安倍総理は米国とイランの『仲介役』として、ロハニ大統領、最高指導者ハメネイ師と相次いで会談した。両国の対立の構造的な要因もあり、もともと各国の期待が高かったわけではなかったが、ハメネイ師には米側との対話を即座に否定されるなど、『会談した』ということ以外には全く成果を挙げることはできなかったようだ。
戦争を回避するための仲介というのは、本来はもっとも価値のある外交交渉だと思う。
私は日本にはこの点において大きな可能性があると考え、インドネシアのアチェ和平で大きな成果を挙げノーベル平和賞を受賞したマルティ・アハティサーリ元フィンランド大統領を国会に招き、鳩山由紀夫元総理などとともに仲介外交について、具体的な手法などをヒアリングしたことがある。仲介者は徹底して中立であること、また双方が受け入れ可能な提案を行う権限を持っていることが必要条件になるが、そもそもイラン側は、安倍総理はトランプ大統領に追従するだけのメッセンジャーボーイと見ているに過ぎないことが改めて浮き彫りになった。これでは交渉にならない。
アハティサーリ元大統領がアチェで仲介役を果たす過程では、紛争当事者双方に信頼を築いているユハ・クリステンセン氏など、交渉に向けて徹底した準備を行う有能な人物の存在があった。しかし、日本側はハメネイ師に影響力のある宗教指導者との信頼関係を築いているとは言い難い。そもそも、トランプ大統領が一方的にイラン核合意から撤退し、核合意を守っているイランに経済制裁をしているのだ。この矛盾をトランプ大統領に直言し、イランが受け入れ可能な対応に改めさせる力を持つ人物でなければ仲介などできるはずがない。
https://blog.goo.ne.jp/xday0321/d/20111126 鳩山vsアハティサーリ会談の意義-国際紛争の調停者としての日本を目指すために(阪口直人ブログ『心にかける橋』)
私は2002年のアフガニスタン大統領選挙の支援活動でイラン国内のアフガニスタン難民キャンプを担当したことがある。この際に通訳やドライバーを務めてくれた方はもともと空軍のパイロットたちだった。今も私の家にあるペルシャ絨毯をプレゼントしてくれるなど尋常ではホスピタリティを発揮してくれた好人物だったが、彼らは断言していた。
「アメリカは必ずイランを攻めてくる。イラクとアフガニスタンで戦争を起こして親米政権を作ったのは最終的にイランの石油をターゲットにしているからだ。戦争の理由なんて何とでも作るだろう」
彼ら自身は決して戦争を望んでいるわけではなかった。しかし、イランの石油が早かれ遅かれ米国によるイラン攻撃の要因になると極めて冷静に分析していたのが印象的だった。
今回の『仲介』が参議院選挙に向けた国内パフォーマンスが主目的であり、国際社会における日本の仲介外交の将来の可能性を失わせるものになるとすれば非常に罪深いものと言わざるを得ない。
ノーベル平和賞受賞者・アハティサーリ元フィンランド大統領を囲んで
イラン国内のアフガニスタン難民キャンプにて
大統領選挙に向けてトレーニングを積む投票所監理要員と