感想:命を賭けた女

2020-05-12 06:25:43 | ミステリ



命を賭けた女 笹沢佐保 昭和63年出版


古い本の紹介を読んで欲しくなってもどこにも売ってないよ!!
なんてことがAmazonのおかげでなくなった。
いい時代になったなあ。

というか昨年の年末に本屋をブラついてたら笹沢佐保リバイバル復刊があった模様。
ファンとしては非常に嬉しい傾向。



【あらすじ】
頭脳明晰、容姿端麗である草狩夏彦は、主従関係にある佐山真一郎の命により
革新的な高級ナイトクラブ設立のための人材確保の命を受ける。

使命は全国各地から10人の女を集めてくること。
条件は「19~21歳で結婚・同棲の経験がなく、現在恋人がおらず、
水商売の経験もない無口で知性的な女性」。

金に糸目はつけないという佐山の言に従い、草狩は日本中を巡る旅に出る。




作品自体は昭和37年から昭和38年に連載された連作。
シリーズ物らしいので草狩と佐山の関係は前作を読まねばならんわけだが
残念ながら他の作品は未読。



サラリーマンの月給が3万円の時代。
入会金が100万円、会費で月20万円を支払うことで、
特別会員として最上級の10人が勤めるフロアへ入れる。

それに見合うだけの美しい女と次々出会う偶然は、
まあそういう話だからと割り切るしかない。
今でいうギャルゲーのような小説w

美しさゆえに悲劇に巻き込まれる10人の女をバリエーション豊かに描き出す才能。
女性だけではなく、ストーリー展開も多彩でアイデアの引き出しの多さに驚く。
各編の副題も「水を買う女」「雲を追う女」のように
シンプルかつ内容の気を惹く巧みさ。

連載小説だったこともあり、各編は山場で「次回へつづく」となり
次の話では前編のラストから次の女性との出会いへとつながる。

この作者の小説は男女の目が合うだけでヤってしまうような話が多いが
佐山の「対象には手を出すな」という縛りのおかげで
女性の魅力をまず文章でしっかり引き出してから籠絡していく過程の面白さがある。
場合によっては「結局ヤるんかい!!」となるのはご愛嬌w



高度成長期において日本全体がなんでも明るく見える状況で
さらにその中でも上級な舞台を用意しながら、
あえて退廃的な暗部を抜き出すのがこの作者の特徴。

しかもそれが現代の基準でも通じてしまい古さを感じさせないあたり、
世の中を見通す力が卓越していることが伺える。



10人の女性を集めてどんな大団円になるのか期待したところ、
唐突な変化球で終わらせるひねくれっぷり。
それも含めてこの作者らしい。

さながら自分も天外孤独な色男になったかのような、
昭和中期の日本を駆け回るかのような、
非常に没入感の高い小説だった。



満足度(星5個で満点)
文章   ★★★☆
プロット ★★★★
トリック ★★


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