感想:私たちが星座を盗んだ理由

2016-11-26 23:11:44 | ミステリ



私たちが星座を盗んだ理由 北山猛邦
2011年作品


読みやすい文章と内容で作られたミステリ短編集。
収められている作品は5篇。




『恋煩い』

高校生のアキは毎朝すれ違う先輩に憧れ、
女子の間で噂になっている色々なおまじないに手を出し続ける。
幼馴染のトーコとシュンの協力もあり
先輩との距離が少しずつ近づくのを実感していく。


ミステリとして基本に忠実に進行する短編。
ちょっと邪道ながら、作中でもトリックの中身を
きちんと説明してくれるので推理小説を読まない人にもわかりやすい。
ストーリー的に結構凹む展開なのに
さらに後頭部をハンマーで殴られるようなラスト1行が素敵。


『妖精の学校』

記憶のない少年が目覚めた場所はどこかの学校。
自分と同じ境遇の子供たちが集められ
「妖精」となるべく教育を受けている。
そんな中、この場所の秘密を解き明かそうとする仲間もいた。


正直、この短編はすごいと思う。
白昼夢のようなファンタジックな情景描写に
まったく底の見えない謎。

最後の一行で舞台がどこなのか明かされるのだけれど、
ピンとこなかったので即座に考察サイトを見たらものすごく後悔した。
自分で調べて考えることができるように
作者がわざと解りづらい書き方をしたのであって
これは謎解きゲームのような楽しみ方をする作品。

そして舞台が判明しただけで
ガラリと作品のテーマが変質してしまう優れたトリック。
読み返すことで子供の視点から大人の視点に変わるあたり
叙述トリックと言えなくもないけれど、
読者が謎を解く面白さがミステリの枠を超えている。すごい。


『嘘つき紳士』

東京へ出たが借金を抱えてその日暮らしとなった青年が
偶然拾った携帯電話は交通事故で死んだ人間のものだった。
履歴を調べてみると、その男と付き合っていた女性は
いまだ事故の事実に気づいておらず、
青年は死んだ男になりすまし、なんとか金を引き出そうと画策する。


昭和時代の社会派ミステリの短編集を買うと
高確率でこういう話が入っているけれど、
それを携帯という現代のアイテムを用いてリバイバルさせた印象。

ひとつのストーリーを別な視点からもう一度読み返せるのが
2作目と同じくちょっとゲームのシナリオっぽい。


『終(つい)の童話』

とある王国の外れにある静かな村に、
突如「石喰い」という怪物が現れ
村の人々の多くを石に変えてしまった。

それから11年の時が過ぎ、
石化の呪いを解くことができる異国の男が訪れる。
村は歓喜に沸いたが、ある夜を境にして
石にされた人々が何者かによって次々と壊され始める。


"怪物"や"呪い"が作品を支配する明確なまでのファンタジー。
超現実が舞台となってはいるものの
フーダニットとホワイダニットに主眼が置かれていて
ミステリとしての骨組みがしっかりしている。

単に非現実をファンタジーと指すのではなく
そこにリアリティが必要であることを作者はよくわかってる。
短編なのに三文ラノベを駆逐できるほどの設定の秀逸さ。


『私たちが星座を盗んだ理由』

幼い姫子と病弱な姉の麻里、幼馴染の夕。
一緒に姉の病院へ通ううち、姫子はいつしか夕を好きになっていた。
ある日、夕は星座を首飾りにして麻里へプレゼントすることを姫子へ伝える。
空を見上げると、そこにあるはずの星座のひとつが消えてしまっていた。


ミステリ部分は少しでもネタをバラすと
一気につまらなくなる話なので黙秘。

決して微笑ましいストーリーではないのだけれど
健気な姫子の気持ちが可愛くもあり痛々しくもあり。
星座がテーマだけあって常に夕暮れ時のイメージで、
表題作として主張できるほどの色々なニュアンスを含んだ"美しさ"が
全編に詰まっている。





1作目2作目の出来の良さを見てしまうと
それ以降がちょっと尻すぼみな感じだけれど
どの作品もノスタルジーを含んだ淡い雰囲気が気持ちいい。

この作者は「ダンガンロンパ霧切シリーズ」も書いているらしく
若者にアピールできる読みやすい文体が魅力のひとつ。
各編の鮮やかなバリエーションはお得感があるとともに
ミステリの入門としても最適!


文章   ★★★☆
プロット ★★★★
トリック ★★☆
(★5個で満点)
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