博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2019年6月に読んだ本

2019年07月01日 | 読書メーター
死体は誰のものか: 比較文化史の視点から (ちくま新書)死体は誰のものか: 比較文化史の視点から (ちくま新書)感想
日本ではなぜ死体は隠されるのか?死体は一体誰のものか?(すなわち死体の処理を決める権利は死者本人も含めて誰にあるのかということ)そうした疑問に、中国学者でありクリスチャンである著者が取り組んでいく。日本の事例や考え方を、漢族・チベット・ユダヤ教とキリスト教のそれと比較しつつ、私たちの「当たり前」は果たして当たり前なのか?その当たり前は昔から変わりなく受け継がれてきたものだったのか?ということを考えさせる。
読了日:06月01日 著者:上田 信

壱人両名: 江戸日本の知られざる二重身分 (NHK BOOKS)壱人両名: 江戸日本の知られざる二重身分 (NHK BOOKS)感想江戸時代、武士の籍だけでなく百姓・町人など庶人の籍も名跡・株と化していた。それを維持するために、合法・非合法の手段により一人の人間が複数の名跡をなのる「壱人両名」が常態となっていた。ここからどのような問題を生じたか、当時の秩序や身分観はどのようなものだったのかを、豊富な実例の紹介とともに論じる。みんなが普通にやっていることで、普段は見過ごされているが、何かの拍子で重大な罪状になり得るものと考えれば、著者が終章で仄めかしているように、現代にも通じる視点を提供するものとなるだろう。読了日:06月03日 著者:尾脇 秀和

中国S級B級論 ―発展途上と最先端が混在する国中国S級B級論 ―発展途上と最先端が混在する国感想中国のB級ニュースは自虐的な自国批判の報道から生まれてきた、タクシーのシェアライドが普及した中国だが、タクシー関連の規制は日本並みに強固だったとか、興味深いネタがそこかしこに盛り込まれている。B級が基礎になってのS級中国、現在もなおB級とS級が併存しているという議論が展開されるが、本書で触れられるシャオミの発展のしかたは日本の電機製品の発展の径路と同様であるようにも思う。日本やアメリカの発展と対比して、殊更に中国にだけB級にこだわる意義がどこまであるのかという疑問もやはり感じてしまうが…読了日:06月05日 著者:高口 康太,伊藤 亜聖,水彩画,山谷 剛史,田中 信彦

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)感想一人一票という形のシンプルな多数決は本当に民主的なのかという疑問から、ボルダルール、コンドルセ・ヤングの最尤法など、代替案となり得る投票・集約ルールや、それらのルールがワールドカップの予選トーナメントなど、意外な場゛応用されていることを紹介していく。いまある現実をあるべき「民主主義」の姿と混同する愚、そして「対案」となるルールを作り出すためのヒントを教えてくれる。読了日:06月07日 著者:坂井 豊貴

日本で生まれた中国国歌: 「義勇軍行進曲」の時代 (シリーズ日本の中の世界史)日本で生まれた中国国歌: 「義勇軍行進曲」の時代 (シリーズ日本の中の世界史)感想中国の国歌「義勇軍行進曲」の作曲者聶耳、国民党政権の文化政策や映画の統制を担った邵元冲、その妻張黙君と、日本留学経験のある三人を中心に描く近代日中関係史。日本が中国にとって近代社会や文化を学ぶ入り口の役割を担ったこと、日本が中国を下に置き、日本への反発が強まっても、なお日本への関心を持ち続けたこと、日本側からも少数ながら現実の中国を認識し、正当に評価しようとしたさまが描かれる。相互不信の空気の中で相互認識を求める動きがあったのは、最後に著者が示唆するように、確かに現在の日中関係とも重ねられるかもしれない。読了日:06月09日 著者:久保 亨

諡-天皇の呼び名 (単行本)諡-天皇の呼び名 (単行本)感想天皇の諡号制度とその変化について総覧。在所号・山陵号などの一見機械的に定められていたかのように思える追号についても、加後号や自ら追号を定める遺諡が行われるようになると、漢風諡号と同様に「評価」の要素が加わるようになったというのが面白い。「光」の付く号については、帰納的な分析だけでなく、実際にどういう意図で贈られたかを記述した文献があると議論がより確実になると思う。読了日:06月12日 著者:野村 朋弘

増補 中国「反日」の源流 (ちくま学芸文庫 (オ-29-1))増補 中国「反日」の源流 (ちくま学芸文庫 (オ-29-1))感想本論では明清と江戸時代以来の日中の社会・統治構造の違いが近代化の過程や相互理解に影響を及ぼしたこと、中国が近代化を志したタイミングで日本がそれに逆行する対応を行ったことが双方の関係を抜き差しならぬものに追い込んだことを概観する。補論では、中国が一体であると主張したがるのは逆に中国が多元的であることを示しており、反対に日本は一元的であるので、中国蔑視となると官民こぞってという状態になってしまうという意見が面白い。読了日:06月16日 著者:岡本 隆司

台湾総督府 (ちくま学芸文庫)台湾総督府 (ちくま学芸文庫)感想台湾総督府、あるいは朝鮮なども含めた日本の植民地統治について、西欧の「異化」とは違って同化政策が展開されたという違いはあるが、単一産品の生産様式を押しつけられたという点、現地人による議会ではなく「御用」的な評議会が設けられた点、高等教育や就職での差別的待遇など、やはり共通点も数多い。台湾人の「親日」は、国民学校などの日本人教師個人への敬愛の念によるもの、あるい戦後の国民党による統治のアンチテーゼであり、「日本の統治がよかったからだ」というのは曲解であるという著者の指摘は肝に銘じたい。読了日:06月18日 著者:黄 昭堂

ブルボン朝 フランス王朝史3 (講談社現代新書)ブルボン朝 フランス王朝史3 (講談社現代新書)感想前半の近世の君主たちは、リシュリュー、マザラン、あるいは文化的パトロンとしてのポンパドール夫人といった人材に恵まれ、君主の資質の割に幸運に恵まれていたような印象を受ける。後半の近代の君主たち、革命発生以来失策を重ね続けたルイ16世、時代錯誤の政治思想しか持ち合わせていなかったルイ18世とシャルル10世の兄弟3人の歩みは、フランスが王を必要としなくなる過程として見ることができる。『百科全書』に関連して出てくる「文化は拒むことができない―それこそはブルボン朝の宿命だった」という言葉が印象的。読了日:06月23日 著者:佐藤 賢一

松永久秀と下剋上:室町の身分秩序を覆す (中世から近世へ)松永久秀と下剋上:室町の身分秩序を覆す (中世から近世へ)感想下剋上を体現した梟雄として知られる松永久秀だが、その実像は三好長慶・義継に忠節を尽くした人物であり、よく知られる奈良の大仏の焼き討ちや平蜘蛛の釜も事実とは異なるとする。久秀自身とともに、三好長慶と足利義輝の(肯定的あるいは否定的)再評価の書ともなっている。儒者の清原枝賢、キリシタンの内藤如安と高山飛騨守・右近父子、柳生宗厳など、意外な人物と主従関係を持っていたのが興味深い。読了日:06月26日 著者:天野 忠幸

事大主義―日本・朝鮮・沖縄の「自虐と侮蔑」 (中公新書)事大主義―日本・朝鮮・沖縄の「自虐と侮蔑」 (中公新書)感想明治期の日本で朝鮮の政治状況を揶揄する言葉として生まれた「事大主義」がやがて日本、沖縄の状況を批判する言葉として用いられるようになり、更には戦後の朝鮮半島にも持ち込まれるといった変転を描く。本書は言葉がひとり歩きしていくとはどういうことかという良い見本となっている。最後の、現代日本では「事大主義」が「空気を読む」といった場合の「空気」という言葉に置き換えられ、未決の問題として残されているという指摘が重い。読了日:06月28日 著者:室井 康成

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