をはかる」治水対策案が検討されています。
この治水対策案では、「遊水地は、地役権方式では必要な治水効果が得られない」ので、遊水地は、「掘り込み方式にする」となっていますが大きな問題点があります。
まず、「地役権方式遊水地は必要な治水効果があげられない」と切り捨てていることです。これは、国交省、県の方針、実際の効果からして、一方的で是認できません。
次に、「掘り込み方式」の遊水地計画を立てていながら、実際の対策では、これも切り捨て、棚上げしていることです。「掘り込み式」遊水地計画の面積は130ha、深さは5~6mです。最大貯水量は約780万トンです。立野ダムの総貯水量は、約1000万トンです。この計画を実現すれば、立野ダム建設の根拠はなくなってしまいます。
中流域において、「地役権」「掘り込み」の遊水地を設置すれば立野ダムは完全に不要です。
以上の経過と内容は、国土交通省が、立野ダム建設ありきで、「地役権方式」遊水地を葬むり、「掘り込み式」遊水地も図面だけで、計画から意図的に外したと指摘せざるを得ません。
結果として、①中流域(未来大橋から立野)の安全性は、「河川整備計画で想定している目標と同程度の目標」以下におさえられた。②中流域の遊水地計画がなくなることによって、下流・熊本市の安全性も、意図的に低く抑えられた。③立野ダム建設を生き残らせた。ということが指摘できます。
中流域、下流域(熊本市)の安全をともに高めるために、必要なことは、以下の点です。
①「白川河川整備計画」では、基準点(代継橋)で、毎秒2300tの洪水を、立野ダムによって、200tカットすることになっています。立野ダム以外の治水対策で、200tをカバーできれば、リスク(危険、損害)が著しい立野ダムは不要です。なお、想定外の洪水では、立野ダムは、洪水があふれ機能しません。むしろ、穴が詰まったら、被害は想像を絶するものになってしまいます。未来大橋~立野間の河川整備計画をつくり、安全を高めれば、その効果は中流域にとどまらず、下流域(熊本市)の安全を向上させることになります。
よって、現在進められている、河道拡幅、河床の掘削、堤防補強、橋の架け替えなどについては、住民合意をもとに、速やかに完了させる。
②中流域の遊水地設置は、貴重な地下水の涵養にも一定の効果をもたらします。よって、県が黒川流域で具体化し、推進している河道改修、輪中堤、宅地かさ上げ、遊水地計画などのダム以外治水の総合的対策を、中流域で具体化する。
なかでも、「地役権方式では必要な治水効果が得られない」との「立野ダム事業の検証に関わる検討報告書(平成24年)」の一方的な断定、「掘り込み式」遊水地計画の棚上げについて撤回することを、県と国土交通省に求めること。
③流域住民、農家、ダム以外治水に詳しい専門家を含めた「中流域のダム以外治水を検討する場」を設置し、早急に河川整備計画を確定すること。
情報伝達などソフト面を一層充実する「白川防災・減災行動計画(タイムライン)」策定を
近年の異常気象による大規模水害と被害が、日本でも世界でも増大傾向にあり、「想定外」の大雨、洪水に対して、ハード、ソフト面での備えが不可欠です。
立野ダム建設、あるいはダム以外の治水対策、いずれであっても「想定外」の洪水には対応できません。立野ダムをつくれば、「超過洪水」による被害、ダムによる治水効果を加味したより狭い川幅、低い堤防などにより、被害は増幅することになります。
「想定外」の洪水に対しては、情報伝達の整備、地域ごとのハザードマップの作成、日常からの避難訓練など、ソフト面の対策の抜本的に強化が求められています。
国土交通省・水災害に関する防災・減災対策本部地下街・地下鉄等ワーキンググループ「中間とりまとめ」等にもとづいて、避難確保、浸水防止計画、浸水防止用設備(止水版、防水扉等)に対する支援など、「白川防災行動計画」(タイムライン)を下流域、中流域(小碩橋~未来大橋)に策定することが必要です。とりわけ中心市街地・地下街、地下空間を有する熊本市中心部対策を急ぐ必要があります。
以上のような理由から、以下の点について取り組んでいかれるよう要望いたします。
<要望事項>
1、 立野ダム建設は必要ないという立場を表明し、建設中止を国・県へ申し入れること
2、 国・県と協力し、「白川河川激甚災害対策特別緊急事業」として行われている明午橋上流のみらい大橋までの区間の工事が速やかにすすめられるよう市としても協力すること。その場合、河川改修ならびに関連工事の実施に当たっては、流域住民の意見を十分に聞き、計画に反映させながらすすめていくこと。
3、 この間県が、白川の治水対策として黒川流域で取り組んできた河道改修・輪中堤・宅地かさ上げ・遊水地計画は効果が明らかになっており、白川中流域でも具体化していくよう県に働きかけ、市として協力すること。
4、 白川中流域における遊水地などの治水対策は、実施すれば地下水保全にもつながっていくので、県・中流域自治体と協力して、流域住民(熊本市民も含む)・農家・治水の専門家を含めた「白川中流域のダム以外の治水を検討する場」を設置し、中流域の治水計画を早急に策定すること。
5、 避難確保、浸水防止計画、浸水防止用設備に対する支援など、「白川防災行動計画」(タイムライン)を下流域、中流域(小碩橋~未来大橋)においても策定すること。その場合、町内会・民生委員・消防団・自主防災クラブなど、地域との共同を図ること。
6、 白川の河川改修・整備計画について、市民への情報公開・説明責任を十分に果たしていくこと。
以上
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