はぐくみ幸房@山いこら♪

「森を育み、人を育み、幸せ育む」がコンセプト。株式会社はぐくみ幸房のブログです。色々な森の楽しさ共有してます♪

山中の危険な積雪

2017年01月24日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 雪がたくさん降ったのと、前回につづき、雪に関するお話を。

 先日、仕事で山に行ったら・・・

 

 雪が積もっていたわけですが、こういう所に危険が潜んでいます。

 どこかに穴がある・・・かもしれないからです。

 サクサクと雪の上を歩くと、くるぶしまでの穴があれば、脚を取られてしまいます。

 穴だけでなく、伐倒木と伐倒木の間なんかもあぶないです。

 もし、腰までつかってしまうと、自力で脱出することは困難です。

 

 奈良県の吉野で仕事をいていた頃、積雪した林道を終点まで歩いたことがあります(もちろん仕事で)。

 普段こんな感じの林道が、真っ白に。

 

 実際に、どう歩いたか、全く覚えていませんが、雪の中をサクサク歩きました。

 

 そして、その1~2カ月後。

 雪がなくなり、前回同様、林道を終点まで歩いたら・・・

 林道が谷まで崩壊していました。

 

 積雪時に歩いた時は、この崩壊があったのか、なかったのかは分かりません。

 もしかしたら・・・

 崩壊していた林道の上を歩いていたかもしれません。

 そして、運良く、落ちなかっただけなのかもしれません。

 もし、運が悪かったら・・・・。

 

 あと、枝葉に積った雪。

 新雪はやわらかいんですが、固まった雪が頭に落ちると大ケガを負います。

 雪景色は本当に美しいです。

 でも、命に関わるような危険も潜んでいます。

 

 それでも、山と雪の組み合わせは、美しくて好きなんですけどね。

 あと、滝が凍る”氷瀑”

2_2

 ”樹氷”

23

 あと、どうなってできたのかわかりませんが、大きなつらら(?)

Photo 

 ↑これはこれで面白いのですが、不用意に近づかない方がいいです。

  近づくと、滝が割れたとき、ナイフのように鋭く尖った氷でケガをすることもあります。

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木質バイオマス発電用燃料材 皆伐作業の生産性と収支について

2016年08月07日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 今回は研究論文のご紹介を。

 高知大学が、「木質バイオマス発電事業への供給を想定した架線集材による広葉樹皆伐作業の生産性と収支」という論文を森林利用学会誌(第31巻2号P85-91)で報告されていました。

 色々と課題のある木質バイオマス発電事業。

 広葉樹資源に手を出している方、出すことを考えている方もいるかと思います。(個人的には、何でもかんでも広葉樹を未利用材に含んでいいものなのか、という疑問を持っていますが・・・)

 (写真はイメージです)

 今回、広葉樹を皆伐・架線集材した場合の生産性と収支に関する調査報告で、いい調査だな~、参考になるな~と思ったので、簡単に内容を整理して、ご紹介します。

 ちなみに、原文を一字一句書き写したものではなく、個人的に分かりやすいかな~という表現に修正している箇所もあります。

 なので、以下の内容に誤りがあった場合、著者ではなく、僕個人の読解力不足による誤りですので、その点はご容赦下さい。
 

【目的】
 高知県では、薪炭林放棄地など未利用広葉樹林の割合が多く、このような広葉樹林を団地化し、森林経営計画を立て、認証未利用材としての利用が検討されているとのこと。
 そこで、木質バイオマス発電への出荷を目的とした広葉樹林の皆伐による生産性や収支に関する試験を行うことに。

【調査内容】
 架線は、エンドレスタイラー式(3胴集材機、直引力4t、支間斜距離603m、主索24mm)

 伐採面積は10.39ha(広葉樹7.25ha、ヒノキ3.14ha)

 そのうち、標準地プロット(20m×20m)を7箇所設置し、単位面積当たりの蓄積量を算出(推定)。

 伐木作業は2人(チェーンソー2台)。

 集造材作業は集材機運転手1名、荷掛手1〜2名、荷外手1名。(集材機運転手と荷外手がグラップルとチェーンソーで造材。)

 伐採作業の分析は、プロット内の作業を、集造材作業の分析は、プロット内とその付近の作業を対象に実施。

 調査対象は、伐区4(0.66ha)、伐区6(0.54ha)、伐区8の一部(0.52ha)。

 搬出された材は、長さ2mの丸太及び枝葉とし、11tトラックで運搬。

【結果】
 出荷量は、丸太が402.1t(37車分)、枝葉が22.2t(4車分)、混焼向け枝葉が148.0(26車分)t。

 合計572.2t

 丸太の買取価格は、工場着時の含水率(湿量基準含水率5%wb刻み)による変動制。

 価格は5,800円/t(46.1%wb)〜7,400円/t(39.2%wb)の間。

 平均価格にすると6,963円/t

 枝葉の買取価格は、3,800円/tの定額。

 混焼向け枝葉の買取価格は、証明書付き一般材で1,000円/t(35.0t)、証明書付き未利用材で1,500円/t(113.0t)。

 運搬費は、丸太も枝葉も23,000円/車、混焼向け枝葉は、土場買い取りのため0円/車。
 運搬費をt換算すると、丸太は2,117円/t、枝葉は4,153円/t、混焼向け枝葉は0円/t。

 運搬費を差し引いた販売収支は、丸太4,846円/t、枝葉−353円/t、混焼向け枝葉1,382円/t
(この時点で、枝葉は赤字。)

 出荷量あたりの事業経費は、伐木集造材作業のみで、9,984円/t

 架設を加えると、11,976円/t

 さらに作業道を加えると、13,215円/t



 全体の収支

 利益率の高い丸太のみで、4,846円/t平均3,749円/t
 架設と作業道作設を含めた経費で差し引きすると、3,749円/t-13,215円/t=9,466円/t赤字

 利益率が高い丸太4,846円/tと伐木集造材のみの事業費9,984円/tでも、5,138円/t赤字


 次に生産性(詳細は省略)。

 今回は、伐木集造材作業のみで2.55t/人日
 これに、架設作業を加えると、2.08t/人日

 平均買取価格の3,749円/tの場合、架設作業を含む生産性を6.65t/人日(3.2倍)にしないと採算が合わない
 利益率が高い丸太買取価格の4,846円/tで、作業経費を伐木集造材のみとした場合、生産性を5.26t/人日(2.06倍)にしないと採算が合わない。

 これに対し、改善策も書かれていましたが・・・・

・径の小さいものを現地に残し、径の大きいもののみ集材する、1度の集材量を増やす、架線作業の習熟度がまだ高くないので、技術向上が必要、路網と簡易架線・車両系の活用の検討など。

 今回の事例地は、地形条件により架線集材となったが、材価が低い広葉樹の皆伐作業では、可能ならば路網を整備して、簡易架線や車両系による集材方法を行えるようにすることが望ましい。

 失礼ながら、生産性を2~3倍にしないといけないなら、非常に苦しい改善策案だな~と思いました。

 でも、この試験・調査自体は非常に良いものだな~と感じました。

 あくまで一事例でしかありませんし、違う現場なら結果は違ったかもしれません。

 が、販売収支と生産性を数値化することで、木質バイオマス発電事業がいかにハードルの高いモノなのか、改めて痛感することができました。

 「天然更新できる広葉樹でバイオマス利用!」と安易に考えず、こういうデータも見ながら、慎重に進めないといけない・・・と思った次第です。

 この結果は、それを示す1つの指標になりそうだな~と思いました。

 

 専門的かつ堅苦しい内容の上、長文にも関わらず、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。 

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昔の刈払機は・・・とても重い

2016年05月22日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 以前、山で昔の刈り払い機を見つけたことがあります。
 

 貴重な資材やし、放置するのは環境に良くないので、持って帰ろうとしたら…

 めっちゃ重い

 部品のほとんどが鉄だから?、持つだけでも大変




 エンジンかけたら、振動も加わり、更に大変そう・・・。



 いや~昔はこんなん持って、作業してたのか

 振動病(白蝋病”はくろうびょう”)が多かった理由がよくわかる

 

 それに比べると、今の機械は本当に軽いな~

 

 ちなみに、この刈り払い機は、結局、重くて回収できず…
 担いで、下山できるような現場じゃなかったし・・・

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造林小屋

2016年05月17日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 戦後の拡大造林時代では、山の中に小屋を建て、山の中で泊まり込んで、植栽作業を行うこともありました。

 

 山の中で泊まることを「山泊(さんぱく)」と言い、

 

 師匠が「昔は、山泊して、木を植えたなー」と、当時のお話をいろいろしてくれました。

 

 きっと、今の若い方達には、「昔は、三泊して、木を植えたなー」って、解釈するんだろうなー、とジェネレーションギャップ?を勝手に感じます。


 山の中で泊まり込む小屋のことを「造林小屋(ぞうりんごや)」といい、今も各地で造林小屋、またはその残骸が残されていると思います。

 

 

 師匠は、食事やお風呂などの当番は、交代制だったり、みんなで協力して生活をしていたと言ってました。

 

 時々、買い出しのために下山し、購入した物資を架線で送ったりしていたそうです。

 

 師匠は、写真の造林小屋の近くにある小川の滝壺みたいなところに、アマゴを放ち、養殖していたと言ってました。

 

 ちなみに、写真撮影当時(2016年)では、すぐ手の届く範囲で、アマゴが泳いでました!

 

 たぶん、網がすくえます。そこまで、行くの大変ですけど・・・。


 さて、造林小屋の中はこんな感じです。

 

 ここは食事するところかな?

 

 

 

たぶん、寝室?、みんなが集まる場所的な部屋?

 

アンテナは無線?、もしかしてラジオ?

 

 

 食事、寝室、風呂もすべて共同です。

 

 ある日、師匠が食事当番で、ご飯を炊いたとき、炊飯器の中にネズミがいて、一緒に炊いてしまったそうです・・・。

 

 それを聞いた作業員さん達は、大笑いしながら、「さぞ、出汁が効いて、うまいやろなー」と言っていたそうです。

 

 衛生的にとんでもない環境ですが、そんな失態を笑って許してくれる環境が、とてもうらやましいと思いました。


 造林小屋は、道沿いに残っているものもありますが、やはり、山のど真ん中にある造林小屋が一番好きですね

 

 

 中に入って、「お宝ないかな~」って、探したくなるかもしれませんが、建物の傷みが激しく、大変危険なので、造林小屋の中には、決して入らないで下さい。

 

 あと、所有権の問題もあるので。

 

 

 

 

 昔の林業は、造林(植栽)のために小屋を作っていたという事実がすごい。

 

 昔の林業は、山村地域を支える重要な産業で、そこから生産された木材が都市を支えていた…と言っても過言ではないと思ってます。

 

 

 

 そして、戦後、職にあふれた人や帰国した兵隊の雇用や労働の確保という問題に、林業が一役をかっていたというお話もあります。

 

 伐採の仕事。

 

 伐採後の植栽の仕事。

 

 植栽に必要な苗木を作る仕事。

 

 これらが、戦後を支えた労働の1つだったと。


 

 以前、和歌山県田辺市の元苗木生産者(すでに引退)の方から聞いた話です。

 

 「戦後は、ここに来たら仕事をくれると聞いて訪ねてきた人が、たくさんおったんや。

 

 大阪からわざわざ訪ねてきた人もおったよ。

 

 でも、追い返すわけにもいかんから、仕事を作って与えたり、仕事を紹介したりんや。

 

 中には、妊娠中の妻を、家に置いてきて、単身で来た人もいたし、乳のみ子を抱えた夫婦もきたなー。」

 

 今でこそ、大阪-田辺は特急電車で片道2時間半くらいですが、戦後は大変な道のりだったと思います。


 

 インターネットもスマホもない時代、人の噂を頼りに大阪から和歌山県田辺市まで足を運ぶほど、当時は深刻な状況だったんだなーと思います。

 

 こういう事実は、当時、現場に関わった人達しか知らない事実であり、決して、統計数値などから読み取れる話ではありません。

 

 林業は収穫まで30年、40年、50年という長い時間がかかる産業です。

 

 現場を知るだけでなく、引退した先代や先輩達の話を聞くことも大事だと思います。

 

 今の価値観では、不要とか時代遅れと思われる技術や知識であったとしても、後世に引き継ぐことは重要だと思います。

 

 そこに、問題や課題解決のヒント、技術発展のヒントがあるかもしれません。

 

 もしかすると、今、起こっている問題の中には、過去の積み上げをないがしろにした結果、生まれてたものがあるかもしれませんね。

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二段集材

2016年05月14日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 昔のことを書いているうちに、色々書きたいことが出てきたので、今回は、師匠に連れて行ってもらった現地でのお話を・・・。

 下の写真、左側に長方形のような伐採跡地があります。

 決して、小規模伐採した跡地ではありません。

 当時、奥深い山など、架線を張って、1発で木材を搬出することができないときは、一度、別の場所に木材を搬出し、再び、そこから木材を搬出するという風に2回に分けて木材を搬出したそうです。

 今も、やっている現場はあるかと思いますが・・・。

 で、二段集材の名残のなる跡地へ行ってみました(って、10年前の話ですが・・・)

 

 見えていた現地は、こんな様子。

 

 集材機がどこにあったかは、分かりませんが、所々に作業の名残が。

 燃料缶・・・かな。

 

 これは、今(H28)から10年くらい前の話です。

 この現地を見たくて、崖のような道なき道を登りました。

 よくこんな所で、伐採したな&植栽したな・・・と思うくらいの急斜面。

 当時は20代前半。

 行き方は覚えているけど、体力的に、今は、絶対無理

 でも、当時の師匠より、今の僕の方が全然若いけど・・・

 

 だから・・・、昔の人たちって、本当にスゴイ

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森林鉄道

2016年05月12日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 木馬道に続き、森林鉄道について。

 森林鉄道は、木材運搬を目的とした林業専用の鉄道で、明治時代~昭和40年代にかけて、林業業界で活躍されていたそうです。

 これは、和歌山県の大塔山国有林にある森林鉄道の名残り。

  

 当時、小学校が授業の一環で、森林鉄道に乗って転落し、先生と生徒が犠牲になるという悲劇が起こりました。

 そのことを追悼するように、現地では当時のことを書かれた看板などが設置されています。

 

 次に、奈良県の大峰山に残る森林鉄道。

  

 森林鉄道・・・というよりトロッコ道の方が正しいのかな?

 下の写真がその車輪。

 この森林鉄道?は、完全に山の中で作られたもので、木材を集材機まで運搬するために作られ、動力は人力だったと聞いてます。

 木材を積み込んで、ひたすら押したんでしょうね。

 当時は、谷を跨ぐために橋まで作っていたようです。

 現地には、橋の支柱が残っていました。

 

 で、これが集材機。

 

 この集材機から林道終点まで、直線にして約1400mだったかな?

 1000m架線

 現地に3.2ミリ(かな?)のワイヤーロープも残ってます。

 

 林道終点から山に登ると、当時の集材機の名残もあります。

 これは、資材運搬用だったかな・・・?

 大峰山に残る森林鉄道を歩いたことは、僕自身、とても良い経験になりました。

 ここまでして木材を搬出する価値が、当時の木材にはあったんだと、実感できたから

 僕が生まれてから、木材価格は下がる一方なので、これまで、木材価格の高騰みたいな感覚を実感したことがありません。

 しかし、森林鉄道を歩いて、昔の木材の価値、林業という産業の規模という大きさを、初めて、実感・体感できたように思います。

 

 以下、個人的な所感ですが・・・

 森林鉄道のような搬出方法は、今の時代に合わないやり方ですが、一方で、今の時代のやり方に変換すれば、逆に生産性の向上やコスト縮減につながる可能性があるかもしれないと思っています。

 発想の転換で、昔の技術を現代にアレンジすることは、とても大切だと思います。

 そのためには、昔の技術を知らないといけない

 とはいえ、僕には、そういった技術の発想力も妄想力も、全然足りていない

 ので、いつまでも搬出技術を見て歩くだけでなく、そろそろ、実践しないといけないかな~

 今のところ実践している搬出って・・・・「人肩小出」だけ

 

 最後に、森林鉄道は主に国主体で作られたものが多いので、森林鉄道の概要を詳しく知りたい方は、林野庁のHPをご覧ください。

 http://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/eizou/sinrin_tetsudou.html

 余談ですが・・・昔、長野県は、森林鉄道の1駅毎に、営林署があったと聞いたことがあります。

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木馬道

2016年05月11日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 先日、有田川町(旧清水町)で山を歩いていたら、昔の木馬道(きんまみち)に出ました。

  

 真っ直ぐ伸びた針葉樹と木馬道って、個人的に美しく感じるので、歩くのが大好きです。

 そして、昔の人が木材を搬出した技術や道づくりの技術に感心しつつ、勉強になるので、とても楽しい。

 崩れずに原型が保たれている所がすごいな~と思います。

 もちろん、全部が全部、保たれているわけではありませんが・・・。

 

 こんな岩石も人力で砕いたんでしょうね。

 すごいな~

 

 ちなみに、「木馬(きんま)って何?」と思われた方へ。

 この木馬は、模型ですが、昔はこのようにして、木材を搬出していました。

 

 引いてみてもなかなか動かないし、下り坂は恐ろしいな~と思いますね・・・。

 いや~、ホント、昔の山行きさんはスゴイ

 

 ちなみに、木馬を”きうま”って、書いている書籍とかもありますが、たぶん、紀伊半島では”きんま”で統一されていると思います。

 というか、”きんま”が正しい

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広葉樹林化は獣害リスクを高めるのか。

2016年04月07日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 スギ林やヒノキ林を伐採した後に広葉樹を植栽すると、その周辺の林分で獣害被害のリスクが高まるのか?

 という研究が第127回森林学会大会にてポスター発表されていました。

 参考までに発表ポスターの写真は撮影させていただきましたが、ここへの掲載は控えます。

 広葉樹林化を進めた場合、シカやクマによる剥皮被害が高まる地域を色分けマップにして、分かりやすく、まとめておられました。

 シカによる剥皮リスク。

 関西をはじめ西日本は、ハイリスクの赤色が多く、九州(熊本県・宮崎県あたり)や四国(特に徳島県)も赤色が目立ちました。

 東日本は関東に赤色が固まり、北海道も赤色が多かったです。

 東北などの東日本では、シカの生息頭数が、今はまだ少ないものの、広葉樹林化が進めば剥皮を受けるリスクは高くなるとのこと。

 クマによる剥皮リスクは、全体的にハイリスクの赤色は少なかったです。

 

 さて、環境志向が高まる中、広葉樹林化の取り組みは進められています。

 しかし、この取り組みを進める裏側で、実は、獣害リスクを高めているということの認識を持つことが、これからは重要だと思いました。

 決して、広葉樹林化を否定しているわけではありません。誤解しないで下さい。

 植栽樹種がスギやヒノキであろうが、サクラなどの広葉樹であろうが、結局のところ、植栽地や伐採地、伐採跡地にシカは集まります。

 そして、伐採や植栽、作業道開設など山で行う施業は、「シカを増やす」ということに繋がっています。

 これから広葉樹林化を進めようが、再造林を進めようが、そういった行為そのものが、シカの繁殖を促していることを認識する必要があると思います。

 今回のポスター発表は、それを裏付ける1つの根拠になるな~と思った次第です。

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シカと森林の一体的な管理に取り組む先進的な対策事例

2016年04月03日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 今回は神奈川県におけるシカ対策についてのご報告です。

 神奈川県は、シカと森林を一体的に管理する体制を整えるため、2000年に「神奈川県自然環境保全センター」を設立。

 「一体的に管理する体制」とは、自然環境・狩猟・林業という行政の縦割り体制を取っ払った体制を意味します。

 今でこそ、「シカ対策」の1つとして、捕獲が重要視されていますが、10年以上前から神奈川県はそれに取り組むと同時に、行政も一体的に管理できる体制を整えていました。

 

 さて、神奈川県では、これまで「3度のシカ問題」に見舞われてきたそうです。

「1度目のシカ問題(シカの絶滅危惧)」
 明治時代の乱獲により、シカ生息頭数が100頭未満になり、1955年から1970年までシカ捕獲を禁止した。


 
「2度目のシカ問題(林業被害)」
 1960年代半ばから、人工林で食害が発生。

 1970年から保護柵を設置(公費100%)し、被害は免れたそうです。

 当時は、シカが絶滅の危機に瀕していただけに、「捕獲」という行為に対して抵抗があったそうです。
 

「3度目のシカ問題(自然植生へと被害拡大)」
 1980年代後半、人工林は柵により守られましたが、人工林よりも標高の高い天然林でシカ被害が発生し、次々と、希少な植物などが絶滅の危機に陥ります。
 

 被害の深刻さから、「防護だけでは限界がある。捕獲しないといけない。」ということとなり、シカと森林を一体的に管理する体制を整えるため、2000年に「神奈川県自然環境保全センター」の設立に至りました。

 シカ対策は「捕獲」と「保護柵の設置」を中心とし、捕獲は施業と連携して実施。
 

 2003年から管理捕獲を県猟友会に委託。

 しかし、捕獲の空白地帯があったため、2012年からワイルドライフレンジャーを雇用(3名)し、2014年はこれを5名に増員しました。

 2014年は524頭を捕獲(レンジャーは188頭)。
 
 シカは伐採地(跡地も含む)や植栽地に集まるため、林業における施業は、シカを増やす行為に繋がることから、各部署の担当者が集まり、現地視察を含めた打合せや会議を行い、次年度の計画を打ち出し、施業と連携した捕獲に取り組んでいます。
 
 人工林では、間伐を実施することで、下層植生が生えるものの、シカの不嗜好性植物や採食耐性植物が優占している状況です。
 
 神奈川県では、10年以上前から捕獲と保護柵による対策を進めていますが、それでも、植生回復は一部に限り、保護柵がないと守ることができない状況にあるとのことです。

 「これからも捕獲と保護柵の継続は必要。」

 

 シカの生息密度が高くなると、一個体あたりの「栄養状態」が悪くなります。

 1990年代のシカの栄養状態と、今のシカの栄養状態を比較すると、改善していることから、捕獲による個体数調整や植生回復が進んでいるようです。

 目標とする、生息密度は5頭/k㎡(キロ平方メートル)。

 しかし、これまでシカによる食害を受けてきた自然植生は、そのダメージが蓄積されていて、生息密度が限りなく0頭/k㎡(キロ平方メートル)にしないと、植生が回復しないとのことです。

 しかし、現状より、さらに生息密度を下げるためには、現在の捕獲体制の2倍以上にしないと困難だそうです。

 

 10年以上前から、行政機関の体制を整い、「捕獲と保護策の設置」に取り組んできた神奈川県。

 それでも、植生回復にはまだまだ時間と労力がかかる、ということにショックを受けました。

 あまりのショックで、「林業被害はその程度まで改善されたのか?」という肝心な質問もスッ飛んでいました・・・

 (これは別の機会に質問し、ご報告したいと思います

 

 木材需要が拡大し、良質な材が取引され、森林所有者に利益が還元できる林業が実現できても、植栽という最初の1歩で、シカに食害を受けてしまうと、元も子もありません。

 神奈川県の取り組みは、非常に先進的で、とても参考になりましたが、焦りが生まれたことも否めません。

 とはいえ、自分一人で捕獲できるシカの頭数は、限りがありますし、自分の実力では、微々たるものです。

 でも、1と0は違います。

 多くの課題を抱える林業業界ですが、少しでも被害軽減に繋がるよう、今年は、昨年以上に「シカ捕獲」に力を入れていきます

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木質バイオマス発電の燃料用材はどのように確保されているのか

2016年04月02日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 3月27日から29日まで、第127回日本森林学会に参加してきました。

(実は、仕事関係で出席したので、私的なブログに投稿することを悩みましたが、こういう情報は研究機関や大学関係など以外にも広く発信すべきかと思いましたので、投稿することにしました・・・。)

 今回は「木質バイオマス発電事業」関係で口頭発表されたものの中から、現場に役立ちそうな内容を簡単に報告したいと思います。

■中小規模の木質バイオマス発電事業の課題と可能性(森林総研)
 森林総研が「木質バイオマス発電の評価ツール」を開発しました。

 なお、評価ツールは無料で提供してくれます。

  詳細はこちら→「https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2015/20151009/index.html

 今回は、「発電出力1999kWの発電事業を経済評価」
 試算した結果、燃料チップ価格が9000円/t-40%w.b.以下等の有利な条件であれば十分に経済性ありだが、燃料チップ価格が上昇しただけで赤字になる。


■木質バイオマス発電の燃料はどのような形でどこから集められているのか?(東京農工大)

 アンケート調査の結果、燃料は一般廃棄物・一般木材・建築廃材・未利用木材の順に多かった。

 そのうち、未利用木材・一般木材・建築廃材を利用している施設を対象にアンケート調査を実施。

 結果、多くの施設がチップを購入。

 なお、未利用木材は県内調達、一般木材と建築廃材は県外調達という傾向が見られた。

 多くの施設が燃料確保は「十分」としていたが、未利用木材と建築廃材は、実績量が計画量を下回っていた。

 

北海道における発電所向け未利用材の供給ポテンシャルに関する考察(北海道)

 バイオマス発電施設は5基が認可、内3基が稼働し、未利用材の新規需要は約70万m3。

 カラマツは需給が逼迫し、発電所に供給できる余裕はない。

 トドマツは現行の1.4倍の伐採量で約40万m3の余裕はありそうだが、70万m3にはほど遠い。

 製材工場に影響を与え、工場が淘汰されるおそれも。

 北海道はほとんどが直送式のため、製材工場が淘汰されると運材費が増となり、運材距離に比例して打撃も受ける。


■木質バイオマス発電の立地による木材流通への影響(岩手大学)

 5基ある発電所の内、2基が稼働。

 現在は、既存の流通に大きな影響はないものの、稼働を控えた施設が集荷体制を構築し、先行して燃料材を集荷している。

 一方、パルプ工場では、買取り価格を上げるなどの対応を先行して行っている。

 パルプ用材との価格競争が予想されるが、今のところ燃料用材の価格が上昇するような動きはない。

 スギAB材は、価格低下で過剰感、スギCD材は、価格上昇で不足感とねじれが生じている。

 素材生産業者は、供給先に困っておらず、どちらが得か静観中。


■富山県における木質バイオマス発電所稼働に伴う低質材生産量の変化(富山県)

 低質材需要に対応した採材方法が素材生産業者の中で見直されている。

 従来の採材を「材質優先採材」、見直した採材は「材積優先採材」とし、収量や生産性の影響を調査。

 材積優先採材ではC材の生産量が35%増加し、利益は材質優先の方が材積優先よりも高い。

 今回の調査をベースに試算したところ、C材価格が7000円/m3以上あれば、材積優先の方が利益が高くなる。


■高知県における木質バイオマス発電の現状と課題(高知大学)

 木質バイオマス発電(2基)の稼働に伴い、供給量を60万m3/年に増加、需要量ではチップが増加。

 枝条は近距離で、未利用木材は100km超でも収益ありと試算された。

 製炭用材の搬出に併せた広葉樹資源の利用といった新たな動きも。

 2基とも稼働率は約80%を維持。

 広葉樹林を利用した新資源の開拓。

 ただし、運搬体制に脆弱な部分(車輌不足)がある、枝条の需要に対応できるよう利用体制の整備や運搬の効率化といった課題あり。

■宮崎県における発電用木材の安定供給の取り組み(森林総研)
 稼働している発電所は9基(既存5基、新規4基)。

 県内から未利用材を312千t調達予定、木質ペレット製造施設などの需要は58千t、合計370千tの需要に対応できる安定供給の体制が不可欠。

 調達側の安定供給への取り組みとして、既存の物流システムを利用、営業マンのスカウトや積極な営業の展開、山側や土場での取引、A〜D材の仕分け作業の引き受け、価格の引き上げなど各社で調達方法を工夫している。

 行政や関係業界団体は、収集、運搬、加工などの施設整備や低コスト化を促進したり、情報交換や普及啓発、協議会の設立や運営などに取り組んでいる。

 出荷側はAB材生産を主としており、発電用材を目的とした増伐等は行わない(AB材を発電用材にまわすつもりもない)。

 一部で低質な山を購入した事例はあるが、切り捨て間伐材を発電用材として搬出する動きはなく(採算があわないから)、そもそも現場では、まずは、AB材の生産効率を高めたい。

 出荷側は利益確保を優先したいので、工場着で価格が決まる状態では輸送コストを重視し、毎年現場が変わる場合もあるため、固定価格による取引契約は困難。

 また、売り手市場が生じている場合、出荷側が利益確保とリスク分散の観点から自由な取引を求める。

 

 以上です。

 長文で大変申し訳ございませんが、最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございます。

 ご覧いただいて、それぞれ感じることはあると思いますが、

 個人的な所感としては、予想通りといったところでしょうか・・・(チップ依存、切り捨て間伐には手を出さない、などなど)

 以前、長野県の「いいづなお山の発電所」を訪問した時、安定供給体制が上手く整っており、黒字経営で、しかも、銀行融資の補助金なしで2号機を建設されていました(2基とも2000kw未満)。

 地元はブルーベリーの生産が盛んで、剪定枝なども受け入れられていました。

 地元への貢献度も高く、銀行から融資を受けられるほどの信頼性。

 まさに、木質バイオマス発電事業のお手本という風に感じました。

  → http://www.mwwi.co.jp/hatsuden/power-plant/

 

 そして、2016年には、稼働する発電所が急増。

 木質バイオマス発電業界で言われている「2016年問題」が、今後、どのような所で、影響を与えるのでしょうか・・・。

 

※2016年問題については、こちら→http://news.livedoor.com/article/detail/10217710/

 以下、一部抜粋したものを掲載します。

 農林中金総合研究所の試算によると、2016年には427万トンの未利用木材の需要に対し、供給は412万トン程度に収まると見込まれており、在庫が尽きる2017年~2018年頃から燃料の供給不足が顕在することが見込まれ「2016年問題」として危惧されている。

・バイオマス発電事業者として「2016年問題」に対して打てる戦略は、シンプルに「輸入材の活用」ということに限られる。現状バイオマス発電において利用される主要な輸入材はPKS(パーム椰子がら)だが、この取扱量が2012年から2014年の間に10倍近く急速に伸びている。

 

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