吉田拓郎 2009年
あれから10年たつとは。。
ちょうど10年前の連休のとき、NHK FMでやっていた「吉田拓郎三昧」という特集で、最新のアルバムとして紹介されていた。僕はそれを録音したものをデータ化して、かなり長いこと繰り返し聞いていた。
先日「冷たい沼」という記事を書いた時、このアルバム(特に下で触れる「今は恋とは言わない」)が心に浮かんできた。これがきっかけとなり、CDを注文した。
全作吉田拓郎作詞、作曲、すべて書下ろしである。
僕は吉田拓郎という人は、その時代の日本の情緒、情景を見事に表現できる、たぐいまれな才能の持ち主だと思うけど(とかいって、そんなに熱心なファンというわけでもないのだけど)、本作にもそれを強く感じる。
同時に63歳になった拓郎の、肉声を感じさせるような息遣いを感じる。まだ自分はその世代の感覚を直に感じ取れるわけではないが、曲を聴いているうち、ちょうど世代的に近い、僕の叔父と話をしているような感じがしてくるのだ。
ちょっと、各曲ごとにコメントしてみよう。
1 ガンバラナイけどいいでしょう
CMで使われたらしいけど、このアルバムの中では一番間口が広いというか、多くの人に親しんでもらえるような曲だと思う。日によって、調子が出ないなんてのは、だれでも経験するよね。。
2 歩こうね
何度も言うのは悪いけど、63歳の拓郎が聞き手を、あるいは自分を鼓舞してくれる曲だ。
波がぶつかって くだけて行くように
それは人生という名の 旅だから
歩けるかい 歩こうネ
歩けるかい 歩こうネ
なにかに躓き、前に進む勇気を一瞬失った僕に、そっと語りかけてくれる。
それは拓郎が人生の先輩だからこそ、素直に聞ける言葉だ。
それぞれの世代には、その世代なりのお兄さん、お姉さんにあたる人たちがいて、歌ってくれたり、ラジオで悩みを聞いてくれたりするものだ。物心ついてラジオで音楽を聴き始めたころ、歌い手やDJとして語り掛けてくれるひとたちは、僕らより10歳以上先輩のひとばかりだった。
やがて自分が、若い人に語り掛けたり、悩みを聴いたりするようになるが、それでも時には、人生の先輩の言葉を聞いてみたくなる。
この歌を聴くと、今でも人生の先輩から、声をかけてもらえる幸せを感じる。簡単な歌詞だが、とても心にしみる。
3 フキの唄
とはいえ、ときにはそんな先輩の言葉も、説教臭いとかんじたりもする?!
4真夜中のタクシー
4年ほど前、こんなことを書いた。あのときのことはよく覚えている。地下鉄を降りて、郊外に向かう私鉄に乗るのが気づまりになり、一駅ぐらい歩くかと外に出たら道に迷った。気がついたらとんでもないところにいて、つかまえたタクシーの運転手と中年男同士の会話をする、という話だ。
このときのことは、鮮明に覚えている。
道沿いに見えるアパートの、取り込み忘れた洗濯物、家路を急ぐ若いサラリーマン、犬を散歩する主婦、まばゆい明かりのコンビニ・・。そして、まっすぐに歩くことすらできない自分。。異次元の世界に入り込んだような僕を、現世に戻してくれたのはタクシーの運転手さんだった。。彼、今でも元気でいてくれるだろうか。
5 季節の花
昔からの拓郎ファンは、こんな曲が好きなのかもしれないな。
6 今は恋とは言わない
陰鬱なギターの伴奏。水の底にいるような音は、そのまま先日書いた「冷たい沼」という言葉につながる。今の仕事に就いたころ、往復の電車の中でこの曲を聴きながら、今(の自分)は冷たく濁った沼の底にいるようなものだな、などと考えていた。歌詞のことは頭に入ってこず、曲の印象がとても強く残った。
歌詞そのものは夫婦(または長く一緒に過ごしている男女)の不和の話だ。若いころのケンカとちがい、互いに良いところも悪いところもわかっているつもりなのに、どうしても相いれない壁にぶち当たる。そんなこともあるものかな。。
7 ウィンブルドンの夢
この曲は若い人には絶対に作れないな。第一線を退いて、しかしなお余熱をもっている人たちにこそ、共感をさそう曲なのだと思う。まだ自分はその心境には達することはできないが、いずれ自分のものとなる日も来ることだろう。。
8 早送りのビデオ
FMラジオ「吉田拓郎三昧」のときは、この曲が繰り返しかかっていた。このアルバムを代表するような曲なのかもしれない。当時の僕もそう思っていたのだが、自分自身は人生を「早送りのビデオ」のようには思えない。なんか、「コマ送りのビデオ」とか、「巻き戻しのビデオ」みたい、つうかんじっすよ。あたしのあばい。。
9 Fの気持ち
後半のほうの歌詞に;
ギターがもしも女なら Fは男の権利なのさ
彼女の背中に手をまわす そんなスリルこそ人生さ
というのがある。そういうもんっすかね。。人生、味わい損ねたな。
10 あなたを送る日
ウィキペディアによると、70年代に吉田拓郎のマネージャーを務め、2008年に亡くなった陣山俊一氏をしのぶ歌なのだという。陣山俊一さんのことはもちろん知らないのだが、声は聞いたことがある。70年代の終わりごろ、吉田拓郎がDJをつとめていた深夜放送で、「陣山俊一の 奥様お手をどうぞ」というコーナーがあった。といっても、聞いたのは一回だけで、陣山氏がなにやら詩のようなもの(春の朝、冷たい風を頬に心地よく感じながら、橋のたもとにそっとたたずむ私・・)を読んで、脇で拓郎が突っ込みを入れるというもので、なんのことやらわからなかった。。この方、アメリカで理学博士号をとり、後年は制作会社の社長をつとめられていた由。
と、いうわけで、興味のない方には、この人何を熱っぽく書いているのかしら、と思われたかも知れませんが、なにとぞご了承くださいませ。。