言語学講義 (ちくま新書)の感想
言語学の講義というよりも、言語学にまつわるエッセー集という趣き。第3章の印欧語族というくくりが設定された経緯など、近代言語学の成立史が最も参考になった。本書で繰り返し言及される言語学研究者の記述的態度と規範的態度の問題は、先日読んだ『社会学史』で触れられている社会学者は「天使としての立場」に満足できるかという問題とも通じ、人文社会学系のすべての分野で問題になることではないかと思う。
読了日:04月03日 著者:加藤 重広
18歳からの歴史学入門の感想
高校の歴史教科書で触れられているような事項を大学の歴史学で取り扱うとどういう議論になるかというアプローチからの入門書。たとえば第2章「遣隋使の考古学」が歴史学で取り扱う史料が多様で豊かであることを示し、第10章「アヘン戦争の深層・真相」での「当時の清朝にアヘン戦争を避ける選択肢・可能性は存在したか?」という問いかけが、歴史的事件の本質をつかんだうえで議論する大切さや面白さを示すといった具合に、様々な具体的事例から歴史学の研究や発想とはどういうものかを教えてくれる内容・構成となっている。
読了日:04月05日 著者:
教養としての政治学入門 (ちくま新書)の感想
成蹊大学法学部政治学科の教員が各自の研究内容を一般向けに解説したものだが、第6章「戦争の経験とデモクラシー」や第8章「ロシアにおける第二次世界大戦の記憶と国民意識」など、「こういうのも政治学に入るのか」と、政治学の幅広さが感じられる内容になっている。政治学について学ぶというより、政治学の中で自分が興味を持てる研究を探るという方向での入門書。
読了日:04月08日 著者:
教養としての 世界史の学び方の感想
社会科学を専攻する学生のための世界史というコンセプト。「東南アジア」などの地理概念の恣意性をめぐる話が面白い。「イスラーム世界」のすべてを宗教性によって説明できるわけではないし、それは後付けの解釈ではないか、宗教とは別の枠組みで説明できるのではないかという指摘が重要。執筆者の指摘する通り、「中国」「日本」などの枠組みについても通用する話だろう。第12章で李光洙が朝鮮文学と中国文学との結びつきをネガティブにとらえたというのは、国書による元号制定にこだわる今の日本と重なるようでもある。
読了日:04月14日 著者:山下 範久
戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」 (集英社文庫)の感想
東北地方の知られざる歴史を記す古史古伝として持て囃された『東日流外三郡誌』が、裁判や真贋論争を通じて和田喜八郎なる人物の手による偽書であると暴かれる過程を描く。東北人の郷土愛に付け入るような形で受け入れられたこと、研究者がまともに取り合わずに黙殺したことが状況を悪化させたこと、一方でこれではいけないと危機感を抱いた人々の力によって偽書であることが明らかになったことなど、他の歴史問題や偽書問題にも通用しそうな事項が多く見出せる。
読了日:04月17日 著者:斉藤 光政
論語―心の鏡 (書物誕生-あたらしい古典入門)の感想
特に第Ⅰ部で、鄭玄・何晏・朱熹といった歴代の解釈者は『論語』をどう読んできたかを扱うが、『論語』に限らず経学とはどういうものか、古典を読むとはどういうことかを示している。現代日本では一般に否定される、解釈者の政治思想が『論語』の解釈を左右するという営みをネガティブに評価していないようであるのが面白い。
読了日:04月20日 著者:橋本 秀美
快絶壮遊〔天狗倶楽部〕: 明治バンカラ交遊録 (ハヤカワ文庫JA)の感想
天狗倶楽部というか押川春浪を軸に描き出す明治文化人・著名人交遊録。想像していたものとはかなり趣が異なり(天狗倶楽部の創設から解散までの実録物だと思っていた)、内容も取り留めがないが、思わぬところから思ってもみなかった有名人(尾崎行雄、佐藤紅緑・ハチロー父子、星新一の父親の星一など)とつながっていき、なかなか面白い。
読了日:04月23日 著者:横田 順彌
使える!「国語」の考え方 (ちくま新書)の感想
高校の国語教科書に掲載されている小説文の読み方、説明文・論説文の書き方、そして文章・情報のリテラシーの三部分から成る。国語の授業では何を目指されているのかという話で終わらずに、最後は人文学では知識がどのように出来上がっているのかを意識するようになることが目指されていると、人文学入門的な話へと橋渡ししていく。
読了日:04月24日 著者:橋本 陽介
戦国北条五代 (星海社新書)の感想
始祖伊勢宗瑞が中央の有力者伊勢氏の一族であった身から今川氏との縁によって関東に入り、現地人からはよそ者の侵略者と見られていたのが、次第に現地の戦国大名として根を張り、そして北条氏への改称によって関東足利氏の軍事的保護者としての地位を確立していく。その過程で今川氏との上下関係を克服し、関東管領職の競合相手である上杉氏と激しく対立する。織豊政権の成立により、最後は再び中央との関係が課題となっていく。中央から地方へ、そして地方から中央へという流れは、確かに著者の指摘通り、北条氏は戦国時代を象徴する存在である。
読了日:04月27日 著者:黒田 基樹
植民地から建国へ 19世紀初頭まで (岩波新書 新赤版 1770 シリーズアメリカ合衆国史 1)の感想
相互に独立性を保持し、同一の君主のもとに統合されているにすぎなかった13植民地が独立革命を経て1つの共和国となっていくまでを描く。アメリカの国名と「合衆国」という訳語の出現、ポール・リヴィアやベッツィ・ロスといった日本では知られていない偉人たちと建国神話の形成、独立宣言の位置づけの変化の話を面白く読んだ。
読了日:04月30日 著者:和田 光弘
言語学の講義というよりも、言語学にまつわるエッセー集という趣き。第3章の印欧語族というくくりが設定された経緯など、近代言語学の成立史が最も参考になった。本書で繰り返し言及される言語学研究者の記述的態度と規範的態度の問題は、先日読んだ『社会学史』で触れられている社会学者は「天使としての立場」に満足できるかという問題とも通じ、人文社会学系のすべての分野で問題になることではないかと思う。
読了日:04月03日 著者:加藤 重広
18歳からの歴史学入門の感想
高校の歴史教科書で触れられているような事項を大学の歴史学で取り扱うとどういう議論になるかというアプローチからの入門書。たとえば第2章「遣隋使の考古学」が歴史学で取り扱う史料が多様で豊かであることを示し、第10章「アヘン戦争の深層・真相」での「当時の清朝にアヘン戦争を避ける選択肢・可能性は存在したか?」という問いかけが、歴史的事件の本質をつかんだうえで議論する大切さや面白さを示すといった具合に、様々な具体的事例から歴史学の研究や発想とはどういうものかを教えてくれる内容・構成となっている。
読了日:04月05日 著者:
教養としての政治学入門 (ちくま新書)の感想
成蹊大学法学部政治学科の教員が各自の研究内容を一般向けに解説したものだが、第6章「戦争の経験とデモクラシー」や第8章「ロシアにおける第二次世界大戦の記憶と国民意識」など、「こういうのも政治学に入るのか」と、政治学の幅広さが感じられる内容になっている。政治学について学ぶというより、政治学の中で自分が興味を持てる研究を探るという方向での入門書。
読了日:04月08日 著者:
教養としての 世界史の学び方の感想
社会科学を専攻する学生のための世界史というコンセプト。「東南アジア」などの地理概念の恣意性をめぐる話が面白い。「イスラーム世界」のすべてを宗教性によって説明できるわけではないし、それは後付けの解釈ではないか、宗教とは別の枠組みで説明できるのではないかという指摘が重要。執筆者の指摘する通り、「中国」「日本」などの枠組みについても通用する話だろう。第12章で李光洙が朝鮮文学と中国文学との結びつきをネガティブにとらえたというのは、国書による元号制定にこだわる今の日本と重なるようでもある。
読了日:04月14日 著者:山下 範久
戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」 (集英社文庫)の感想
東北地方の知られざる歴史を記す古史古伝として持て囃された『東日流外三郡誌』が、裁判や真贋論争を通じて和田喜八郎なる人物の手による偽書であると暴かれる過程を描く。東北人の郷土愛に付け入るような形で受け入れられたこと、研究者がまともに取り合わずに黙殺したことが状況を悪化させたこと、一方でこれではいけないと危機感を抱いた人々の力によって偽書であることが明らかになったことなど、他の歴史問題や偽書問題にも通用しそうな事項が多く見出せる。
読了日:04月17日 著者:斉藤 光政
論語―心の鏡 (書物誕生-あたらしい古典入門)の感想
特に第Ⅰ部で、鄭玄・何晏・朱熹といった歴代の解釈者は『論語』をどう読んできたかを扱うが、『論語』に限らず経学とはどういうものか、古典を読むとはどういうことかを示している。現代日本では一般に否定される、解釈者の政治思想が『論語』の解釈を左右するという営みをネガティブに評価していないようであるのが面白い。
読了日:04月20日 著者:橋本 秀美
快絶壮遊〔天狗倶楽部〕: 明治バンカラ交遊録 (ハヤカワ文庫JA)の感想
天狗倶楽部というか押川春浪を軸に描き出す明治文化人・著名人交遊録。想像していたものとはかなり趣が異なり(天狗倶楽部の創設から解散までの実録物だと思っていた)、内容も取り留めがないが、思わぬところから思ってもみなかった有名人(尾崎行雄、佐藤紅緑・ハチロー父子、星新一の父親の星一など)とつながっていき、なかなか面白い。
読了日:04月23日 著者:横田 順彌
使える!「国語」の考え方 (ちくま新書)の感想
高校の国語教科書に掲載されている小説文の読み方、説明文・論説文の書き方、そして文章・情報のリテラシーの三部分から成る。国語の授業では何を目指されているのかという話で終わらずに、最後は人文学では知識がどのように出来上がっているのかを意識するようになることが目指されていると、人文学入門的な話へと橋渡ししていく。
読了日:04月24日 著者:橋本 陽介
戦国北条五代 (星海社新書)の感想
始祖伊勢宗瑞が中央の有力者伊勢氏の一族であった身から今川氏との縁によって関東に入り、現地人からはよそ者の侵略者と見られていたのが、次第に現地の戦国大名として根を張り、そして北条氏への改称によって関東足利氏の軍事的保護者としての地位を確立していく。その過程で今川氏との上下関係を克服し、関東管領職の競合相手である上杉氏と激しく対立する。織豊政権の成立により、最後は再び中央との関係が課題となっていく。中央から地方へ、そして地方から中央へという流れは、確かに著者の指摘通り、北条氏は戦国時代を象徴する存在である。
読了日:04月27日 著者:黒田 基樹
植民地から建国へ 19世紀初頭まで (岩波新書 新赤版 1770 シリーズアメリカ合衆国史 1)の感想
相互に独立性を保持し、同一の君主のもとに統合されているにすぎなかった13植民地が独立革命を経て1つの共和国となっていくまでを描く。アメリカの国名と「合衆国」という訳語の出現、ポール・リヴィアやベッツィ・ロスといった日本では知られていない偉人たちと建国神話の形成、独立宣言の位置づけの変化の話を面白く読んだ。
読了日:04月30日 著者:和田 光弘
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