はぐくみ幸房@山いこら♪

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天然下種更新 更新対象樹種の類型

2016年10月27日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 前回、天然下種更新の種類として、「側方天然下種更新」と「上方天然下種更新」について、お話しました。

 今回は、天然下種更新の対象となる樹種に関するタイプ分けについて、お話したいと思います。

 

 天然下種更新の対象樹種は「カンバ型」、「ブナ型」、「シラベ・コメツガ型」の3タイプに大きく区分されます。

 

1.カンバ型

 カンバ類、ハンノキ類、カラマツ、アカマツやクロマツなどの2葉マツ類といった先駆性樹種(パイオニア)と呼ばれる樹種がこれに分類されます。

 種子は風散布で、広範囲(約100m内外)に飛散されます。

(側方天然下種更新が当てはまります。)

 陽樹で耐陰性は小さく、稚樹は林内でほとんど発生せず、前生稚樹(伐採前の稚樹)も林内にほとんどありません。

 稚樹は、伐採後に定着(後生稚樹)するため、更新する場合は、母樹を点状・群状・帯伏という形で保残し、地表処理も行う必要があります。

(点状のイメージ)

(群状のイメージ)

(帯状のイメージ)

 カンバ型は、前生稚樹からの更新は期待できないので、後生稚樹が定着できるよう、明るい環境を整える必要があります。

 また、種子は風散布なので、残す母樹は、地形や風向きを考慮することも重要です。

 

2.ブナ型

 シイ、カシ類、ブナ、ミズナラ、タブノキなど極相樹種または準極相樹種となる広葉樹がこれに分類されます。

 種子は重力散布で、樹冠の端から数m程度範囲で散布されます。

(上方天然下種更新が当てはまります。)

 耐陰性は中庸で、稚樹は林内で発生するものの数年間のうちに消失するものが多いため、林内の前生稚樹も少ないです。

 稚樹は、伐採後に定着(後生稚樹)するものがほとんどで、もちろん前生稚樹が伐採後に成長するものもあります。

 なので、更新する場合、母樹はカンバ型同様、点状・群状・帯伏という形で保残し、地表処理も行う必要があります

 一応、前生稚樹が生存している可能性もありますが、メインは後生稚樹による更新です。

 カンバ型の樹種よりも耐陰性は高いですが、稚樹の成長には、ある程度の光が必要なので、林床を明るくする必要があります。

 また、カンバ型の樹種と異なり、重力散布なので、種子の飛散距離が小さいため、カンバ型よりも母樹を多く残す必要があります。

 

3.シラベ・コメツガ型

 ヒノキ、アスナロ、モミ、トドマツ、ツガ、コメツガ、トウヒなど極相樹種となる針葉樹がこれに分類されます。

 種子は風散布で、カンバ型ほど広範囲ではないが、樹高並もしくは、その2倍(強風に乗ると4倍になることも)の範囲で散布されます。

 陰樹なので耐陰性が高く、稚樹はブナ型と同様消失するものもありますが、残存すれば数十年は生存するため、下層植生にもよりますが、林内の前生稚樹が多いというのが特徴的です。

 → 

 更新する場合、前生稚樹を保護するような伐採方法を心掛ける必要があります。

 林内に多くの前生稚樹が残っていれば、林床を適度に明るくするように伐採することで、前生稚樹が徐々に成長し、更新が進んでいきます。

 前生稚樹が少ない場合は、カンバ型やブナ型と同様に母樹を残し、地表処理を行う必要があります。

 

 前回や前々回の記事でも言ったように、天然下種更新は、伐採後、放置するだけで成立するものではありません。

 伐採地の周囲に上記3タイプの樹種がどのように生育し、どのような配置で残すか、などといった点を考慮しないといけません。

 伐採前に残す母樹とその配置を考えることが重要なのですが、これは特殊な技術や知識ではなく、一般的な造林学の範囲です。

 

 再造林の時期を迎え、伐採後の天然下種更新を行う方や行おうと考える方が増えている(増えてくる)と思います。

 また、スイス林業を参考にした林業経営を考える方も増えてくることと思います。

 そのためには、天然更新施業に関する知識を有する方が、監督的な立場として、現場の方々へ指導・助言することも必要になってくるのではないでしょうか。

 個人的には、造林学と現場の技術を繋ぐ、そういう役割を担える人材が必要になってくる・・・と考えています。

 

 天然更新に関する記事は、今回で4回目となりますが、これまでに紹介した記事が、少しでも参考になればいいな~と思っています。

 5回目の次回は、天然更新の施業・・・・という内容をまとめようかと、考えているところです

 

※記事「 天然更新施業」へ続きます。*


天然下種更新 側方天然下種更新/上方天然下種更新

2016年10月23日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 天然更新は、「天然下種更新(てんねんかしゅこうしん)」と「萌芽更新(ぼうがこうしん)」に大きく分けられます。

 

 天然下種更新は、立木から落下した種子が発芽し、その稚樹を利用して行う更新を言います。

 萌芽更新は、樹木の伐採後、残された根株の休眠芽の生育を利用して行う更新を言います。

 一般的に使われている「天然更新」という言葉は、「天然下種更新」を指していることが多いかと思います。

 

 天然下種更新を行う場合は、森林を伐採し、林床に陽光が当たる環境を作る必要があります。

 ただし、立木の種子を利用した更新なので、全ての立木を伐採するのではなく、種子を生み出す樹木「母樹」を適切に配置するような形で残す必要があります。

 風で散布するタイプの種子は、小さくて羽毛の様な構造を持ち、種子の飛散距離が長い。

 落下して散布するタイプの種子は、種子自体が大きく、重量もあるので、種子の飛散距離が短い。

 種子の飛散距離に違いがある、種子の散布方法に違いがあるといった点を理解した上で、母樹を配置しないといけません。

 

 このような種子の飛散距離の違いから、天然下種更新を「側方天然下種更新」と「上方下種更新」に分類します。

 「側方天然下種更新」は、飛散距離が長い種子を利用した天然下種更新で、造林をしようとする場所に隣接するよう母樹を配置します。

←造林をしようとする場所に隣接する母樹が、風を利用して種子を散布する。

←尾根に母樹を残したイメージ図。

←両尾根に母樹を残したイメージ図。

 アカマツ、クロマツ、カエデ類、ハンノキ、ニレ類、カンバ類の樹種は、風を利用して種子を散布するタイプで、種子の飛散距離も長いので、「側方天然下種更新」に適した樹種といえます。

 

 「上方天然下種更新」は、飛散距離が短い種子による天然下種更新で、造林をしようとする場所に母樹を配置します。

←種子の飛散距離が短いので、造林をしようとする場所に母樹を残す必要がある。

 ナラ類、カシ類、ブナ、トチノキなどの樹種は、落下して種子を散布するタイプで、種子の飛散距離が短いので、「上方天然下種更新」に適した樹種といえます。

 

 天然更新を行う場合は、下図のようにすべての立木を伐採すると、更新が成立しない可能性が高まります。

 

 天然更新を行う場合、伐採する前に、

  どれを母樹として残すのか。

  残そうとする母樹の種子タイプは?

  種子のタイプによって、側方天然下種更新に適した母樹と上方天然下種更新に適した母樹の配置。

 と、ある程度の計画を立てておく必要もあります。

 

 ちなみに、更新の補助作業というのも、状況に応じて2つほど必要になります。

 1つ目は「落葉層の除去」。

 落葉層が厚いと、発芽した稚樹の根が土壌まで届かず、成長が阻害され、枯れる可能性があります。

 

 2つ目は「下刈り」。

 陽樹や陽樹と陰樹の中庸樹は、生育に陽光が必要です。

 なので、陽光を阻害するつる植物や雑草等を除去し、更新を促すことで、遷移が進み、より早く更新を完了することが可能となります。

 

 天然下種更新は、伐採後、そのまま放置すれば成立する・・・というものではありません。

 母樹を適切に配置するよう残したり、更新を早く成立するために補助作業を行ったりと、更新しようとする場所の条件や状況に応じた対応が必要になります。

※記事「天然下種更新 更新対象樹種の類型」へ続きます。※


埋土種子

2016年10月17日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 前回の「遷移」に続き、天然更新の話に入ろうと思いますが、その前に、天然更新に必要なもう1つの大切な知識を。

 それは「埋土種子(まいどしゅし)」についてです。

 森林内の土中には、樹木のタネがたくさん含まれています。

 そこに生育している植物から落下した種子(重力散布)、鳥やネズミ等が運んできた種子(動物散布)などがあります。

 ある種子は林内で発芽し、ある種子は発芽する事なく死んでしまします。

 その中で、落葉の下や土の中で休眠し、何年も生き続ける種子があり、台風などの自然災害や伐採等による攪乱によって、環境が変わると発芽する種子があります。

 このような種子を「埋土種子」といいます。

 埋土種子も寿命があるので、古くなった埋土種子は死にますが、それまでに新しい埋土種子が供給されるため、森林内の土中には、常にある埋土種子が蓄えられていると考えられます。

 このように埋土種子が蓄えられていることを「シードバンク(タネの貯蔵庫)」と呼びます。

 複数種類の樹木の埋土種子がたくさんあると、伐採後の天然更新も多種多様な環境でスタートできると考えられます。

 

 では、どうすれば、豊富な埋土種子を森林の土中に蓄えられることができるのか・・・。

 多くの埋土種子は、鳥によって運ばれます。

 樹木は、果肉質など栄養分が含まれる実をつくり、鳥に食べてもらい、その鳥が糞とともに種子を排出し、その場で発芽(もしくは休眠)します。

 

 鳥は飛びながら糞をすることができません。

 必ず、樹木などの上で止まらないと糞をすることが出来ません。

 鳥に種子を運んでもらう樹木は、「種子の散布先は樹木の下」であることを想定しています。

 

 なので、陽樹の場合、上層木がなくなるまで種子を休眠させるという方法をとるものが多いです。

(上層木が伐採されると発芽)

(上層木が枯死すると発芽)

 そして、陰樹の場合、日当たりが悪くても発芽できるので、その場で発芽し、少しずつ成長するものが多いです。

 樹種で例えると・・・

タブノキ。

 

 陽樹は日当たりが良くなるまで待機、陰樹は日当たりが悪くても影響が少ないので発芽する・・・という風に、陽樹の種子と陰樹の種子で、その戦略が異なります。

 埋土種子を作る陽樹は・・・・

 アカメガシワ、カラスザンショウ、タラノキ、イイギリ、ミズキ、クマノミズキなど。

   

 種子の寿命も樹種によって異なるようですが、少なくとも2年間は休眠できるようです。

 

 天然更新には、種子の供給源となる母樹はもちろん、埋土種子をたくさん蓄えることも重要です。

 そのためには、鳥が集まる森林環境を整えることが大切です。

 鳥は果肉質など栄養分が含まれる実を好むので、ヤマザクラなどが林内にあると、鳥は集まりやすく、多様な埋土種子を運んでくれます。

 ちなみに、ヒノキ林やマツ林では、埋土種子が広葉樹林より少ないという研究データもあります。

 その理由として、ヒノキ林やマツ林では、鳥が好む実を付ける樹木がない(少ない)ため、ほとんど集まらないから。

 

 植栽をせず、森林を再生させる「天然更新」は、種子による樹木の発生環境を整えることが重要です。

 特に、萌芽更新が期待できない場合は、その場所に十分な量の種子が存在しているのか、または、運ばれてくるのかが重要になってきます。

 そして、それらの種子が発芽できる適切な環境であることも重要です。

 なので、「埋土種子」の特性を理解することは、適正に天然更新や人工林の林種転換を進めるうえで、必要な知識だと思います。

 

※記事「天然下種更新 側方天然下種更新/上方天然下種更新」へ続きます。※

以下、関連記事

種子の散布~風散布~ 

種子の散布~動物散布「鳥散布」~

種子の散布~動物散布~

 

ハリガネムシ

2016年10月07日 | 昆虫類+αのお話

 カマキリに寄生することで有名なハリガネムシ。

 何年か前に、ハリガネムシが生態系を支えているという報告が注目されました。

 毎年、この時期にアップしようと思い、忘れること2年が経過・・・。

 ハリガネムシは、水の中で卵から孵化し、まずは、カゲロウなどの水生昆虫に寄生します。

 そして、水生昆虫が羽化するため、地上に上がります。

 このとき、水生昆虫がカマドウマなどに食べられると、水生昆虫に寄生していたハリガネムシが、宿主をカマドウマなど捕食昆虫に変えます。

 ハリガネムシの宿主として有名な昆虫は、カマキリですが、実はカマドウマ、コオロギ、ウマオイなどにも寄生します。

 これら昆虫は、いずれも肉食性もしくは雑食性の昆虫です。

 

 ハリガネムシは、水の中で産卵するので、再び、水辺を求めます。

 このとき、宿主を操り、水に飛び込ませるそうです。

 実は、ハリガネムシのこの行為が、渓流に住むアマゴなどの餌資源を支えていると報告したのが、京都大学です。

 とある試験で・・・

  カマドウマの川への飛び込みを抑制すると・・・

  アマゴによるカゲロウなど水生昆虫の捕食圧が増加。

  藻類を食べる昆虫の減少で藻類が増加。

  落ち葉を食べる(?。とされる)ヨコエビ類も減少し、落ち葉の分解速度が低下

 という結果が出たそうです。

 

 ハリガネムシの生態が、渓流の環境を支える1つの柱。というわけです。

 ちなみに、スギ人工林率の高い河川にはハリガネムシが少なく、そういう河川に住むアマゴなども少ないという傾向にあるらしいです。

 天然のアマゴを養殖(?)するには、ハリガネムシは欠かせない・・・と言っても過言ではないかもしれませんね

 実に生態系は繊細で複雑だな~と感じずにいられません。

 利用期を迎えた森林が多いわけですが、伐採後の再造林は林業経営重視か、生態系重視か・・・ということを考える時代でもあります。

 とはいえ、生態系に適した再造林って?

 何を植えればいいの?広葉樹ならなんでもいいの?植えずに天然更新の方がいいの?その後の施業は?

 昔の拡大造林によって、天然林が人工林へと林種転換されました。

 今度は、その逆を行おうというのですから、それなりのコストをかける必要もあります。

 シカ害もありますし、天然更新は「伐採した後、そのまま自然に任せる」なんて、そんな簡単なことではありません。

 このあたりのお話は、またいずれ・・・

 

 ちなみに、ハリガネムシの研究は、和歌山県有田川町(旧清水町)にある京都大学の演習林で行われました。

 思い起こせば、昔は、カマキリを解体して、ハリガネムシを取り出していました。

 この報告を聞いて、バチあたりものだと、過去を猛省


糞生菌

2016年10月01日 | キノコ・菌類のお話

 お食事中の方には、大変申し訳ございません。

 タイトル通り「糞」に関することです。

 一言に「菌」と言っても、ハンパなく種類が多く、名もなき新種がたくさんあると言われています。

 菌の中には、動物の排泄物「糞」を栄養源にしているものもあります。

 これを「糞生菌(ふんせいきん)」といいます。

 糞をエサにする昆虫もいるように、菌もいるわけです。

 彼らが存在するからこそ、山の中が糞まみれにならない。

 糞をキレイに掃除し、豊かな土壌生成と樹木の育みに貢献してくれています。

 影ながら森林の生態を支えている1つの柱なんです。

 

 これは、国指定特別天然記念物ニホンカモシカの糞に発生していた糞生菌。

 「盤菌類」というだけで、詳しいことは明らかになっていないようです。