林業木材産業業界では、長年、問題になっている「スギノアカネトラカミキリ(アカネ材)」にも、天敵生物が存在します。
関係者が見ると、「おっ!」と思うかもしれませんが、天敵防除の研究も行われていました。
本題に入る前に、まず、スギノアカネトラカミキリについて、簡単に紹介を(詳細は、いずれ別の機会に。)。
成虫は、スギやヒノキの幹に付いている枯れ枝に産卵します。
孵化した幼虫は、枯れ枝内部を喰い進み、やがて、幹内部に潜り込みます。
幹内部では(一般的に)2~3年間、棲み付き、幹内部の材を食べます。
そして、再び、枯れ枝に戻り、蛹室を作り、枯れ枝に脱出孔を作って、羽化します。
上の写真で言うと、青い矢印が初期幼虫の孔道、赤い矢印が終期幼虫の孔道となります。
幼虫が喰い進んだ穴は、きなこのような虫糞が詰まっています。
これを製材(柱や板)にしたとき・・・
幼虫の孔道や虫糞が表面に出てきます(ちなみに、上写真のアカネ材は、我が家の書斎に使用しています。)。
右写真の矢印は、黄色い矢印が孔道&虫糞、青い矢印がカミキリが侵入した影響により発生した青変菌(せいへんきん)です。
このようにスギノアカネトラカミキリが侵入した木材を「アカネ材」、「アリクイ材」などと呼びます。
同一樹種間におけるアカネ材の強度と一般木材の強度は、大きな差はなく、アカネ材は見た目上の問題だけで、材としての強度は問題ありません。
上の写真はアカネ材が使われた柱で、強度は問題ありません。
とはいえ、「見た目上の問題」が一番の大きな問題になるわけですが・・・
山主にとって、アカネ材は木材価格を下げられる要因になります。
売り手にとって、アカネ材はユーザーから苦情を言われる要因になります。
アカネ材を防ぐ方法は、枝打ちです。
それも磨き丸太や良質材(無節や四方無節など)を生み出すような枝打ちではなく、産卵場所となる枯れ枝を除去する枝打ちです。
枯れてすぐの枝ではなく、枯れてから約2年経過した枯れ枝に産卵すると言われているので、下枝が枯れてきそうになったら枝打ちをするだけで、被害を抑えることができます。
残念ながら、材価の低迷と枝打ちのコストから実践している方は、かなりの少数派だと思います。
タイトルの通り、スギノアカネトラカミキリにも天敵はいます。
1つは「アシブトクロトガリヒメバチ」や「クロアリガタバチ」などの寄生バチ。
幼虫に卵を産み付ける寄生バチ。
もう1つは「キツツキ」。
今回は後者について。
上写真2枚とも枯れ枝の下部付近をキツツキが突いたものです。
右写真の赤い矢印が、それです。(左写真だけだと分かりにくいかもしれないので。)
材を割ると・・・
材内に幼虫はいません。
ヤニで固まっているところが、キツツキが突いた箇所で、そこから幼虫が食べられたと思います。
スギノアカネトラカミキリの天敵「キツツキ」。
残念ながら、カミキリの生息密度低下に貢献できても、業界が望む防除は期待できそうにありません。
キツツキはある程度成長した幼虫を狙うので、結果、材内に孔道や虫糞が作られているので製材するとアカネ材に。
さらに生きた幹の部分を突くので、ヤニが出て、変色などを起こすかもしれません。
アカネ材に鳥害が加わった木材に悪化するかもしれません。
期待させるようなタイトルで、大変申し訳ありませんm(_ _)m。
ですが、何もせず、アカネ材を防除できる方法は、あまり期待できないと思います。
昔、寄生バチの研究もされていましたが、ある研究では寄生率は最大で約36%、最低で0%と言われています。
スギノアカネトラカミキリの生息密度を0にしないと被害は0になりません。
しかし、一気に0ではなく、少しずつ減少して、0になるので、やはり、アカネ材は発生します。
無理難題だと承知の上ですが、やはり、産卵場所となる枯れ枝の枝打ちが最適かと思います。