博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『大秦賦』その5

2021年01月01日 | 中国歴史ドラマ
『大秦賦』第25~30話まで見ました。


華陽太后の推す楚出身の羋華と趙姫の推す斉の離秋公主のどちらを娶るか思い悩む嬴政だが、両方娶れば角が立たないと気付きます。そしてどちらを正夫人とするかは、秦では以後王后を立てないということでめでたく解決。これで始皇帝、二世の皇后に関する記録がないという帳尻を合わせるわけですね。しかしこうして見るとこの2人、双子の姉妹みたいですね……

その一方で、秦では人質に取っていた趙の悼襄王の兄の春平君を帰国させ、王位継承争いを起こさせようとしますが、倡女出身の悼襄王夫人が春平君を美人局で引っかけ、王位継承を諦めさせます。こんなの今時于正でもやらんやろと言いたくなる展開ですが (^_^;)

そしてここらへんで楚などの諸国から秦への民衆の逃亡が相次ぎます。これが諸国の対秦合従の形成へとつながっていくわけですが、この描写が史実に反している、覇権主義の現れだと中国で物議を醸している模様…… ただ、これが政治的プロパガンダなら、その前提として秦の善政をアピールしなきゃいけないはずなのですが、そういう描写は全くありません。正直批判としては穿ちすぎだと思うのですが、本邦の大河ドラマなんかでも特に来期のような近現代史物に関してはこれぐらいのツッコミはした方がいいのかもしれませんね。


前241年、趙・楚等五カ国が史上最後の合従を形成し、秦都咸陽へと迫ります。連合軍の総大将は趙の龐煖。凄くいい感じに枯れた爺ですが、中の人は『レッドクリフ』の張飛などの暴れ者の役の印象が強い臧金生です。


このピンチを嬴政に抜擢された王翦の策により切り抜け、連合軍は撤退。王翦の中の人は2003年版『射鵰英雄伝』の「西毒」こと尤勇智(尤勇)。『大秦帝国』シリーズには第1部にも出演し、龐涓を演じています。この「蕞の戦い」で樊於期は太子丹を見逃してやります。ここで2人のつながりが生まれるわけですね。


国家の危機に君主としての器量を見せたということで、いよいよ嬴政の親政が決定。気を良くした嬴政は近臣と狩りに出かけ、野生の馬と遭遇。ここで彼の異母弟成蟜がこの馬を馴らし、お褒めの言葉を貰うというイベントが発生。

嬴政が馴らせなかった馬を馴らしたということで評判が高まり、彼を王に推す声も高まります。成蟜自身は『キングダム』とは違って気性の良い単なるアホの子で政治的な野心もないわけですが、母の韓夫人は不安が隠せません。息子を早く封君にでもしてもらって母子2人領地に隠居したいと願うのですが、実家の韓国の兄に相談したところ、成蟜を韓に出征させて八百長で五城を秦に割譲させ、ゆくゆくは成蟜を秦王に押し立てようと、更に不安でたまらなくなるような計画が持ち上がってしまいます。

そして呂不韋の思惑もあり、出征が決定してしまい…… というあたりで次回へ。
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2020年12月に読んだ本

2021年01月01日 | 読書メーター
1984年に生まれて (単行本)1984年に生まれて (単行本)感想
1984年に国外に出奔し、放浪を続ける父の人生と、1984年に女性として中国に生まれ、人生に疑問を抱き続ける主人公軽雲、2人の人生の軌跡と交錯を描く。また軽雲の同級生たち21世紀の若者の人生の歩みは、我々日本人にとっても身につまされるものではないかと思う。そこへオーウェルの『1984年』的な世界観が薄く覆い被さるという構造となっている。大仰なディストピア小説を期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、中国現代社会の切り取り方としては充分面白い。
読了日:12月02日 著者:郝 景芳

ユリイカ 2020年12月号 特集=偽書の世界 ーディオニュシオス文書、ヴォイニッチ写本から神代文字、椿井文書までーユリイカ 2020年12月号 特集=偽書の世界 ーディオニュシオス文書、ヴォイニッチ写本から神代文字、椿井文書までー感想
偽書というよりは偽史の考察といった方がよさそうな論考も並ぶ。中国学に関係するものが少ないのが残念だが、宮紀子氏の文章は『東方見聞録』偽書説から話が「清明上河図」偽作説に及び、新居洋子氏の文章は、西洋人が『尚書』に注目したいきさつから、話がド・ギーニュのエジプト人中国植民説に及び、偽史のリンク史とでも言うべきか、ともに思わぬ方向に話が広がっていくのが面白い。越野優子氏の源氏物語に関する文章は、逆に「偽」でないもの=「真」とは何かを考えさせる。
読了日:12月05日 著者:馬部隆弘,小澤実,原田実,乗代雄介,呉座勇一

「中国史」が亡びるとき―地域史から医療史へ (研文選書)「中国史」が亡びるとき―地域史から医療史へ (研文選書)感想
著者のここ10年ほどのエッセー、評論をまとめたもの。時勢と著者の専門柄、新型コロナに関する話題も含まれている。日本に中国史の学会がないことで、歴史的事実をめぐる暴論に歯止めを掛けられないなどの種々の不具合が生じていること、中国論で問題となりやすい中国は特殊か普遍かという話、「資料はあるものではなく、つくるもの」という問題意識、日中韓で「世界史」が歴史を共有するきっかけになるのではないかという指摘が印象に残った。
読了日:12月07日 著者:飯島 渉

文字とことば (シリーズ古代史をひらく)文字とことば (シリーズ古代史をひらく)感想
漢字使用のはじまり、識字層の範囲、訓読の問題、口頭と文字との関係、仮名の位置づけ、和歌との関係、出土文字資料による成果と従来の研究との摺り合わせ等々、内容が思ったより多岐にわたっている。口頭から文字へという従来想定されていた変化は、実際には口頭から口頭プラス文字へという変化だったのではないかという指摘や、日本への漢字伝来の際の中継地点である朝鮮半島の重要性、記紀において万葉仮名の甲類・乙類を使い分けていたのが実は特別な措置だったという指摘が面白い。
読了日:12月10日 著者:吉村 武彦,吉川 真司,川尻 秋生

中国の歴史5 中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝 (講談社学術文庫)中国の歴史5 中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝 (講談社学術文庫)感想
「民族の時代」としての魏晋南北朝史を描き出す。「漢」に反発していたかに見えた「胡」が「中華」であると自認しはじめ、たとえば五胡から出たはずの北魏が自らを五胡から弁別しようとするといった動きをおこしていく。そして「中華」としての意識は「中国」の外の朝鮮半島諸国や倭国も持つようになっていくということで、古代の日本史も「中華」の歴史の中にうまく取り込んでいる。
読了日:12月13日 著者:川本 芳昭

西洋美術とレイシズム (ちくまプリマー新書)西洋美術とレイシズム (ちくまプリマー新書)感想
ノアの息子のハム、ハガルとイシュマエルの母子、イエスの誕生を祝福した東方三博士など、聖書にまつわる絵画の中の人物の描写を通して、レイシズム、更にはセクシズムやオリエンタリズムを読み取る。絵画が制作された、あるいは聖書が著述された当時の文脈を読み取るうちに、近現代の優生思想、現代の難民など、現在の問題を反映した文脈へとつながっていく。歴史的文脈と現在の解釈、この2つは容易に切り離せるものではないのだろう。
読了日:12月15日 著者:岡田 温司

中国の歴史6 絢爛たる世界帝国 隋唐時代 (講談社学術文庫)中国の歴史6 絢爛たる世界帝国 隋唐時代 (講談社学術文庫)感想
通史としてシリーズ中最もオーソドックスな構成かつ内容。唐王朝では皇后が空位の期間が長いこと、それを皇太子の地位が不安定で、嫡長子相続の制度が確立しなかったのと結びつけて考えていること、外交面では吐蕃の位置づけに注目していることが特徴か。煬帝墓誌や吉備真備関係の石刻など近年の大発見も承けて、文庫版の補遺は他の巻より比較的充実している。
読了日:12月18日 著者:氣賀澤 保規

北魏史 洛陽遷都の前と後 東方選書54北魏史 洛陽遷都の前と後 東方選書54感想
孝文帝時代を画期として、隋唐へとつながる存在としての北魏(+前身の代国と後継王朝)を描き出す。孝文帝の改革が単なる漢化ではなく中華の地の支配者となることを目指したものであったこと、北魏の仏教政策が廃仏を経て国家宗教化していくなど、従来とは異なる大きな性格の変化があったことなどを指摘。一方で隋唐を拓跋国家として評価することは、隋唐は北朝だけでなく南朝からも多くのものを継承しているという観点から違和感を示している。この点は逆説的で面白い。
読了日:12月21日 著者:窪添慶文

太平天国――皇帝なき中国の挫折 (岩波新書, 新赤版 1862)太平天国――皇帝なき中国の挫折 (岩波新書, 新赤版 1862)感想
近代中国の「ありえた可能性」として見る太平天国。太平天国では人間が皇帝を名乗ることを認めておらず、「天王」洪秀全とその他の王たちとの間で決定的な違いはないといった、従来の中国の政権とは異なる点と、「革命」勢力として後の中国共産党と共通する点とを取り上げる。また、彼らを鎮圧する側となった曾国藩を太平天国と表裏の関係で見る。強国化の道を突き進む中国に対して、中国社会が持っていた異なる可能性を提示するという手法は、歴史イフの果たすことのできる役割を示しているようで面白い。
読了日:12月23日 著者:菊池 秀明

アメリカ黒人史: 奴隷制からBLMまで (ちくま新書, 1539)アメリカ黒人史: 奴隷制からBLMまで (ちくま新書, 1539)感想
奴隷船からBLMまでアメリカで黒人たちが歩んだ道のり。黒人たちのよき保護者を自認しながらも、彼らの本音をまるでわかっていなかった南部白人たち、白人と協調しながら黒人の地位向上をめざすという方針をとり、白人から話のわかる人物として受け入れられたブッカー・T・ワシントンへの賛否両論、北部黒人の垢抜けない南部黒人に対する複雑な思いなどは、他の差別問題でも似たような局面があるかもしれない。
読了日:12月25日 著者:ジェームス・M・バーダマン

書聖 王羲之: その謎を解く (岩波現代文庫 文芸 330)書聖 王羲之: その謎を解く (岩波現代文庫 文芸 330)感想
王羲之の評伝かと思いきや、無論評伝の部分もあるのだが、その後の中国や日本での受容史、蘭亭序の真偽をめぐる論争など、関連する議論が中心で、王羲之(受容・評価)を軸とする中日書道史という趣きが強い。
読了日:12月28日 著者:魚住 和晃

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)感想
現代韓国女性が幼い頃から歩まされる道のり。彼氏の兵役など韓国ならではの要素もあるが、心性の面では日本も大差ないのではないか。ラストの一段に「現実」が示される。伊東順子氏の解説も良い補足となっている。
読了日:12月29日 著者:チョ・ナムジュ

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