(写真は京都の島原に今も残る わちがい屋さん。
島原にはこの他にも格子戸のきれいな角屋さんがある。
角屋さん近くには東鴻臚館跡(こうろうかんあと)があり、芭蕉の句も残されている。
『白梅や 墨芳しき鴻臚館』
第四回 浪花ハナガタカブキ (平成19年 4/1~4/8)
かたきうちてんがちゃやむら (敵討てんが茶屋聚)
四月某日。夫と芝居を楽しむ。
この浪花ハナガタカブキは一部、二部、三部に分かれている。長丁場なので、とりあえず一部と二部のみ。
驚いたことに、一部は通し狂言にもかかわらず、休憩時間 たったの十分。
私はさっさと手洗い所に駆けつけたことが幸いして、全てを見ることができた。良かった・・・
こんな手はずとは思いもよらない多くの観客は、花弁当を途中で片付け、芝居の続きを観ておられた。
時間にして三時間半。途中休憩十分間。
役者さんも気張られたものだと感心する。
この芝居はてんが茶屋をはじめ、大坂の各地を舞台にどたばたが繰り広げられる。
もともとは小芝居だったらしく、それを通し狂言にするといった工夫が必要。どこかしこに役者さんの思い入れや膨らましが感じ取れる。
内容がごくごく単純で、仇討物が枠組みとなる中、ユニークでユーモラスな工夫や演技、台詞など、表情が心地が良い。
何となくどこかで観たような場面も多く、それを探すのも楽しみの一つといえよう。
簡単にあらすじを書いておこう。
早瀬伊織(カンジャクA)と源次郎(キカク)は、元右衛門(カンジャクB=二役=兄)と弥助(シンシャ=弟)とを引き連れ、仇討ちの旅にでる。
父の敵、東間三郎右衛門(アイノスケ)。
酒乱癖の元右衛門は、途中断っていた酒を飲まされ、伊織に勘当される。
根に持つ元右衛門。
敵の東間に寝返り、按摩のふりをして、弟の弥助と再会。
不忠の罰が当たったと、詫びていきさつを話す元右衛門。
同情する弥助。
ところが・・・
寝入ったところで弟を殺し、五十両を盗んだ上、伊織は果せず、傷を負わせただけで逃げ出す。
後日伊織を殺し、源次郎も川へと投げ込む東間(アイノスケ)と元右衛門(カンジャクA)一味・・・。
最後には東間、元右衛門もろとも敵討ちにあう。
・・・・・といった、簡単な筋書き。
これを三時間以上に膨らませたカンジャクさんとアイノスケさん、その他の役者さんたちは素晴らしい。
敵役(東間、元右衛門)を中心に運ぶ筋立てだが、二人がどういうわけだか憎めない。
芝居の途中にはあれほど『悪い奴!』と許せぬ二人だったのに、最後の仇討ち場面では切なさすら感じてしまう。
大悪党のとことん悪人だが、人間くささ(元右衛門)或いはかっこよさ(東間)を感じて、殺されるのが口惜しい。
カンジャクさんの化粧は素晴らしかった。特に眉が良い。まるで住職が墨絵にで描かれたような達磨絵図に見える。
動きも達磨。台詞も酒飲み。
悪役なのに、どんで 人間臭い。
観客に笑いが巻き起こる。
小心者の癖に、人一倍意地っ張りで大胆なことを成し遂げてしまう。
若干現代における短絡的な事件を感じ、肌寒い。
隣席のご婦人は
『悪い奴、悪い奴・・・』
『大悪党・・・』
と結構大きな声で始終つぶやいておられた。
カンジャクさんのおかしみも人一倍。憎々しさも人一倍。
カンジャクさんの大熱演に圧倒されたお芝居。
また後半のアイノスケさんの格好良さは口では言い表しようがない。
顔を見せてからのアイノスケさんのメークはニザエモンさんによく似ておられ、 釘付け。
男前を絵に描いたような顔と衣装。
芝居が終わってから 夫に聞くと、やはりニザエモンに似ていると言う。
アイノスケさんはこういった化粧が好きなんだ・・・と思う私なのでした。
ところでこの『敵討てんが茶屋聚』はB級芝居と聞いていたので、あまり期待せずに気楽に行ったが、私的には結構気に入ってしまった。
若干 大○演劇を膨らませた感は拭いきれない。が、先にも書いたように役者さんの器量によって芝居は変えられるといった、柔軟性のある芝居。今回観た芝居は結構楽しめる、芝居として面白みにある作品に仕上げられていた。
カンジャクさんの表情が面白おかしく、素敵な上アイノスケさんが格好良すぎの男前で、何度も観たくなるような芝居。もう一度行きたいと真剣に思ったほどだった。
夫も「どたばただな。」と笑いつつ、「もう一度行っておいで。」といってくれる始末。
『ほんに、気をつかわしてすんまへん・・・』と感謝しつつ、『何で急に京言葉やねん。』と関西の突っ込みを入れて、ひとりほくそ笑む。
若い役者さんばかりだが、役者さんに恵まれた芝居だったように感じる。