
記録だけ
2009年度 122冊目
『腕くらべ』
永井荷風 著
大正5・8~6・10
『集英社に本文学全集 20』 より
2段 120ページ ?円
永井荷風の『腕くらべを読む。』
冒頭部分からいきなり帝国劇場。
話は歌舞伎の幕間から始まる。
腕くらべの【一】破その名の通り、幕あい。
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幕間に散歩する人たちで帝国劇場の廊下はどこもかしこも押し合うような混雑。ちょうど表の階段をば下から昇ろうとする一人の芸者、上から降りて来る一人の紳士に危くぶつかろうとして顔を見合わせお互いにびっくりした調子。
「あら、吉岡さん」
「おやお前は」
「何てお久しぶりなんでしょう」
「お前、芸者をしていたのか」
「去年の暮から……また出ました」
「そうか。何しろ久しぶりだ」
「あれからちょうど七年ばかり引いていました」
「そうか、もう七年になるかな」
幕のあく知らせの電鈴が鳴る。各自の席へと先を争う散歩の人で廊下はひとしきり一層の混雑。そのためかえって人目に立たないのを幸いと思ってか、芸者は紳士の方へちょっと身を寄せながら顔を見上げて、
「ちっともお変わりになりませんね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(文のとおり)
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から始まる芸者の駒代と吉岡との再開。
帝国劇場のようすと二人の再会のようすが目に浮かぶ、美しい出だし。
主人公の駒代は元芸者として出ていた。
十代終わりに結婚したものの夫が早くに亡くなり、夫の里には居辛い。
今は、新橋に戻ってまた芸者。
芸者の頃に海外留学のために別れた元の馴染みの吉岡と,帝国劇場で再会。
二人はまた深い仲となる。
駒代は役者の瀬川とも深い仲に。
ほほう。この辺りが達者だ。
ただ、役者との恋。
駒代に踊りの振付けなどから濃いに陥った。
瀬川は、自分自身も役者なのだから本来ならひたすら芸と人情を尊ぶ役者気質をこそ重んじるべきであるという。
だが、愛情よりも金銭を選ぶ。
馴染みの駒代を捨て、莫大な遺産を持っているという金持ち芸者君竜のもとへ。
一方吉岡は、はじめは駒代を引かせて自分だけのものにしようとする。
彼女が瀬川とも深い仲であることを知って駒代を捨てる。
当てつけにか、菊千代を引かせて店を持たせる。
そして吉岡は淫乱で肉体だけを売り物とする菊千代に溺れ、駒代を捨てて菊千代を妾にする。
永井荷風のユニークな部分はt頃どころ話のアクセントになる。
例えば芸者同士の会話。
芸者「吉岡さんはきれいです。(要約)」
駒代「そんなにきれいですか?私は仁丹の絵みたいに見えますけど。(要約)」
といった具合。
付いたり離れたり計算したり云々。
想像するような芝居がかった花柳会を垣間みた感じ。
この小説は、古風な芸者気質をわずかに残している駒代と、現代感覚の芸者菊千と、金持芸者君竜との腕の比べが読みどころ。
写真は大坂のえべっさんで見た、きれいな芸者さん。
小説とは無関係の美しい方です。
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